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ダイヤモンド婆さん

作者: 水銀党
掲載日:2017/11/12

「助けてくれ! 化け物が!」

「きゃああああ!」


 長閑な休日の夕暮れ。

 手をつないで帰る家族や、恥ずかし気に並んで帰るカップル。

 そんな温かい光景が、一瞬にして恐怖に染まる。


 緑色の皮膚をした恐竜のような化け物が町中で大暴れしている。

 化け物は何処から来たのだろうか、それは全く分からない。

 気付けばそこにいて、視界に映る全てを破壊した。


「おい、大丈夫か!」


 一人の少年が、彼の膝の上で血を流して倒れている少女へ叫ぶ。

 化け物が現れた時、運悪くその尻尾に薙ぎ払われたのだ。

 少年の背後から化け物が迫る。


「クカカカカ! さぁ逃げまどえ愚民ども! この怪人エメラルド様が世界を支配するのだ!」

「この野郎、この野郎……!」


 不快な声を上げて化け物の背中で嗤う謎の人物、怪人エメラルド。

 そいつは化け物と同じ緑色に輝いていた。とても人間とは思えない。

 少年は何も出来ない。

 出来ることと言えば精々、愛しい人の体を庇いながら怨敵に恨みの呪詛を吐きかけるくらいだ。

 化け物はその凶爪を振り上げ、少年に振り下ろす。


「畜生……」


 少年は全てを諦め、目を閉じる。

 間もなくその爪が自身を哀れな肉塊へと変えるのだろう。


「きぇえええええええ!」


 目を閉じた少年の耳に、奇怪な叫び声が届いた。

 それはまるで断末魔に近く、今にも細切れそうな高い声だった。

 あまりの奇声に、少年はその目を見開く。


「最硬の一撃を喰らいなッ! ダイヤモンドパンチ!」

「ぎゃああああああ!」


 ドガァン!

 爆発にも似た音が聞こえた後、目の前にいたはずの緑の化け物と怪人エメラルドが遠くの建物に向かって吹き飛ぶ。

 少年は夢を、いや死んだ自分が見た黄泉の幻想を見ているのかと思った。

 人間の何倍も大きい体の化け物が宙に舞う光景は、まるで子供の頃にみたアクション映像のようだ。


「ハッ、見かけばっかりだね!」

「だ、誰だお前は!」


 しわがれた声と共に、少年の前に煌く輝きが降り立った。


「え……?」


 その姿はまるで宝石の塊。

 透き通るような体が夕暮れの光を反射し、茜色に輝く。


「私の名前はダイヤモンド婆さんだ!」

「ダイヤモンド婆さん……覚えたからな! 覚えてろ!」

「ハッ、雑魚なんてこの歳になるといちいち覚えてられないよ!」


 ダイヤモンド婆さんと名乗った人物がエメラルド怪人に向かって走る。


「砕鋼の一撃を喰らいなッ! ダイヤモンドパンチ!」

「エェエエエメラァアアアアアルドォオオオオオオ!」


 そして怪物と怪人エメラルドを思いっ切り殴った。

 空を飛んで光になる怪物と怪人エメラルド。


「さて」


 ダイヤモンド婆さんは軽く手を払った後、振り返って少年に歩いてきた。


「え?」

「オイ、バカガキ。邪魔だよ」


 そして少女を抱きしめている少年を突き飛ばすと、少女を抱きかかえた。


「お、おい」

「病院に連れてく、大丈夫だ。まだ間に合うよ」


 そう言うとダイヤモンド婆さんはどこかへ走り去っていってしまった。


「……あ、ありがとう」


 少年はもう届かないであろう言葉を、ダイヤモンド婆さんが消えていった方向に呟いた。



 ◇◆◇



「ここか」


 少年はとある病室の前に立った。

 友人から聞いた、少女の入院している病室だ。

 深呼吸をした後、ノックをする。


「……どうぞ」


 中から重々しい声が響いてきた。

 それを聞いた少年は、ゆっくりと扉を開く。


「失礼します」


 部屋に入室すると、少年の愛する少女に痛々しげな器具が付けられていた。

 そして、少女が寝ているベッドの近くにはスーツで身を包んだ背の高い男。


「君か」


 男は立ち上がると、少年の前にゆっくりと歩いてきた。

 目の奥には静かな怒りの炎が揺らめいており、睨み付けられた少年はビクリと体を硬直させてしまった。

 これに比べれば先日の化け物など、赤子が吠えているようなものだ。


「何故、君じゃないんだ?」


 少年はこの男を知っている。

 少女の父親だ。


「何故君じゃなくて、ウチの娘が……!」


 男は拳を振り上げる。

 少年は動けない。

 化け物に爪を振り上げられた時の様に、少年は動くことが出来なかった。


「……いや、それは違う。な」


 男は振り上げた拳を、ゆっくりと降ろした。

 そして少年に背を向けると、再び少女が寝てるベッドの近くに備え付けられた椅子に座る。


「すまないが、今日は帰ってくれ」


 少女の父親の背中を見て、少年は何も言うことが出来なかった。

 静かに一礼した後、病室を出る。


「……」


 院内の無機質な通路を歩く少年の足取りは重い。

 白いタイルの床がどこまでも後ろに流れていく。


「前を向いて歩かないと壁にぶつかるよ、僕ちゃん」


 その声が少年の意識を現実に引き戻した。

 目の前は白塗りの壁、あと2歩でも歩いていたら思いっ切りぶつかっていただろう。


「なにかお悩みかしら?」

「あ……」


 少年が意識を引き戻してくれた声の主に振り返ると、そこには点滴の器具を手にして歩く老婆がいた。


「私で良ければ、相談に乗るわよ」



 ◇◆◇



「へぇ、女の子を守れなかった事を後悔してるのね」

「はい……」


 ここは病院の休憩室。

 少年は手に持ったココアの缶を握り締める。

 老婆が「驕るわよ」と言って少年に買ってくれたものだ。

 微かな温かさが、少年の掌に伝わる。


「うーん、それはしょうがないんじゃないかしら?」

「でも……」


 化け物が現れた時、少年と少女はデートの帰りだった。

 唐突に現れた化け物に対して驚き、動けなかった二人を化け物が襲ったのだ。

 そして少女は化け物に襲われた。

 少年がもし動いていたら、少女は助かったかもしれない。


「俺に……」


 もし自分に、あの時助けてくれたダイヤモンド婆さんのような力があれば。

 怪物を一撃でなぎ倒し、少女を助けられるほどの力があれば。


「僕ちゃん。私、もう死んじゃった夫がいるの」

「え?」


 老婆がそう言って少年に語り掛けてきた。

 なんの話だろうと思ったが、飲み物をご馳走してもらった手前、少年は耳を傾ける。

 老婆は少年に左手の薬指に付けたダイヤモンドの指輪を見せた後、休憩室の窓から一望できる街を愛おし気に眺めた。

 少年も窓の外を眺める。

 病院来るときは真上にあった太陽が、そろそろ沈みかけている。


「えっと……お気の毒に」

「ふふふ、いいのよ。普通に年取ってポックリ逝ったんだから」


 老婆は口元を押さえて笑う。

 何がおかしいのか、少年には皆目見当がつかない。


「僕ちゃんに覚えていて欲しいのはね、人は人でしかないのよ」

「……?」


 少年は老婆の言葉に首を傾げる。

 彼女が伝えたい言葉の意味が、よくわからない。


「人は不死身になんてなれっこないし、一人で世界征服なんてしようとしても無理なのよ」

「それは……」


 老婆はきっと少年に『身に余る願いを抱くな』と言いたいのだろう。

 だが少年は納得出来ない。

 人には、その身に余る願いが必要な時があるのだ。


「じゃあ人は、何が出来るんですか?」


 少年は老婆に質問する。

 なら無力な人間は、一体何が出来るんだろうか。


「そうね、何も出来ないかもだし、何でも出来るかもね」

「え?」


 老婆の言葉に、少年は思わず間抜けな声を出してしまった。

 その返答は答えになっているようでなっていない。

 矛盾しているし、わけがわからない。


「どういうことですか?」

「ある会社員で仕事をして、給料をもらい、引退後は家族と幸せに過ごして死にました。さて、この人は何が出来たでしょう?」

「え? えっと……」


 唐突な謎かけに、少年は戸惑う。

 何が出来た、というのはどういう基準で言うのだろうか。

 このサラリーマンは世紀の大発見をしたわけでもないし、世界征服をしたわけでもない。

 ただ会社で与えられた仕事を果たし、死んだだけだ。


「えっと、何も出来ていないと思います」

「ふふっ、じゃあ貴方も何も出来ないかもね」

「えぇ……」

「私はね、このサラリーマンは色んなことを成したと思えるわ」


 会社員で働いて給料をもらった。

 これは与えられた仕事を果たすロボットのような行為であり、会社員自身は何かを成したと思える人は少ない。

 下手したら会社員自身も自分の仕事が社会の役に立ったという自覚が持てない。

 だが会社員の果たした仕事が無ければ、その仕事が達成されることによって恩恵を受ける者が困るのだ。

 この時点で会社員は社会に対しての役割を果たしていると言える。


 引退後に家族と幸せに過ごした。

 これを社会から身を引き、日陰者となったと思う人間がいる。

 だがこれこそ会社員の成した最大の功績なのだ。


 会社員に配偶者がいるのなら、その人物の人生を彩っただろう。

 そして子供がいるのならば、その子供が人類の歴史を変える革命的な発明をするかもしれない。

 息子や娘がそれを出来なくても、孫が成し遂げるかもしれない。

 会社員は途轍もない可能性を未来に残したのだ。


「何も出来なかったと思えばそうかもしれない。でもね、無意味に思える人生も、きっと何か達成した事があるはずよ」


 少年は少女を助けることが出来ず、自分の無力を呪った。

 だが少年が本当にすべきことはそれでは無かった。

 少年がすべきことは自分の出来ることを探すことだったのだ。

 少女が怪物に襲われたのなら、傷付いた少女を目の前に呆けるのではなく、傷付いた少女を助ける為にどうにかして病院に運ぶ。

 それが本来あの時に少年がやるべき行動だったのだ。

 事実ダイヤモンド婆さんは、怪人エメラルドを倒した後に、少女を病院に運んだ。

 それが彼女にとってやるべきことだったからだ。


「あ……」


 少年は漸く自分の愚かさに気付く。

 そして立ち上がり、老婆に頭を下げた。


「ありがとうございます、おかげで目が覚めました」

「ふふっ、役に立ったのなら良かったわ」


 老婆はそう言って、少年に微笑んだ。



 ◇◆◇



「また来たのか」

「はい、今日配られたプリントです」


 少年は病室の机の上に何枚かのプリントを置く。

 少女の回復は順調らしい。

 今は眠っているが、何度か目を覚まして医師や両親と会話が出来たらしい。


「また明日、来てもいいですか?」

「……好きにしなさい」

「ありがとうございます」


 少女の父親も、出会った日にキツイ言葉を言ったにも関わらず、毎日少女の病室にお見舞いに来る少年に対して何か諦めたようだ。

 少年は部屋を出る前に少女の顔を見る。

 少女の寝顔は、とても安らかなものに見えた。



 ◇◆◇



 家への帰り道、少年の目には世界が光で溢れているように見えた。

 人間は何も出来ないけど、なんでも出来る。

 あの日老婆に言われた言葉で、少年の世界は変わった。

 今日帰ったら何をしようか、明日は少女のために何をしようか。

 それを考えるのが楽しくてしょうがない。

 そろそろ自分の家だ。

 今日の夕食は確か母さんが


「火事だ!」

「え?」

「化け物が火を付けて回ってる! 逃げろ!」


 少年の耳に、誰かの叫び声が聞こえた。

 微かに感じる煙の香り、遠くを見れば黒煙が空に向かって伸びている。


「え?」


 嘘だろう、

 少年は一瞬頭が真っ白になった。

 だって煙が出ているあの場所には


「俺の家……!?」


 少年の家だ。



 ◇◆◇



「クカカカカカ! 燃えろォ! 燃えろォ!」


 怪人エメラルドは、この前の恐竜のような化け物とは異なり、巨大なロボットに乗って火を放射している。


「救急車を!」

「無理だ! 火を消してもアイツがいる限り意味がねえ!」


 逃げる人々に逆流して少年は走る。

 先程から自分の母親の携帯に電話しているが反応がない。


「母さん!」

「おい! そっちはもう火の手が回ってる、行くな!」


 自分の家に走ろうとした少年の襟首を、男が引っ掴む。

 男の言う事は最もだが、少年は素直に従うことなど出来やしない。

 ひょっとしたらこの炎の海の先に、逃げ遅れた自分の母親がいるかもしれないのだ。


「母さん!」

「クカカカカ!」


 怪人エメラルドが狂った笑い声を上げて建物を押し潰す。

 少年はまた、見ているだけしか出来ない。

 こんな状況で、出来ることなどあるのか。

 自分の母親が無事であることを祈って、自分も逃げるしかないのか。

 それでいいのか。


「母さん!」

「下がってなバカガキ!」


 少年の耳に、しわがれた声が聞こえたと思うと、いつかのように少年は突き飛ばされた。


「来たな、ダイヤモンド婆さん!」

「この町に火を付けやがって、絶対に許さないよ!」

「クカカカカ、いいのかな? 私に構っている暇があるのか?」

「どういうことさね!」

「アレを見るんだな」


 そう言って怪人エメラルドがロボットのアームで指をさした先には、火に包まれた家のベランダで取り残さられて逃げられなくなった女性がいた。


「クカカカカ、助けてやらなくてもいいのかぁ!? まぁ私はそれを全力で邪魔するがな!」

「畜生がッ!」


 そう言ってダイヤモンド婆さんが燃える家に近付くと、怪人エメラルドは家の門に向かって高い火の壁を生み出した。


「これは……」

「クカカカカ、ダイヤモンドは世界一硬い金属、だが所詮炭素の塊に過ぎん……!」


 怪人エメラルドは火の壁を見上げて呆然とするダイヤモンド婆さんに向かって、嫌らしく笑った。


「お前の弱点は火……! さてどうするぅ? お前が助けてやらねばあの女は酸素不足で死ぬだろうなぁ!」

「決まってんだろ!」


 そう言ってダイヤモンド婆さん燃え盛る火の壁に向かって飛び込む。


「何ッ!?」


 ダイヤモンド婆さんの迷いの無い行動に驚く怪人エメラルドだが、その後腹を抱えて笑った。


「クカカカカ! あのクソババア、命を捨てやがった!」

「ダイヤモンド婆さん!」

「あぁ?」


 高笑いをするエメラルド怪人の足元に、一人の少年が口元を押さえて走って来た。

 こんな火に包まれた場所に、生身の人間がやってくるなど自殺行為でしかない。


「なんでこんなところに人間が……」

「きぃいいいいえええええええ!」


 疑問に思う怪人エメラルドが少年をどうするか考えていると、細切れそうな高い声と共に、火の壁から女性を抱えながら燃え盛るダイヤモンド婆さんが飛び出て来た。

 気絶している女性を一度地面に置くと、ダイヤモンド婆さんは少年に怒鳴りつける。


「おいバカガキ!」

「は、はいッ!」

「今すぐ病院に、この女を連れてきなッ!」


 ダイヤモンド婆さんの体は燃え続けている。


「で、でも」

「四の五の抜かすなッ! あの日言ったことをもう忘れたのかい!」


 そう言われて少年の身体は弾かれたように動き出した。

 今必要なのは、非現実的な目の前の光景に呆けることじゃない。

 言われた通りにダイヤモンド婆さんが救出した女性、少年の母親を病院に連れていくことだ。

 少年は全力を振り絞り、母親を背負う。

 火事場の馬鹿力とはまさにこのことだろう、普段は決して出来ないことを成し遂げるだけの力がみなぎってくる。


 母親を背負って走り去る少年を見送ると、ダイヤモンド婆さんは怪人エメラルドに振り返った。


「さて、始めようか?」

「クカカカカ、無理を言わない方がいい。もう腕も足も炭になっているではないか」


 怪人エメラルドの言う通り、ダイヤモンド婆さんの身体は殆ど燃え尽きている。

 右手と右足は既に燃え尽きていて、今は左足一本で体を支えている。

 その左足にも火の手が回り、自分を支えられなくなるのは時間の問題だろう。


「クソッ」

「死ねッ!」


 ダイヤモンド婆さんの体を、怪人エメラルドが操るロボットのパンチが襲う。

 吹き飛ばされて燃える家にぶつかるダイヤモンド婆さん。


「クカカカカ! 愉快愉快!」


 怪人エメラルドはダイヤモンド婆さんをこれでもかと殴り続ける。

 既に体を支える機能を失ってしまったダイヤモンド婆さんは、それに反撃することも逃げることも敵わない。


「やめろッ!」

「あぁ?」


 怪人エメラルドは攻撃をやめて声の主に振り返る。

 そこにいたのは先程ダイヤモンド婆さんに女性を病院に連れて行くように言われた少年だった。


「お婆さん!」


 少年はダイヤモンド婆さんに駆け寄り、助け起こした。


「バカガキ……母さんは逃がせたのかい?」

「お陰様で、救急隊員の人に助けてもらえたよ」

「そうかい、良かったねえ」

「今度は俺が婆さんを助ける番だ」

「ふふっ、ソイツは無理だね。言っただろう?」


 人間は何も出来ない。


「出来るさ、言ってくれただろう?」


 人間はなんでも出来る。


「ふ、ふふふふふっ! 言うねぇ。僕ちゃん、数日前はあんなにナヨナヨしてたっつうのに!」

「お婆さんのおかげだよ」

「そうかいそうかい……私はいいことをしたんだねぇ」


 そう言ってダイヤモンド婆さんは、唯一残った左手を口元に持ってくる。

 そしてその薬指を噛んだかと思うと、そこに嵌められていたダイヤモンドの指輪を歯で引き抜いた。

 そしてそれを少年の胸に向かって飛ばした。


「受け取りな、婆から最期の土産だよ」

「これは……」

「僕ちゃんの可能性を広げる道具、ってトコさね」


 ダイヤモンド婆さんの体が、先日病室に出会った老婆の身体へと変化していく。


「ありがとう、お婆さん」

「託したよ、僕ちゃん」


 老婆は息を引き取った。

 その顔はどこか満足気で、一切の後悔が無い者だけが出来る顔だった。


「クカカカカ、無様な婆だ。火葬いらずで良かったなぁ!」

「黙れよ」


 少年は老婆をゆっくりと地面に寝かした後、託された指輪を握り締めて怪人エメラルドを睨み付ける。


「ん~? クカカカカ! おいガキ、頭が高いぞ。お前も今すぐ婆の後を追わせてやろうか?」

「壊すしか出来ない非生産的な屑に、下げる頭なんてこの世界には一つもねえよ」


 少年は指輪を空に掲げる。

 指輪は燃える火の壁よりもずっと遠くで輝く夕日に照らされ、眩しく煌いた。

 指輪の煌きに呼応するように、少年の体が輝きだす。


「な、なんだぁ?」

「託されたぜ、お婆さん」


 輝きが収まると、そこには全身を夕陽に煌かせた少年が立っていた。


「そ、その姿はダイヤモンド婆さん!?」


 動揺する怪人エメラルドに、少年は走り寄る。


「俺はダイヤモンド婆さんじゃねえ」


 そしてロボットのコックピットにいる怪人エメラルドに向かって飛び上がり


「ダイヤモンド少年だ!」

「く、来るな!」

「最高の一撃を喰らいなッ!」


 思いっ切り拳を振り抜く。


「ダイヤモンドパンチ!」


 少年はきっとこれから、途轍もないことを成し遂げるだろう。

 それはひょっとしたら何も出来なかったように見えるのかもしれない。

 でも少年は必ず何かを成し遂げるのだ。

 老婆が死の直前まで何かを成し遂げたように、私達はいつだって、なんだって出来るのだ。


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