第二十三話
俺は今、布団で簀巻きにされて、部屋に転がされている。
……さかのぼること昨日。大久保さんと会った俺は、徳川慶喜を暗殺する決意を固めた。
とはいえ直接慶喜公と会えるのはウチじゃ近藤さんだけ。なので近藤さんを説得しに行った。
……無事な方のグーで殴られて追い返された。
仕方がないのでウチの優秀な暗殺者を選抜して大阪城に送り込もうとした。山口(斎藤)くんとか、原田くんとかね。
そしたら『土方さんご乱心』とか言われて力づくでぐるぐる巻きにされて、部屋に転がされているのである。この状態じゃ身動きできない。
なんか『殿中でござる!』とかリアルに言われたよ。
どうも過労で乱心したと思われているらしく、隊士達から差し入れだか見舞いだかが次々と寄せられている。えー、何々……『実録・昼下がりの長屋妻』『旦那様とお風呂』『覗かれた厠』? ……お前ら……orz
つかウチの識字率の高さと春画の出回り率は異常すぐる。先生は鼻が高いですよ。
さらになになに……『親父と俺の華麗なる日常』……誰だ、ホモ春画持ち込んだやつぁ切腹だ切腹!!
……俺……一応慕われてるんだろうか……。そうだといいな……。
そして簀巻きにされたまま年が明けました。慶応四年。もうなんか色々台無しです。
多分すぐにでも戊辰戦争が始まっちゃうでしょう。でも俺、手も足も出ません。簀巻きだからね。マジどうしよう。このままだと五稜郭に一直線……ルートが一本しか見えませんどうしよう!!
おk落ち着け俺。あっちょっと山口君、この縄ほどいてくれない? 俺もう冷静だからさ。ちょっと道場で稽古したいだけなんだってばウン。いやマジで信じてよ。なんだったら見張っててもいいからさ、ね、オネガイ。
山口君は無言で縄を外してくれました、いい人です。でもそのまま俺の監視になりました。まぁ、見つめられてるだけだから害はないわな。
俺は道場で一人、木刀を握り締めた。二、三度振ってみる。全然手になじまねぇ。
剣術と一口に言っても流派だけでもいろいろあるし、技だって色々ある。薩摩示現流が主に得意とする力を込めた上段からの初太刀。北辰一刀流に見られる正眼からの薙ぎ。伊東先生にフルボッコにされたときはこれを散々食らったっけな。それに、神道無念流。永倉と戦って一度だけ勝ったあの試合では、上段に構えたアイツのすっかすかの胴をひたすら突きまくったっけ……。
ちなみに天然理心流はなんでもアリだった。木刀で叩かれるわ棒槍で突かれるわ、ぶん投げられるわ……懐かしいなぁ、多摩の道場。
俺は決して強いわけじゃない。むしろ弱い。けれど新選組にいる為には強くなくてはならない。
なので弱くとも強くあれるよう、たった一つの技に特化して稽古をしてきた。それは突き。斬るよりわずかながらリーチが長く、かわされても他の技に繋げやすい。真似する隊士が出るほどに、それは効果的だった。山南さんに相談して技術を高め、近藤さんに話してその技を磨いてもらった。
あとは、一人で行動しないこと。これはとにかく徹底した。弱くても数が多ければ勝ち易い。同じレベルなら尚の事。
もう一度、今度は突いてみる。木刀が一点を貫き空気の流れが変わる。
なんかちゃぶ台ひっくり返したくなってきた。そもそもインドア派の俺が何でこんなとこで木刀振ってんだ? なんで徳川慶喜をいかにして暗殺するかなんて考えてるの?
ひたすら引いて突く事を繰り返す。少し汗がにじんできた。
もう少し訓練してれば、俺が刺客になって暗殺することも可能だっただろうか。……多分無理だな。というかそれをやったら新選組の仕業だってバレバレでフルボッコ食らう。あくまでも闇に乗じて討たなければ意味は無い、そして俺にその技量はない。
「斎藤」
控えていた彼の名を呼んだ。あ、間違えた、まあいいや、通じてるし。
「今、徳川慶喜公を打倒する以外に、新選組の生き残る術はあるか?」
「………………少なくとも、それは会津公の本意ではありますまい」
そだね。あの方はあくまで幕府、将軍を第一とする人だからね。
「質量的にも錬度的にも、幕府側が勝てる可能性は薄い。ついでに言うなら時の運も薩長の味方をするだろう。俺らの尊王の志はもうすぐ終わる。次の戦で我ら幕府は朝敵になる。新選組は、それでも破滅に向かって戦い続けることしか出来ないのか?」
「元々、拠り所の無かった我らを拾い上げてくれたのは松平容保公。その恩を返さずして、何が武士でしょうか」
武士……ホント、重い言葉だよなぁ。俺武士じゃないからっつって逃げ出したいな。でも、俺一人ならまだしも、新選組を救うにはそれじゃ駄目だしなぁ。……はー……泣きたい。
「斎藤、ちょいとお使いを頼まれてくれるか?」
「慶喜公暗殺などという無茶な指令でなければ何なりと」
言うようになったね、君も。
「今年、いつごろになるかはわからんが徳川の海軍副総裁に幕府軍艦乗組頭取の榎本武揚殿が就任する。その前に彼と連絡をとって、俺の言葉が彼に通るようにしておいてほしい。ついでに君はもうちょっと視野広げるためにも彼の話をよーっく聞いといで」
「……承知しました。……土方さん」
ナニ?
「あなたには未来が見えているのですか?」
……さぁ、どーだろね。未来を覆すために四苦八苦はしてるんだけどねぇ。




