表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『死』の概念は削除されました  作者: 日華てまり
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/83

67話 勘違いしろよ

 



「……なんで、そんなこと聞くの? ……あたしが誰を好きになったって、真人には関係ないでしょ……」


 ――ズキン。

 突き放すような莉奈の言葉に、細い針で心の柔らかいところをつつかれたみたいな、鋭い痛みが真人の心臓を締めつけた。


(……なんで、なんて。俺にだってわからないけど、優斗は……お前にそんな、女みたいな表情をさせるのか……)


 長い時間を共にしてきたのに、初めて見る莉奈の表情に真人は酷く苛立った。その表情が、悲しいものであることが尚更許せなかった。


「お前が、俺以外のやつの前で泣くのは、なんか……嫌なんだよ」


「なに、それ……」


「……そんな表情するくらいならやめとけよ。俺は、莉奈には笑っていて欲しいんだ……」


 優斗を好きだと誤解されていることも、まるで自分に関心があるみたいな言葉を使う真人も、それに期待してしまう自分のことも全てが嫌で、莉奈は泣きながら叫んでいた。


「……だからっ! ……だから、真人の前ではいつだって笑ってたでしょ! 泣いてるところなんて、こんな惨めなところなんて見せたくなかった!」


 莉奈の大粒の涙が頬をつたう。


「あたしが好きなのは優斗じゃない! 真人だもん……っ! それなのに……、他の人を好きだなんて、あんたが言わないでよ、バカ……」


 どんどん小さくなっていく語尾は、最後には消えてしまいそうだった。

 ぷつり、と我慢していた気持ちが溢れだしてしまったのか、莉奈はその場にへたりこんで子供のように涙を流していた。


 突然の告白に呆然と見つめている真人は、反射的に屈んで莉奈の瞳を覗き込んだ。


「お前が、俺を……?」


「……そうよ、悪い? 生憎こっちは、あんたのことを兄だなんて思ったことなんて一度もないわよ……」


 一度口にしてしまった想いは、するすると莉奈の濡れた唇から溢れだした。


「……はぁ、もう最悪。この気持ちを忘れられたくないとは思ったけど、こんな形で伝えるつもりはなかったのに……」


 顔を覆う掌の隙間から、涙で濡れた赤い頬が隠しきれずに覗いている。

 それを見て、真人の顔が勢いよく赤く染っていく。


「……え、や、待て……。優斗が好きで、抱き合ってたんじゃないのか」


「……あんたね、好きな人に誤解されるなんて一番嫌なんだからね。何回同じこと言わせるつもり……っ!」


 隠すこともなくなって、最早、半分開き直った莉奈はまだ言うのかと怒りで思わず顔を上げた。

 すると、目の前には顔を片手で覆って、耳まで真っ赤にしてしゃがみこんでいる真人がいた。


「…………え?」


 莉奈の視線に気がついたのか、顔を覆っていない方の手を、莉奈を制止するように手をかざすと、今までにないくらい小さな声で呟いた。


「……待て、じろじろ見るな……」


 想像していなかった意外な真人の反応に、莉奈はぽかんと口を開けた。


「……なんで、照れてるの……?」


「……あ、当たり前だろ。お前がそんな風に見てるなんて、思ってもいなかったんだから。莉奈が、その、俺を……好き……だとか」


「……嫌、じゃ、ないの……? 妹みたいだって言ってたのに……」


「……そりゃ驚きはしたけど、嫌なわけないだろ。……つーか、いくら妹みたいだって思ってたって言っても妹じゃないんだから、女の子にそんなん言われたら、照れるに決まってんだろ……ましてや、お前だし……」


「なによ、それ……。今まで女の子扱いなんか、したことなかったくせに!」


 抗議するような莉奈の言葉に、悪かったよ、と真人が小さな声で呟いた。


「……その、いつからなんだ? 俺をその、好き……になったのって」


「……最初から。真人に助けて貰ってから、あたしはずっとあんたが好き」


「……そんな素振りなかっただろ」


「見せないように頑張ってたの! っていうか、真人が鈍感なだけだからね! 真人以外は皆にバレちゃってたんだから!」


「……マジで? それって、優斗も……?」


「知ってたよ。……なに、ヤキモチでも妬いてくれたの?」


 気恥しさからからかうように言った莉奈に、真人は素直に頷いた。


「……ヤキモチ、妬いたのかもな。お前が優斗と抱き合ってるの見て、あいつに俺には関係ないって煽られて、そんなのは嫌だと思った。……まんまと優斗の罠に引っかかったみたいだな」


「……それって、」


「……あぁ。妹みたいだなんて言ってたけどさ、俺もただの妹じゃ嫌だったみたいだ。お前が泣いてる時にそばに居るのは、俺がいい」


 莉奈の瞳が揺らりと涙で輝いた。


「そんな言い方されたら、あたし……勘違いしちゃうよ……?」


「……勘違いしろよ」


「真人もあたしのこと、好きだって思っていいの……? あたし、真人のこと好きでいていいの……?」


「……あぁ。俺も莉奈が好きだ。これがまだ、恋だのなんだのっていうような、甘酸っぱい感情なのかはわからないけど、俺はずっとお前が大切で、ずっとお前が特別だ」


 真人の言葉に、莉奈がへたりと床に座り込んだ。

 はらはらと、頬を流れる涙が綺麗だ――。

 そんな真人の心情を代弁するかのように、窓から差し込んだ木漏れ日が優しく莉奈を包み込んだ。


「……お前、そんなに泣き虫だったんだな」


「しょうがないでしょ、だって、ずっと叶うなんて思ってなかったんだから……」


「遅くなって悪い」


「……ほんとだよ、もう」


「もう、俺がいないところで隠れて泣くのは無しだからな」


「……うん」


「……あと、女の子の姿だからって、優斗に抱きつくのもやめろよ?」


「ふふっ。効果バツグンだったのかな、後で優斗にお礼を言わなくっちゃ」


 くすくすと嬉しそうに笑っている莉奈を横目に、真人は慣れない気持ちに身を委ねては、くすぐったそうにら肩を竦めてみせた。


「あー、じゃあ、俺は後であいつに謝らないとな」


 初めての嫉妬心の行き場を無くした真人が、小さな声でぽつりと呟いた。


「莉奈が優斗のことをそう思ってなくてもさ、あいつはお前のこと好きなんじゃないのか……?」


 それを聞くと、莉奈は可笑しそうにケラケラと笑う。


「有り得ないわよ!」


「いや、有り得るかもしれないだろ。俺がお前の気持ちに気づかなかったみたいに、あいつだって心に秘めてるかもしれないだろ……」


「ないないっ! だって、優斗が好きなのは美樹なんだから!」


 本日何度目になるのかわからない間抜け面で、真人はぽかんと口を開けた。


「マジ、かよ……。悪い、恭哉。鈍感野郎は俺もだったわ……」


 真人の脳裏に、得意げにウインクをする優斗の姿が横切っていった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ