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グリアンクル開拓記~異世界でものづくりはじめます!~  作者: わっつん
第2章 開拓村でものづくりはじめました
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50話 憎いあんちくしょう

50話です。ち、ちこくごめんなさいヾ( ^ω^)ノ

50話 憎いあんちくしょう



佐波先輩の部屋の中はとてもシンプルだ。

ベッドに小さな机。古いキャビネット、スチール性の本棚。

あとはプラスチックケースに無造作に色んなものが入れられている。


カーテンも無地でベージュの遮光カーテンで、女性らしさの欠片もない。


元々佐波先輩は自らを着飾るタイプではない。家での普段着はジャージだ。

だが、営業職という仕事柄、スーツ類やカッターシャツの種類は結構多くて、クローゼットから服の山が少々はみ出している。



「…………っ」



天音は震えてる手でランタンを掲げた。


いつもなら、部屋の扉を開ければ壁際には佐波先輩のお気に入りのジャージと道着がハンガーが引っ掛けられているはずだった。

そのスペースがポッカリと空けられている。



「おい………」


ユーウェインの困惑したような声が天音の後ろから聞こえてきたが、天音には構っている余裕はまったくなかった。

へなへなと崩れ落ちそうな足腰をやっとのことで支えて、扉をそっとしめる。


けれどそれだけだった。今度こそ天音は扉を背にズルズルと床へ座り込んでしまう。

抱きしめたランタンの熱がじんわりと身体に伝わってくる。



「ユーウェインさん………」


「イヴァン……いや、今はいい。どうした?」


呆然と声を上げた天音に対して、ユーウェインは言葉の続きを促した。

中腰になったユーウェインは天音と視線を合わせようと近付いてくる。

瞳がかち合うと同時に、天音は重苦しい気持ちを吐露するかのように話し出した。



「佐波先輩が……佐波先輩が、こっちに来ているかもしれなくて」


「……サヴァが?それで?」


「ど、どうしたら………部屋にはいないし、

 どこに行っちゃったかもわからないし……何で来たのかわからなくて」


「確かに、部屋には居ないようだ。どこかへ移動したのだろうな。

 理由については、俺にもわからん。置いておくとして……アマネ?」


ユーウェインは遠慮がちにそっと手を伸ばした。

節々が太くがっしりとした指は、天音の目元にそっと触れられて、止まった。


天音は泣いていた。こちらに来て、はじめて人前で涙を見せていた。

「どうしたらいい?私、わからない……

 さ、佐波先輩いないし……ほんとに………」


涙は拭っても拭ってもぽろぽろと流れ落ちていく。

天音は狂おしい感情に耐え切れずに身体を折り曲げて抱え込んだ。


ユーウェインはただ静かに、落ち着かせるように天音の背を撫ではじめる。

絨毯に涙のしみがぽつぽつと増えて、唇を噛み締めても天音の涙は止まらなかった。



「わた……わたしひとりなら、頑張らなきゃって、でも……

 佐波先輩……いるんなら、なんで……」


佐波先輩。天音にとっては、今はもう家族同然の人だ。

両親が亡くなってから不安定になっていた天音に文句も言わずに付き合ってくれた優しい人だ。

向こうに居るのならそれはそれで仕方ないと割り切れた。

苦難に合うのが天音一人ならばどうとでもなるのだ。


でも佐波先輩がこちらに来ているとなると、話は別だった。

割り切りの中に理不尽な状況への怒りがふつふつと頭をもたげてくる。



「……そうだな。お前は悪くない」


そう言ってユーウェインは天音に寄り添った。

思わず天音はユーウェインにしがみつく。


どうして天音だったのだろうか?天音でなくてはならなかったのだろうか?

……一体なんの目的でこんなことに?

その疑問はこちらに来てから影のように天音に付きまとっていた。


もしかして、何かの間違いだったのでは。夢なのかもしれないと何度も思った。

けれど天音の目の前には現実しかなくて、ただがむしゃらに何かを作ることで気を紛らわしていた。



「前にも言ったが、気持ちを表に出せ。

 お前はどうも我慢し過ぎて、何を考えているか自分でもわからなくなるんだろう」


嗚咽を必死に堪えながら天音はユーウェインの言葉に耳を傾けた。

自分で自分の感情が自覚出来ないまま、ずっと我慢をしていると、今みたいに爆発してしまうという事だろうか。

何も言えない天音の疑問を予め察していたかのようにユーウェインは引き続き語る。



「我慢をするな。こまめに爆発させろ。

 あと……ちゃんと俺を頼れ。そうすれば、こんな泣き方をせずに済む」


あまりに嗚咽が激しくて、天音は息も絶え絶えに頷いた。

背にまわされたユーウェインの手のひらの温度がじんわりと身体に伝わって、あたたかい。


ずっとこのままでも良いぐらい。


自然に生まれたその感情に天音は驚いて、ピクリと肩を震わせた。




◆◆◆



「さて……当座の予定はどうする?」


「………荷物の追加をしても良いですか?

 少し重いですけど……」


しばらくユーウェインに慰められていた天音は、落ち着いていったん冷静になると、すぐに実務の話に戻った。

ユーウェインは心配げだったが、感情の吐露が思いのほか良い方向に影響したようだ。

どんよりとしていた心のよどみが取り除かれて、とても良い気分だった。


気になるのは泣きすぎて瞼が腫れていることだろうか。

天音は外の雪をビニール袋に入れて瞼を冷やしつつ、ユーウェインと話を進める。


どちらにしてもメープルシロップの採取結果を知るため、死の山を降りる必要がある。

佐波先輩の食料については、確か自衛隊用のレーションを購入していたのを知っているので、当座は心配ないだろう、と踏んだ。


メープルシロップの加工などが落ち着き次第、捜索隊を編成してくれるとユーウェインが請け負ってくれたので、天音は申し訳ないと思いつつも厚意にに応じた。

天音は今酒瓶を梱包している。これは佐波先輩のお酒だが、もし向こうで会えた場合にしばらく呑めなくなるのは可哀想だと考えたためだ。


清酒に芋焼酎。ウィスキーを含めた蒸留酒数本ずつをまとめ終えると、天音はユーウェインに声を掛けた。



「すみません……イヴァン。これもお願いできますか?」


「わかった」


他にも佐波先輩の分の毛布や衣料品、雑貨類などを追加した。

もちろん全て持っていけるわけではないため、一部だけだ。

足りない生活必需品については現地で調達するしかないだろう。



(石鹸類は多めに持って行こう)


女性同士だと、お土産やプレゼントなどに石鹸や入浴剤などを貰いやすい。

天音も例に漏れず、好みではないので使わなかった石鹸類が結構残っていた。


添加物が気になるものの、人間ひとりが使う分にはそれほど問題がないだろう、と天音は思っている。

洗剤やシャンプー&リンスなども持って行くことにして、次々と梱包を済ませるとユーウェインに渡して運んでもらう。



「お疲れ様でした」


天音が朗らかに礼を述べるとユーウェインも笑って頷いた。

先ほど慰めてもらったおかげで天音の気持ちも多少は上向きになっている。

そのことがわかっているのだろう。ユーウェインは安心したように笑を深めていた。



「………腹が減ったな」


そろそろ夕刻時なのだろう。ユーウェインの腹の音が鳴り始めた。

天音は思わずぷっと吹き出してしまう。


動くと腹が減る。当たり前のことだが、ユーウェインの場合は何処か可愛らしさを感じる。

天音の態度に不服そうにユーウェインは鼻を鳴らしてそっぽを向いた。



「今から作りますので、待っててくださいね」


何だか良い気分で天音は腕まくりをした。

ユーウェインは何でも美味しそうに食べてくれるので、作り甲斐がある。


メニューをどうしようか、と考えた末に、久々に握り飯を作ることにする。

付け合せはお味噌汁だ。こちらではミソ・スープになるのだろうか。


お米を炊くのに少々時間がかかるので、ユーウェインにはくつろいでもらおうと天音は思ったが、暇で仕方がないらしく、料理の流れを見ることにしたようだ。

何度も内と外を往復していたので疲れているだろうと思っていたが、実はそうでもないようだ。


体力が有り余っているユーウェインの様子に天音は実に羨ましいと感じつつ、食事の支度を続ける。


握り飯の具は鮭を使う。未開封の鮭瓶をシンクの下から発見したのだ。

どうやら前回持っていきそびれていたらしい。


お味噌汁の具材は乾燥麩に乾燥野菜。

麩を使えば腹持ちも良いだろうと判断する。

お米は一度に炊ける量が限られているので、ユーウェインの腹持ちが心配だ。


作業自体は簡単なのであっという間に作り上がった。

ほかほかご飯は久しぶりだったので、天音としてもにっこりだ。


握り飯は三角握りで、ユーウェインの分はノリなしにした。

海藻類を食べ慣れていないと消化酵素がそもそもないのでは、と思ったからだ。

天音の分には巻かれているのでユーウェインが不思議そうに尋ねてきたので、食べ慣れないとお腹を壊します、とだけ答えておいた。


ユーウェインは今か今かと待ち構えている。

目は爛々としていて握り飯と味噌汁から目をまったく離さないのがどうにも笑いを誘う。

とはいえ笑われて良い気はしないだろう。天音は心の中での笑みにとどめておいた。


準備は万端、なところで早速食事を開始する。

久々の和食で天音の心も浮き立っていた。

おかずもないし簡単なものしか作れなかったが、あたたかい食事、しかも和食。

思わず頬が緩んでしまう。


湯気が立っている内に、と、まず味噌汁に口を付ける。

出来合いの合わせだしだが、しばらくぶりの海の味わいだ。

昆布といりこだしがよくきいている。


少し熱めの味噌汁をずずっと啜ると、ユーウェインも天音の真似をするように同じ動作をした。



「……深い味わいだな。何で出来ているのだ?」


「海の魚と海藻でだしを取って、ふっくらとした白いのは小麦粉を練って乾燥させたものです。

 味噌はあまり馴染みがないかもしれませんが、豆を発酵させたものなんですよ」


「………??ハッコウ???」



しまった、発酵が伝わらないようだ。天音は少し考えた末に言い直した。



「何と言ったらいいのでしょうか……。

 麦粉がお酒になるように、豆………大豆もちょっと手を加えればこのように

 長期間保存可能な調味料に変化するのです」


「ダイズとはお前が持ち込んだ豆のことだな。

 ……ふむ。このミソは作れるのか?」


「そうですね。いちおう、作り方は知っていますし、

 麹菌……必要となる材料も何とかなると思います」


確か以前叔母の薫子に貰った麹菌がそのまま残っていたはずだ。

それを蒸した米で増やすことも出来るだろう。



「長期間と言うが、どのくらい保存可能なんだ?」


「……どのくらいなんでしょう。カビが生えなければ食べられるので

 3ヶ月くらいは大丈夫だと思うのですが。夏だとちょっとわかりません。

 まだ経験がないので、色々と試してから判断したいですね」


そんなことを話している間に、ユーウェインは握り飯と味噌汁を速攻で平らげた。

驚きの早さだ。

だが天音も負けてはいない。先ほど泣いたおかげで塩分が足りないのだ。

強めにきかせた塩気がちょうど良い。水分を吸った麩と交互に口に入れて食感の違いを楽しむ。

天音もはぐはぐと無言で握り飯を頬張り、食事を終えた。




◆◆◆



「あれ?」


「どうした。何か問題でもあるのか」


翌朝、夜も明けきらない時間帯に天音たちは出発の準備をしていた。

昨日の和食で味をしめたのか、今日も味噌汁を所望されたので、ポットに入れてある。

握り飯も数を作ったので、道中の食事に困ることはないだろう。


そんな折、天音は机の上に置いてあったはずのノートが見当たらないことに気が付いた。

こちらに来てからつけていた記録メモのようなものだ。



「いえ、見当たらないものがあって」


佐波先輩が持っていったのだろうか。でも、何のために?

天音は首をかしげながらもユーウェインに向き直って出発を促した。

今ここで考えても仕方がないので、後回しだ。


戸締りを終えて鍵がしまったのを確認したあと、天音たちは自宅を後にした。

次に来られるのは季節が変わってしばらく経ってからだろう。

幸い寝具と衣料品は結構積み込めたので、生活には困らなさそうだ。


前回と同じように緩やかな傾斜を降りたあとは、森まで一直線となる。

天音は何とはなしに死の山の方面を仰ぎ見て、東側の山脈に視線を移動させる。



「……そういえば、このあたりって山岳民族しか住んでいないんですか?」


ふと疑問に思ったことを口に出すと、ユーウェインが頷いた。



「そのようだ。だが、50年ほど前には開拓村の位置に古い村があったと聞いている」


「開拓村が開村されるまでに村がなくなっていたということですか?」


「ああ。俺が生まれる前の話だから、伝聞でしかないが、

 今より少し小さい規模の村があったようだ。

 山岳民族との交流も盛んだったそうだが、流行り病でいつのまにか村が全滅していたとか」


「流行り病………」


天音は怖気を抱いて肩を震わせた。

同時にユーウェインの手に自然に力が入って天音は内心ぎょっとする。



(……なんか、距離が近くなっている、ような)


今更ながらそんな風に考えて天音はさらに動揺した。

もともとユーウェインは日本で暮らしていた頃の常識と比べると距離が近いほうだったが。



「と、山岳民族の長は言っていたがなぁ。

 真偽はどうなのか、正直なところわからん」


「そうなんですか……」


天音はなんとか動揺を押さえ込んで適当に答えを返した。



「それはそうと春にトゥレニーに行くが、お前はどうするんだ?」


「ダリウスさんには伝えてあるのですが、私も同行させて頂きたいなと思ってます」


「サヴァの件はどうする?」


「冬のあいだに捜索を行って、見つからない場合に考えようかなと……

 あまりに想像がつかないので、急な予定変更をするよりはその時々で判断したいんです」


「なるほど、了解した。ならばその方向で行こう」



護衛の人選はどうするか、とユーウェインは顎を撫でて考え始めた。



「その、道中に危険はないのでしょうか」


山賊が出没することもある、と以前聞いていたので天音はおそるおそる問い掛けた。

ユーウェインは天音の問い掛けに深く頷いて肯定する。



「山賊が出る可能性はある。とはいえ、秋口に大きな討伐を行ったから

 大規模な集団戦闘はないだろう。

 いるとすればひとりかふたり、コソ泥だな」


天音はユーウェインの答えに目を丸くして押し黙った。

旅路に戦闘の危険性があるとジャスティンに警告を受けていたこともあったので納得はするが、いまいち実感がもてない。



「……まあお前の場合、馬車旅に耐えられるかどうかを

 考えたほうが良いのではないか?」


心配げな天音の様子を見てユーウェインはからかうようにそう言った。

最近はミァスに乗って何度も旅程をこなしているが、ユーウェインから見ればまだまだのようだ。


天音はぷうと頬を膨らませて反抗心をあらわにした。

これでも必死に頑張っているのだ。からかうのは止めて頂きたい。

そう主張すると、ユーウェインはさらに笑いを深めた。



◆◆◆



それから何事もなく道程は過ぎ、自宅を出てから3日後。

村からはまだ離れていたが、門付近をじっと見つめながらユーウェインがピリピリしている。



「……何かあったんでしょうか?」


「わからん。少し急ぐぞ」


門の前には衛士がいなかった。そして、村の中からは妙な緊迫感が伝わって来る。

今回、ミァスは大荷物を引いているので動きが鈍い。

だがユーウェインの緊張が伝わったのか、嫌がる素振りもなく脚をはやめていく。


天音は揺れで振り落とされないようにユーウェインの服の裾をぎゅっと握った。

すると不安定さを解消するため深く腕が回されたので、密着度が上がる。



(うわ、なんかこれは、ちょっと)


天音はユーウェインに顔を見られないように俯き加減で前を見た。

しばらくすると門に付いたので、ユーウェインはミァスの鞍を柵に括りつけて天音に振り返る。



「お前は先に館へ戻っていろ」


「いえ、私も行きます。気になりますし」


天音はいつもならユーウェインの言うとおりにしていたが、今日は何となく妙な焦燥感に駆られてついて行くことを選んだ。



「危険があるようなら、すぐに逃げろ。

 ……といってもお前の足じゃあ無理だろうが」


呆れ調子でそう言われてしまうと立つ瀬がない天音だ。

とはいえ否定もしきれないところなので、苦笑を返すことで答える。


騒ぎの中心は村の広場だった。

ここには井戸があって村人の共有物となっている。

まだ開拓村には村長がいないため、現在は館の管理となっているが、水税は取られていないようだ。


汲み取り式の周りに従士と衛士たちが勢ぞろいして警戒態勢となっている。



「ですから、こちらにモリゾーという名前の女性は……」


「何事か?」


ユーウェインが従士のひとりにそう尋ねると、従士たちの間にざわめきが走った。

領主の帰還時に出迎えがないのがそもそも不味い。

お馴染みの従士のひとりは、げえ、と声に出して別の従士に怒られている。


天音はモリゾーという単語にピクリと反応して耳をそばだてていた。

騒ぎの中心にはジャスティンがいるようだが、その奥は影になっていて誰と会話しているか見えない。


ジャスティンがユーウェインの存在を確認して振り返った。



「ユーウェイン様!おかえりなさいませ」


「今帰った。して、これはいったい何だ。何があったか説明せよ」


大仰な口ぶりは人目があるからだろう。ユーウェインの厳格な態度にジャスティンも表情を引き締める。



「はっ。こちらの不審な女が突然村に現れまして、

 モリゾーという女がこの村にいるはずだと………」


「はーい。私です!」


ジャスティンの影からひょっこり現れた姿は、少女と見まごう年齢で、風変わりな格好をしていた。

迷彩柄のジャケットに黒い革のパンツ。厳しい登山用のブーツは低い身長には不釣り合いなくらいゴツゴツしている。

サラサラの長めの黒髪は頭の後ろでポニーテールになっていて、手を挙げると馬の尻尾のようにふわりと揺れる。



「…………さばせんぱい」


「サヴァセンパイ?は?」


「佐波先輩ッッッ!!!!!!」


天音は雪道の中、普段では考えられないスピードでよろめきながらまっすぐ前へと走った。

途中、従士たちとぶつかったが、そんなことはどうでも良い。



「はあ!?……女!?」


ユーウェインが声を荒らげているのも、どうでも良い。

天音は息せき切って走り抜けると、佐波先輩に向かってダイブした。



「うはーーーーーーー!いたっ」


佐波先輩が奇声を上げたあと、ダイブした勢いで天音が押し倒す形になる。

天音はがばりと起き上がり、まじまじと目の前の見慣れた顔を観察した。


相変わらずこれで27歳とは思えない童顔振りだった。

顔色は悪くない、頬もこけていない、体調も良好だと思われる。



「せんぱい………」


じわりと涙が目に浮かんでくる。

懐かしいと思えるほどまだ時は立っていないはずだが、こちらに来て一番会いたかった人だった。



「やあ……なーんか、何て言ったらいいの?これ」


「さばせんぱい………私、訊きたいことがあって………」


「お、おう。何でもきいて!でもその前にどいて!痛いから!」


「………佐波先輩、いつこっちに来たんですか?」


「えっ」



天音は佐波先輩を押し倒したまま、妙に据わった目でそう問い掛けた。

佐波先輩は目を白黒とさせたあと瞬時に目をそらす。


その短い動作に天音は確信した。こいつはギルティだ。



「佐波先輩……?詳しく話をきかせてください」


「ああ、うん、そうだね!」


佐波先輩がにっこり笑うのを見て、天音も笑顔で答えた。

もちろん、態勢は変えないままだ。


「はい、答えて」


「……えっとぉ……2~3週間くらい前?」


「私のノート持って行きましたよね?」


「あ、うん!いろいろ便利だったよ!」


「地図書いてたからもっと早くに来られましたよね?」


「ああ……あははぁ」


佐波先輩は目を踊らせて誤魔化し笑いをしている。

さらにギルティだ。


天音たちを取り囲んでいた従士たちはことの成り行きを見守っている。

ジャスティンは訝しげな様子だ。


「あ~……アマネ?その、事情はあとにして……」


「ユーウェインさんは黙っていてください!」


「あ、はい」


天音の一喝にユーウェインはすごすごと引き下がった。

領主の威厳がまるでないが、天音は目の前のことでいっぱいいっぱいだ。


(絶対逃がしませんからね!!!)


天音はぐっと佐波先輩の襟口を握り締めて決意を固めた。



51話は来週月曜日の更新になります。

土曜日に100万PV企画開始予定ですので、活動報告の方チェックしてみてください~。


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