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グリアンクル開拓記~異世界でものづくりはじめます!~  作者: わっつん
第2章 開拓村でものづくりはじめました
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47話 お弁当はおやつに入りますか?

47話です。

47話 お弁当はおやつに入りますか?




佐波先輩からメールが送られてきてから数日が過ぎた。

あれから携帯のアンテナはうんともすんとも言わず、天音はメープルシロップ採取のための準備に追われることとなった。


何かしら調査や対策のための行動を起こしたい天音だったが、冬ごもりの最中調べる手段もなく、ユーウェインも何やら考え込んでいる様子だったので、ひとまず採取の準備に集中、という流れが一番自然なように感じていた。

焦ることはない。

逸る心に何度も自分で言い聞かせながら、とうとう先発隊出発日前日となった。


天音は眠い目をこすりながら、従士たちの手弁当の準備をしている。

というのも、従士長であるジャスティンからまたもや申し訳なさそうな顔で頼まれたからだ。


冬の盛り、辛い時期である。

行軍には彼らも慣れているものの、肉体的にかなり辛いことが予想される。

それも交代で何度か行き来しなければいけない。

村人の助けがあるとはいっても限度がある。


採取の流れは簡単なものだ。

鍋やタル、村の中でありとあらゆる入れ物を向こうに持ち込んでサトウカエデの木に設置、シロップを採取。

天音のうろ覚えの知識の中でも、夜ではなくて太陽が一番照っている時間帯に採取する、というのが一般的だったはずだ。

そして入れ物を放置。溜まってきたら別の入れ物と交換して、シロップは徐々に煮詰めて行く。


煮詰めて量を減らしたものは交代で戻る従士たちに渡されて村へと送られる。

簡単だが、体力がいりそうな作業だ。

まず移動が徒歩……天音の感覚で言えば彼らは競歩しているように思えるが……だけでも激しい体力消費が予想される。


そこで、お弁当の出番だ。


高カロリー高タンパクな保存食を作れと言われた天音は台所でうーんと唸っていた。



「高カロリー高タンパク……揚げ物?」


揚げパンか。なるほど、揚げパンならばカロリー値も高いはずだ。

だが量が量なので脂の消費量が心配だ。そこで、煮溶かした脂でくるみ、オーブンで焼き上げる方向に決める。


また、ドラに頼んで柑橘酵母を使ったケーク・サレの準備も進めている。

保存食として今までは石のようにかたい堅焼きパンを注文していたが、先日の話し合いであたりが良くなったのを機に、レシピを教えて作ってもらうことにしたのだ。


契約の内容はややこしいが、ドラがケーク・サレを外部に販売する際には天音や開拓村に一部資金が入るような手はずになっている。

レシピの代金を一括で支払ってもらうよりは、毎回何割かの利益を貰った方がのちのち良いとダリウスに言われたので、天音は大まかなことは彼らにお任せしている。


さて、揚げ?パンだ。

なるべく具材はカロリー値が高そうなものを選ぶ。

といっても使えるものは限られていて、その中から選ぼうとすれば、ベーコンや芋、豆、あたりだろうか。

生姜に似たハーブとハチミツを使って甘辛く味付けすることにした天音は、早速具材をそれぞれみじん切りにすることにした。


開拓村で使われる油は、動物性脂肪のものがほとんどだ。

木の実オイルは一般農村家庭で使われているが、採れる量が少ないため館では採用されていない。


そもそもグリアンクルの大森林地帯は獣も多いので、周囲のほんの狭いエリアでしか村人たちが採取出来ない。

獣に襲われる危険性があるからだ。


そんな理由で植物性油は貴重だ。だが、動物性脂肪は比較的豊富にある。


鹿油もその内の一つだが、この鹿油、割と扱いづらい。

というのも、鹿油はアツアツの状態だと美味しく、冷えるとザラザラとした食感が先立って味が落ちる。

よってスープのワンポイントや薬として使用されることが主流らしい。

あるいはロウソク、石鹸にしてしまうこともあるようだ。


さて、天音が今回使用するのはもちろんお馴染みの豚の背脂だ。

あまり乱用出来るほど在庫はないものの、たまの贅沢だ。

それに色んな使い方を試すことによって、今後増えるだろう豚の背脂の利用法を確立出来るという利点も大いにある。


刻んだ具材を豚の背脂でジュワァと炒めていく。

脂の溶ける音と香ばしい匂いが台所に広がって天音のお腹も鳴ってしまいそうだ。


野菜は芋や豆、少しだけ根菜を入れてある。

根菜は体を温める効果があるため、冬の行軍には最適だ。

とはいえ水分はしっかりと飛ばさなくてはいけない。

天音は念入りに火を入れていく。


最後に水溶き片栗粉を入れてしっかりと混ぜ込む。

水溶き片栗粉はあたたかいものに投入するととろみに変化する。

そして冷えるとゼリー状にまとまるので具材を固めるのにちょうど良い。


ひとまず具材はそのまま冷やしておいて、次は外側の生地だ。


いつもの小麦粉と黒麦粉、黒パンのパン粉。

そして最後にすりこぎで粉々にしたナッツ類を使う。大盤振る舞いだ。


粉をあらかじめ全て混ぜておいて、酵母菌を入れたあとお湯を足しながら生地をまとめて少し寝かす。

柑橘酵母を使うことによってふんわりとした生地に仕上がる予想だ。


発酵されて膨らんだ生地を小分けにして、具材を詰めて行く。

念入りに水分を飛ばしたお陰で包む際に困ることはない。


天音には少し大きい、男性の拳大くらいの大きさの揚げ?パン生地は、形としてはピロシキに近い。


表面に溶かした脂を塗りこんで行くと、この時点でツヤツヤとしていて出来上がりが非常に楽しみだ。

オーブン担当はカーラだ。

カーラもホレスに美味しいものを食べてもらいたい一心で、慎重に生地を取り扱っている。

瞳は期待に満ちていてキラキラと光っている。

最近、カーラに料理を教えるようになっているので、天音との息もピッタリだ。



「楽しみですねぇ!」


ニコニコと笑顔を零すカーラに、天音もついつい笑い返す。

あとは仕上がりを待つばかり。


天音はオーブンで焼いている間に、思いついた別の作業を行うことにする。

開拓村でも乾燥野菜は作られているので、それを利用してスープの素を作るのだ。


乾燥野菜と、ついでに干し肉をこれでもか!というぐらいにみじん切りにして行く。

みじん切りにしたあとはすりこぎで更に細かくすり込んで、ハーブや調味料を足して、バターで炒めたものを少し乾燥させて完了だ。


これにお湯を注ぐと、簡単スープの出来上がり。

お好みで具材を投入しても良いしバリエーションも効きそうだ。

煮込む必要がそんなにないので従士たちには便利なのではなかろうか。


スープの素は大量に作っておいて、あとでジャスティンに作り方を教える予定だ。


と、作っている間に揚げパンもどきが完成したようだ。

焼き加減も抜群で匂いを嗅いでいるだけで唾液が口の中に広がるのは困ったもので、似たような目にあっているカーラと目を見合わせて苦笑を交わした。




◆◆◆



出発当日は幸いにも天気が良かった。

先日の雷が嘘のように晴れ渡っている。



「それでは、お先に失礼します」


ホレスはカーラからの見送りを済ませたあと、ユーウェインに挨拶をしにきた。

表情が晴れやかなのは、お弁当のお陰だろうか。

妙にウキウキとしている。


ケーク・サレも無事納品されたようで、荷物が重くなるだろうに従士たちはどこか浮き足立っている。

そんな従士たちの尻をジャスティンが怒声混じりに蹴飛ばしているのも見慣れた光景だ。


天音とユーウェインは最後の採取隊に紛れ込んで現地の状況を確認、問題なければ従士たちに任せて天音の自宅へと移動することになる。

ちょうど一週間後あたりに出発を予定しているが、天気の加減によってはずれる可能性もある。


そしてその間、交代要員へのお弁当作りもしなければいけないので、天音は正直大忙しだ。

カーラに作り方をある程度仕込んでいるので、大まかな部分を頼めるのは幸いだったが。



「弁当!弁当!フゥウウウウウウ!!もう腹が減ってたまんねぇ!!!」


「早く食べたいんですけど!ダメなんですか!?」


「お前ら弁当の意味をわかってないだろう!?」


……バックミュージックのボリュームを少々落とせないものだろうか。

天音は苦笑しつつもとある人物の顔を探した。

居た。ティムの姿を発見した天音はゆっくりと足を歩める。

雪が積もっているので相変わらず歩きにくいが、最近ようやく慣れて来た。



「おはようございます」


「あ!!アマーネさんじゃ~ん」


とっても軽い調子で挨拶を返されて、天音は頬を引きつらせながら笑顔を浮かべた。

あれからほとんどティムの姿を見掛けなくなったので不思議に思っていたが、ジャスティンに寄ると元々ティムは伝令役として各地を飛び回っているらしい。

コミュニケーション能力に長けているためその能力をかわれているのだろう。


先日の従士慰労会?でもちょうど席を外していたようで、あとでご飯にありついたらしい。

ティムの分はなんとか確保されていたようだ。



「青タン、なくなりましたね。良かった」


怪我というほどではなかったが、目の周りの青タンがなくなっていたので天音はほっとして微笑んだ。



「心配してくれてありがとう~。いやぁ~嬉しいなぁ~。

 女の子に心配されるとか、役得だよね!」


パチン、とウィンクを投げられて天音は引き気味になりつつもそのまま談笑を交わした。

一方的にティムが喋っているのに対して天音が頷くという形式で、何となく会話が途切れないのが不思議だ。



(これがコミュ力か……)


どのポイントで会話を終わらそうか天音が思いを巡らしていると、何時の間にか後ろに誰かの気配があることに気が付いて振り向くと、どんよりとした表情を浮かべるユーウェインと目が合って天音は驚いて後ずさる。



「な」


「ティム。喋ってないでそろそろ出ろ」


「え、え~。そんな急かさないでくださいよ~」


「うるさい。早くしろ!」


ユーウェインはティムの首根っこを捕まえてあっという間に行ってしまった。

残された天音は首を傾げて目を丸くするしかない。


佐波先輩の携帯事件からどうもユーウェインの様子がおかしいように思える。

天音は一抹の不安を感じつつ、困惑を隠せないように瞳を揺らした。



そして、とうとう天音たちの出発日となった。


48話は24日12時に投稿予定です。

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