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グリアンクル開拓記~異世界でものづくりはじめます!~  作者: わっつん
第1章 異世界で遭難しちゃいました
22/92

22話 探し物はパンですか♪

22話です。お待たせしましたー。明日はいつもの時間通りの更新になるかと思います。


ご意見・ご感想などお待ちしております。また、新作「中華鍋と僕」のほうもどうぞよろしくお願いします。


22話 探し物はパンですか♪




「旦那様。こんなところで立ち話も何ですから、館にひとまずお戻りください」


助けの手を入れてくれたのはダリウスだった。

ユーウェインはついとダリウスを見遣り、渋々といった様子で頷き、館の方へと足を向けた。


太陽は中天を通り過ぎていて、天音たちは既に昼食を終えている。

時間的にユーウェインが腹を空かせているのは無理もない話だが、ワンクッション置いてもらったほうが天音としてもありがたい。


特に村人の前であまり目立った行動を取らない方がいい。既に遅いかもしれないが。

ユーウェインのお出迎えで、入口に集まった村人たちの中にドラの姿を見掛けて、天音はこっそり嘆息するのだった。


後ろからゾロゾロと付き従うのは従士たちだ。

陽の元で見ると、顔立ちや髪の色が詳らかにされる。

茶系の髪色が多く、目鼻立ちも彫りが深い。


そういえば、とユーウェインのほうを振り返ると、彼の髪はアッシュブロンドだった。

人種が違うのだろうか、と天音は疑問を持ちつつも、従士たちが運んでいる荷物を見て、あ、と呟いた。


彼らが持っていたのは天音の荷物のようだ。

一人、飛び抜けて背の高い従士が背負っているのは、もしやカーペンター号だろうか。

背負子風に紐を結び直しているのを見て天音は感心する。



「アマネ、荷物は館に運び入れるが、良いか」

「あ、はい。よろしくお願いいたします」


従士たちの間でうろうろとしていると、後ろからユーウェインに声を掛けられた。

同時に、首根っこを掴まれて引きずられていく。


天音は体制的に抵抗することも出来ずなすがままだ。



「あのう」

「なんだ。早く館に着かねば飯にありつけんだろう」

「それはわかりますが、一人で歩けますから!」


あまりの扱いに頭から火が吹きそうなくらいに恥ずかしい。

完全に子供扱いをされている気分だ。ユーウェインは天音の態度に首を傾げているので、更に苛立ちが倍増する。


周りの視線も気になるので、無言で付き従う形で黙々と歩いた。



館に着くと、カーラが待ち構えていた。

そういえばジャスティンの姿が途中で見えなかったが、先触れとして館に向かっていたらしい。

いろいろと差配があるようで、館の中をダリウスと一緒に動き回っている。


こんなとき女手がいないのは不便だろうなと天音は心の中で独りごちる。

せめてあまり邪魔をしないようにと、使用人部屋に避難をする。



「アマネ様、ちょっと」

「どうしたんですか?」


カーラが手招きをしていたので、天音はカーラがいる台所へと足を運んだ。

話を聞くと、ユーウェインの指示で、天音と一緒に食事を作るように言われたそうだ。


客人の身分はどうなった!と天音としては言いたいところだが、腹減りモードのユーウェインに聞く耳を持ってもらえるかどうかわからない。

ひとまずユーウェインの食事を作れば、パンとスープさえあれば凌げるため、従士たちの分はどうとでもなる、とカーラは言う。



「わかりました。お手伝いしますよ」

「申し訳ありませんが、よろしくお願いします」


ここ一週間、客人の身分で贅沢をさせてもらった分、天音としても手伝うのはやぶさかではない。

ドラの件で足踏み状態だったが、ちょうど良い。黒パンを美味しく頂けるように加工すれば良いのだ。

そうすればドラの店への注文がなくなることもないだろう。


天音は腕まくりをして、まずカーラに使える材料を確認した。



「ええと、黒パンは常備分がありますし……鶏の卵とチーズ、バター、それから山羊乳。

 先ほど村人から差し入れを頂いたんです」

「小麦粉はありますか?」

「あ、あります。量はあまりありませんが……」



(おお。最低限の材料はあるみたい)


他、干し肉やベーコン、カブらしきもの、苦味のあるネギ科の野菜や干しきのこなど。

材料を揃えたところでカーラに野菜の下ごしらえをお願いする。

天音は自分の荷物を探すため廊下へと出た。



「ダリウスさん!その荷物、どちらに運ぶんですか?」

「ああ、アマネ様。この荷物はひとまずアマネ様が使われている客部屋へ移動させる予定です」

「ならすみません、必要なものがあるので持って行っても?」

「構いませんよ。お運びします」


ダリウスが持っていたのは調理用具や雑貨品だった。

篭は館にあるものだろう。他の食材はひとまず外の倉庫へと運ばれたようだ。


必要なものは、フライパンとカセットガスコンロだ。

ガスの残りは十分に残っているため交換の必要性はなさそうでほっとする。



手荷物を抱えて台所に戻ると、ユーウェインがどんと椅子に座っていた。

天音は頭にハテナマークを浮かべながら周りを見ると、うんざりしたような表情のジャスティンと居心地悪そうに野菜の下ごしらえをしているカーラが目に付く。


どうも空腹が過ぎて我慢しきれずに押しかけてきたらしい。

これは厄介だ。後ろに控えるダリウスに視線を向けるが、首を振られてしまった。

処置なし、ということだろうか。



「……皮なめし職人のエルマーに魔狼の皮を引き渡しました。

 2、3日かかるそうです。売るなり加工するなりは後ほどお決めになってください。

 魔石はどうなさいますか?」

「しばらく貯めておく。何があるかわからんからな」

「畏まりました。して……」



ジャスティンがこちらに気付いたので、天音は会釈をして台所に入る。

ユーウェインはジャスティンと魔狼退治の顛末について話し合っていたらしい。

何も台所で話さなくても良いと思うのだが。天音はそう思いつつも口に出さず、いそいそと台所で作業をし始めた。

冷たい山羊乳と小麦粉を木べらでよく混ぜ合わせる。



「おお、アマネ。早くしてくれ。俺はもう腹が空きすぎてかなわん」

「……料理番はお断りしてますよね?

 一週間カーラさんにお世話になっているのでその分のお礼として

 今回お手伝いしますが……」


じろりとユーウェインを睨むものの、あまり効果はないようだ。

鷹揚とした態度は変わりなく、ユーウェインは足を組んで作業をしている天音をじっと見つめる。



「わかっているとも。正当な報酬は支払おう。常に、というわけにも行くまいな」


ユーウェインはあっさりと物分りの良い台詞を吐く。

だが、どこまで信用して良いのやら。天音は肩をすくめることで疑問を表現する。

カセットガスコンロに火を入れると、ユーウェインを除いた全員のどよめきが台所に響いた。



「これは……魔道具だったのですか?高価な鋼を使っているとは思っておりましたが」

「な、何ですか?今いきなり火が付きましたよね?」

「……青い火などはじめてみました」


ダリウスが目を丸くして覗き込み、カーラは余所見をしていたのか何が起こったのかわからない様子で、ジャスティンは火をじっと見つめて目を離さない。

3人の視線が同時に手元に集まり居心地の悪さを感じながら、天音はフライパンの上に、バターをとろりと落とす。



「魔道具と言いますか……ガスという燃料を燃やしているのですが、私も構造までは詳しくないのです」


山羊の乳から出来たバターは天音の知っている市販のものよりふんわりとしている。

村で作っているようなので、あとで作り方を教えてもらおうと心に決める。ハーブや岩塩を入れれば美味しそうだ。


弱火で熱したバターがほぐれて溶けた。

同時に台所に何とも言えない香ばしい匂いが充満して、食事を終えたばかりだというのに食欲がいや増して行く。


塩味のホワイトソースを作り終わると、ベーコンや干しきのこ、切ったカブなどをたっぷり入れて、あとは火の加減をカーラに任すことにする。

カーラは恐る恐ると言うふうに木べらを手に取ってフライパンの中をぐるぐると混ぜる。


天音は洗っておいたグラタン皿を取り出した。

硬い黒パンをナイフでちぎってグラタン皿に敷き詰めたあと、フライパンの火を止めて具入りのホワイトソースをかけて、上にチーズを載せればあとは焼くだけだ。


こちらのオーブンは竈と一体型になっていて、竈に火を入れれば自動的にオーブンにも熱が通る仕組みになっている。

今日も朝から竈に火を入れていたため、オーブンの準備もバッチリだ。


オーブンの火加減についてはカーラの方が詳しいことから、焦げ目が少し付くぐらいまで調整して焼いてもらうことにする。


ちなみに塩については親指ほどの大きさの岩塩を使った。

ミルがないためナイフの裏で砕くのだと言われたが、やり方が今いちわからなかったのでそちらもカーラ任せだ。

あとでミル容器を見せたら驚かれるかもしれない。


こちらの料理の仕方を今回初めて間近に見たが、驚いたのは包丁や専門の器具が少ないということだ。

包丁はナイフがあるし、具材を均等に切る文化がないのでまな板も見当たらない。

器用にナイフで皮を剥き適当にぶつ切り、というのがデフォルトのようだ。


鍋の種類も天音が見る限り2つほど。大鍋と中くらいの鍋が一つずつ。

なるほど、料理の幅が狭いのだなと感じさせられる。



「美味いな!」


ユーウェインは一口食べてそう言ったきり、黙々と食べ始め、あっと言う間に黒パングラタンを平らげた。

アツアツ出来立てを食べようと匙を向けたユーウェインに対して、最初ジャスティンやダリウスは止めに入った。

はっきりとは言わなかったが、おそらく、毒を警戒してのことだろう。出会い始めのユーウェインの態度を思い返して天音は納得する。



「問題ない。お前たちもアマネが料理しているのを見ていただろう」


毒を入れる隙があったのか、と暗に問いかけられ、2人は口ごもった。

そして2人が口を閉ざした瞬間、ユーウェインは一口目を躊躇いなく口に入れたのだった。


ああ!と言う2人は同じような表情を浮かべていて、天音は思わず笑ってしまってあとから気まずい思いをしたものだ。


ユーウェインは食事を終えたあと満足げに礼を言って台所から去っていった。

そして、ジャスティンは後を追い、残ったダリウスは何事もなかったかのようにお茶の準備をし始める。

たぶんきっと、こっそりあとでため息をついているに違いないと天音は確信していたが。



「アマネ様、アマネ様」


さて、フライパンに残った具入りのホワイトソースをどうしようかと思っていたら、後ろからカーラに名前を呼ばれる。



「これ、残りはどうするんですか?」

「うん……たぶんまた後で食べると思うんだけど……そうだ、一口食べてみる?」


館の食材を使って作ったので、所有権はユーウェインにあるはずだ。

勝手に消費するのは控えたほうがいいだろう。けれど味見ぐらいなら問題はないのではないか。

実際先ほど天音は別の器に乗せて、黒パンの食感を試すために味見を行っている。


食べたときは時間が足りなかったのかそれなりに硬かったが、ユーウェインの食べっぷりを見るからに、黒パンのあの硬さも汁気を吸ったことで随分と緩和されているように思えた。

天音の申し出に、カーラは大きな目を輝かせて頷いた。



「はい!食べてみたいです!」

「おや、味見なら私も試してみたいですな」


お茶の差配が終わったらしいダリウスがひょっこり戻って来てそう言った。


23話は27日12時に更新予定です。

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