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グリアンクル開拓記~異世界でものづくりはじめます!~  作者: わっつん
第1章 異世界で遭難しちゃいました
17/92

17話 ある日森の中

17話です。すごくギリギリでした。危ない。

誤字脱字などございましたらお気軽にご報告ください。

また、一迅社アイリス恋愛F大賞に応募させて頂きました。何卒よろしくお願い申し上げます。


17話 ある日森の中


「……数はどのくらいいるのですか?」


寒さと恐怖で天音の声が震える。

天音は生まれてこの方、獣の被害にあったことがない。

襲われでもしたら。そんな不安が頭を過ぎる。



「わからん。2匹か、3匹か……」


あるいはそれ以上か。ユーウェインの声音は緊迫した状況下にあるためか硬い。

ごくりと喉が鳴る音がやけに耳に響く。


暗がりの中であまりに怯えている様子に気付いたのか、ユーウェインは安心させるように天音の肩を叩いた。



「まあそう怯えるな。

 今のうちに荷造りをしておくぞ」


天音はこくりと頷いた。




荷造りと言っても、必要なものはそう多くはない。

先ごろの打ち合わせ通り、最低限の食料以外は小屋に置いて行く心づもりだ。


小屋から出なければ狼に襲われることはないが、籠城するには水が足りない。

やはり隙を見て脱出するというのが現実的なプランだろう。


魔獣化していても元の性質はそうは変わらない。

狼は夜行性で群れで狩りを行う。


つまり夜が明ければ一時的に追跡が止まる。


本来ならば、1日半ほどかけて無理せず村までの道を踏破する予定だったが、変更だ。

明け方に出発して身軽な状態で1日強行軍を行う。



「とはいえ、今のうちに少し弱らせたいところだな」


そう言ってユーウェインが剣を持ち立ち上がったのを見て、天音は仰天した。

武器を持っているとはいえ、相手は複数で、しかも獣だ。

素人の天音の目から見ても怪我を覚悟するレベルだ。もしかすると死ぬかもしれない。



「な、え、どこ行くんですか!何する気なんですか!」


慌ててユーウェインの服の裾を掴んだ。

天音の頭の中に破傷風という恐ろしい感染症の名前が浮かぶ。

万が一噛みつかれでもしたら。



「いや、少しやつらの鼻面を叩いてやろうと……」


ユーウェインはと言えば、きょとんとした顔で先ほどの緊迫感はどこへやら、という表情だ。

既にやる気満々な様子に天音は呆れた声を漏らす。



「……い、行くんなら、ちょっと待ってください」


数分、あるいは一瞬の間逡巡していたが、意を決して天音は自分のリュックを漁りに行った。

手に取ったのは殺虫剤だ。しかもG専用の強力なタイプ。


それとポケットの中に入れていた……ねずみ花火とライターをおもむろに取り出した。



「これと、これ。使ってください」


暗くて見えないのを懸念して、手回し式ランタンで灯りをつけた。

まるで百物語の様相である。これで怖い話などしようものなら、きっと天音はかなりびびるだろう。


ユーウェインは用途がわからないようで、手に持ちくるくると回している。

天音は硬い表情で使い方を説明し始めた。



「こちらはねずみ花火と言いまして、火をつけると……結構大きな音を出して勝手に動きます」


動きがねずみのようなのでそう名付けられました、と補足する。

ユーウェインはほうほうと真面目に聞いている。興味を惹かれたようだ。



「つまり陽動に向いているわけだな?」

「そ、そうです」


ふむ、とユーウェインは顎に手をやって考え込む。作戦を頭の中で組み立てているのだろうか。



「こちらは?」

「これは……殺虫剤と言って、匂いを嗅いでもらったほうが理解が早いかもしれません」


顔に直撃させるのは不味いので、少し離してからレバーに力を入れる。

殺虫剤が出たのを確認するとすぐにレバーを離した。



「んぐ……鼻がひん曲がる……っ」

「だ、大丈夫ですか!?」


今まで経験したことのないような強烈な香りに、ユーウェインがもんどり打つ。

おろおろする天音に対して、しばらくするとユーウェインが何でもないというような手振りをしつつ起き上がる。



「ああ、酷い匂いだった」

「申し訳ありません……もう少し離せば良かった」


距離は結構取ったつもりだったが、暗闇の中で目算を誤っていたようだ。



「しかしこれを使えばやつらの鼻面を使い物にならなくする程度なら造作もないな」


ただでは転ばない。そんな風にユーウェインはにやりと口角を上げた。



◆◆◆


簡単な話し合いの結果、ねずみ花火での陽動は天音が。

陽動のタイミングを計るのはユーウェインが行い、魔獣……この場合は魔狼だろうか。

魔狼の鼻面に殺虫剤を叩きつけるのもユーウェイン、という振り分けとなった。


着火はレバーを引くとカチッと火が付く例のアレだ。

ユーウェインに見せた時大層欲しがられたが、燃料が切れたら終わりと伝えるととてもガッカリされた。

何だか少し申し訳ない気持ちだ。


外は闇の中しんと静まり返っていた。

夜の森というのは存外光が入らないものだな、と天音は今回はじめて知った。

特に今晩は月の光が強いはずだが、背の高い木の枝に邪魔をされて、ポツポツと光が入るのみだ。


だが目が慣れてくるとかろうじてだが足元が見えてくる。

目の前のユーウェインの姿も最初は朧げだったが今はクッキリとシルエットが見えている。

視界に余裕が出来て天音は心持ちほっとした。


場所はツリーハウスの土台だ。天音はユーウェインの後ろについている。

ユーウェインの手にはゴキ……殺虫剤がしっかりと握り締められていて、スタンバイはオッケーだ。


目があまり役に立たない分、耳の感覚は冴え渡るようだった。


風の音に紛れて、魔狼とおぼしき唸り声があちこちで聞こえる。

このような夜の闇では、危険な、しかも複数の獣があちこちを動き回っていると思えば、何とも恐ろしい。

あるいは反響音で大勢の魔狼に囲まれている心地がするだけかもしれない。


それでも天音は震えがおさまらず、ぎゅうと身体を縮こませる。


ユーウェインは静かにあたりの様子を伺っていた。

荒事に慣れているとは思っていたが、天音の想像以上にユーウェインはこういったことに慣れているらしかった。


ユーウェインが手を向ければ、それが合図。合図と同時にねずみ花火を放つ。事前に打ち合わせた手はずだ。

魔狼が集まってきているのが気配で感じられる。天音の喉がごくりと鳴った。



「………!」


ユーウェインの手が振り下ろされた。天音は手が震えるのを賢明に堪えて着火レバーを押した。


着火を確認したあと手の向く方向へ放り投げたが、数秒間が開く。

ちなみに、ねずみ花火の数はフタ桁だ。良い子は絶対真似しちゃいけない量だ。

フライパンの中で着火したため、鍋が痛んでないか心配だが、危険度が高いので仕方がない。


……パチ。


音が鳴り始めた、と思ったらあっと言う間に轟音が鳴り響いた。

と同時に、魔狼の鳴き声が次第に増えて行く。



「3、4、5匹!」


数を数えていたらしい。よく見えるものだと天音が感心していると、ユーウェインはあっと言う間にツリーハウスから飛び降りていた。


花火自体はすぐ終わった。静けさの中、焦げ臭い匂いがあたりに広がる。

暗闇に慣れたとはいえ、先ほどの花火の光が目に焼き付いてなかなか取れない。


天音が目を慣らそうとあたふたとしているうちに、ユーウェインが魔狼たちに的確に攻撃を加えて行く。

大きな音は魔狼たちに想定以上のダメージを与えていたらしい。


俊敏さが売りの魔狼たちの連携はガタガタに崩されていた。


血を流すと匂いがつくので、剣の背で首の後ろを殴りつけ、朦朧としたところを殺虫剤で鼻面に一撃。

ユーウェインはそれを5回、きっちりと繰り返した。

魔狼たちは形勢不利と悟ったのか、1匹また1匹と逃げ出していく。


ユーウェインは追い立てる振りをしながら、何度か殺虫剤のレバーを引いて牽制した。

レバーの音は恐怖心を一層煽り立てたようで、いつしか魔狼たちの姿は周囲から消えていた。



「お手柄だな、アマネ。これのお陰で怪我もなくすんだ」

「いえ……」


終わったのだろうか。視線で問いかけると、ユーウェインはこくりと頷いた。

呆然と腰を抜かしている天音に、ユーウェインが手を貸してくれる。



「さて……一時的に追い払ったとはいっても、鼻が元に戻ればまたぞろやつらは狙ってくるだろう」


ユーウェインは事態を甘く見ていないようだ。

天音は何と言ったらいいかもわからないので、ひとまず頷いておく。



「……ねずみ花火の光のあと、よく狼の位置がわかりましたね」


ひと仕事終えて、湯を沸かしてお茶を飲むと少し余裕が戻って来た。

天音は先ほどの一連の流れを思い返して質問をしてみる。



「ああ、ハナビの時俺は目をつむっていたからな」


なるほどと合点がいった。ユーウェインの機転によってもたらされた一時の平和を噛み締める。

それにしても……と天音は独りごちた。


ユーウェインと出会っていなかったら、この森で天音は為すすべもなく死んでいただろう。

食料云々どころではない。獣に食い殺されていたかもしれないと思うと身が竦むと同時にユーウェインのありがたみが胸に染みる。


目の前の人に、天音はどうやって恩を返せば良いのだろう。

そんなことをつらつらと考えながら、天音は明け方までぐっすりと眠った。



◆◆◆



数時間後、日の出と同時に2人と1匹はツリーハウスを出発した。

手荷物は最低限の水と食料、念のための医療品のみだ。



「すまんが、無理をさせるぞ。きつくなったら寝ていろ」

「わかりました」


ミァスの荷物が減った分、2人で同乗することになった。

前に横乗りで天音、後ろにユーウェインという布陣だ。天音はユーウェインに頼んで胸当てのプレートを外してもらった。

振動で頭にゴツゴツ当たって痛いからだ。


驚いたことに、森に入った途端、ミァスの歩むスピードが早くなった。

森ラクダという名前は伊達ではないらしい。

倒木や勾配をものともせずにすいすいと進んで行く。


雪原に比べて降雪量が目減りしているのも原因の一つかもしれない。

疲れも見せないミァスに対して、天音は村へ帰ったらいたわってあげたい気持ちで一杯になった。



「村に着いたらあとは任せてゆるりと休むが良い」

「は……はい」


連日の疲労と昨晩の襲撃で、天音の体力も底が尽きかけている。

ミァスとユーウェインの体温がじんわりと伝わり、身体がポカポカしてきたため、どうやらうたた寝をしていたらしい。


途端に気恥ずかしくなって景色を見る振りをして視線を遠くへやった。

目をこすって眠気を飛ばそうと試みるが、上手くいかない。


結局またうとうととすることになり、後でユーウェインに頭を下げる羽目になったのはご愛嬌だ。



途中何度か小休止を挟み、日も落ちかけたところで、建物らしきものが視界に入ってきた。



(村っていうか……砦?)


森の切れ目には物々しい丸田柵が突き刺さり、2人の門衛が槍を持ち門を守っている様子が遠目に伺えた。

天音の混乱をよそに、ユーウェインの姿を確認したのか、人がわらわらと敷地内から出てくる。



「ユーウェイン様!よくぞご無事で!」

まず声を掛けて来たのは年若い青年だった。

18話は20日12時に更新予定です。

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