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グリアンクル開拓記~異世界でものづくりはじめます!~  作者: わっつん
第1章 異世界で遭難しちゃいました
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14話 それゆけ!カーペンター号

14話です。ギリギリまで書いてました。

誤字脱字などございましたらお気軽にご報告ください。

14話 それゆけ!カーペンター号




さて、冷蔵庫で水に浸けて放置していた栗の処理を行う。

あとの作業は砂糖と一緒に圧力鍋で煮たあと、瓶詰めが残るのみだ。


瓶をあらかじめ煮沸消毒する。柿ジャムに使ったタイプではなくて、大きめの1L瓶を使う。

同じタイプのものはもう一つあり、こちらは中に干し野菜などを詰め込んで村へと持ち込むつもりだ。


ユーウェインは先ほどスノコの廃材と大工道具を持ち出して、ベランダで何やら作っている様子だ。

おそらく旅に必要な道具なのだろう。

内容が気になるところだが、栗の渋皮煮の方が先だ。


火を入れた圧力鍋に砂糖を煮溶かして栗を投入する。

そのまま加圧して数分。蒸気音が鳴ったら火を止めて冷ます。


冷ましている間に、栄養バーの切り分けを行う。

2×5cm程度の大きさに切り分けて、個別包装したあとは、ビニール袋に入れてひとまず冷蔵庫へ。


そういえば……と、天音はマイケルさんのいる佐波先輩の部屋の方向へ視線を向けた。

あれから何度か様子を見に行っているが、幸いにも元気な様子だ。


発泡スチロールを素材にしてすっぽり被せられるような箱を作り、持ち運び出来るようにすれば、移動も可能だろう。

ここに置いておいても枯れゆくばかりなので、マイケルさんを連れ出すのはほぼ決定事項。


問題はミァスにまたパクリとやられないかどうかだが……臨機応変に対応していきたいところだ。



栗が冷めたようなので、次の作業に入る。

再び砂糖を加えて沸騰するまで強火で煮る。沸騰したら、弱火に切り替えてコトコトと五分間。

仕上げにブランデーを入れて、火を止めた。



「よしっ。出来たー!」


瓶に栗を移し替えていると、ベランダからユーウェインが戻ってきた。

手に持っているのはスリッパのような形状のもの。



「それ、何ですか?」

「雪靴だ」


柔らかいサラサラとした雪の中を通常の靴で歩くとはまってしまって身動きが取れなくなる。

雪につく足の面積を広げるための道具を作っていたようだ。



「ありがとうございます。寒くなかったですか?」


ユーウェインと天音の2人分を作ってくれたようで、天音は驚いてお礼を言った。

片手ながら何と器用なことか。負担になっていないか心配である。



「気にするな。食事の礼も兼ねている。村に戻るまではよろしく頼むぞ」

「はぁ……」


天音は苦笑いしつつ生返事で濁した。

これはもしかすると、村に戻ったあとも理由を付けて作らされるのではないだろうか。

あながち的外れでないかもしれない。


元の天音の職業は事務員だが、こちらではどうなるかわからない。

そもそもどのような職があるのかも不明なので、これからじっくり調べて行く予定だ。


ユーウェインに温かいお茶を手渡したあと、栗の渋皮煮の作業に戻る。

瓶に入れ終わったあとは、再び瓶ごと煮沸消毒だ。



「そういえば、昨日仰っていた通信の件ですけれど」


色々と細々とした用事を片付けながら天音はユーウェインに会話を傾けた。

どうやらこちらでは魔法が存在するらしい、というのはおぼろげにわかったが、仕組みや用法は今ひとつ理解出来ていない。

通信⇒電波⇒アンテナ立てればいいじゃない!と寝ぼけ頭で想像していたのだが、認識が合っているのか確認したかったのだ。


ユーウェインは天音の疑問に対してこう返答した。



「その認識で間違っていない。電波というのが何かわかりかねるが、魔力を遠隔地に送り存在を知らせるために増幅装置を使うことも稀にある」


増幅装置はとても高価な鉱石を使うようだ。つまり精錬された金属の塊が増幅装置になる、という考えだ。



「金属の塊……」


天音はふと思いついた。部屋に戻って以前手作りをしたwi-fi用パラボラアンテナをいそいそとリビングに持ってくる。

材料はスチール製のボウルと固定のためのワイヤーまな板置き。どちらも100円ショップに売っていたものだ。


テープで固定してボウルの中にルーターを置けば完成。


天音の部屋は電波が通りにくいのでネットで見た手作りパラボラアンテナで電波増幅を試みたことがあったのだ。



「ちょっと試してみましょう、ダメ元で!」



ユーウェインは半信半疑な様子だが、生存確認は早めに出来るに越したことはない。

荷物の中から魔石らしきものを取り出して、天音の言うがままにボウルの中に入れる。

ユーウェインはそのまましばらくの間魔石から手を放そうとはしなかった。魔力を込めている、だそうだ。


魔石はつるんとした肌触りのようで、何の変哲もない透明の石だ。

目を凝らすと、かすかに光る金箔のようなものが中心部に見える。


この小さな魔石は使い捨てで、いくつか緊急用に持っていると言う。


お高いんでしょう?と冗談混じりに天音が訊くと、ユーウェインは重々しく頷いた。

買うと大銀貨5枚はするとか。しかし天音には物価が今いちわからない。


と言ってもユーウェインは買ったことがないのだそうだ。

ではどこから手に入れているのかと天音が質問したところで



「……あ!」


魔石がうすらぼんやりと光りだした。

鈍い光の玉がふよふよと浮かび、一瞬の隙にひゅいっと玄関先へ向かう。

目に見えるファンタジー、2回目。不思議な出来事に天音は口を開いたまま声を失っていた。



「……どうやら成功したようだな」

「成功しちゃいましたねぇ」


天音に負けず劣らず、ユーウェインも目を丸くしていた。

声に驚きが含まれているのは聞き間違いではない。

ユーウェインは中心部の光を失った魔石とパラボラアンテナをしげしげと眺めている。



「そんなに気になるのなら、差し上げましょうか?」

「良いのか?高価なものではないのか」


お安いんですのよ、ホホホ。と何故か昔の少女漫画のようなキャラクターが頭に思い浮かぶ。


実費はそれほどかかっていないこと。

ボウルは調理用にいくつかある上、こちらでは携帯もネットも使えないので、無用の長物であること。


この2点を説明したあと、パラボラアンテナはユーウェインの所有物となった。

あまり表面には出ていないが、目をキラキラとさせていたので、喜んでいるのだろう。

生存報告も無事出来たことだし、一件落着だ。




◆◆◆


天音は顎に指をそえて思い悩んでいた。

例のソリの名前だ。

天音はこちらに来てから物寂しくなったのか、身の回りのものに名前を付けたい病にかかっているらしい。



「マイケルさんにちなんで……古い洋楽繋がりで……カーペンター号」

「一体何を唱えているんだ。呪文か?」


ぶつぶつと言いながらリビングと玄関先を言ったり来たりしている天音に、ユーウェインが呆れた様子で話しかけてきた。



「いえ、ソリに名前を付けようと思いまして」


天音は大真面目にそう答える。

旅路には験担ぎとして、縁起の良い名前を乗り物に付ける云々、と説明するとユーウェインは納得したように頷いた。

どうやらこちらでも似たような行いはあるらしい。


日本で一般的かどうかは濁しておいた。世の中には知らなくて良いこともあるのである。



天音はユーウェインに手伝ってもらい、カーペンター号の試運転を行うことにした。

雪の上で滑りが良いかどうか、ブレーキがきくかどうか。

また、荷物を全て積み込んだ上で正常に動くかを確認しておきたい。


ユーウェインの話では、森境まで保てばあとは人を呼べるとのことなので、使い潰す勢いで行こうと思っている。


滑り+土台+3段ボックスで作った荷台に麻紐と細いベルトを組み合わせて手綱代わりにする。

ミァスはまだベランダにいるので手綱の長さは明日の朝調整する予定だ。


荷台を雪の上まで移動させたあと、米を含めた食料品、水など重いものを順番に入れていく。

満遍なく6つに分けたので上部分が空いている。そこに衣服や雑貨品などをどんどん詰め込んだ。


衣服は濡れても問題ないようにビニール袋で防御してある。

雪は問題ないだろうが雨が心配だったので折りたたみ傘も準備済だ。


重さにばらつきがあると運転がしにくい。ミァスにはなるべく負担をかけないように、という天音の気持ちだ。


試運転ではソリはユーウェインがひくと申し出てくれた。ありがたく厚意に甘えることにする。

あとでお礼に何か甘いものでも食べさせてあげよう。



「どうですか?」

「うむ。これくらいなら問題なかろう」


ユーウェインが何度か手綱を引っ張って強度確認を行ったが、不具合は出なかったようでほっとする。

そのまま洞窟の入口に駐車して、カバーを被せて部屋へ戻った。



「お疲れ様です。これ、食べてください」


ユーウェインへのお礼は秘蔵のクッキー缶から取り出したクッキー数枚だ。

なぜ数枚かと言えば、もちろん食べ過ぎを心配してのことである。


美味しくて甘いものは中毒性が高い。

特にこちらではほぼ手に入らない品なので、食べたくても食べられない苦しみを味あわせるのはしのびないからだ。



何度も食事を繰り返しているからか、ユーウェインの警戒度は随分下がっている。

天音が味見をしなくても問題ないようになった。喜ばしいことだ。


洗い物を減らすため、清潔なペーパータオルの上に置かれたクッキーをユーウェインは迷いなく手に取って食べ始めた。

ついでに天音もご相伴に預かる。さくりとした食感、バターの香り。ナッツの味が香ばしい。

少々値段はお高いが、たまの贅沢として常備していたものだ。


いずれ、再現してみたいものだ。生活が落ち着いたら食材探しに奔走、なんてこともあるかもしれない。



「……甘いな」


ユーウェインが感嘆の声をもらした。

甘党なのだろうか、美味しそうにじっくり味わって食べている。


付け合せの飲み物は口の中をさっぱりさせるため、ビタミンC入りのレモンティーだ。



「木の実や果物の甘みとは違う。これが砂糖の甘みか……これはアマネが作ったものか?」

「いいえ。市販のものですよ」


やはり普段から砂糖とほとんど無縁の生活をしているらしい。話に寄ると、金貨と同等の価値だとか。



「随分と値段がはるのだろうな。良い職人が作ったのであろう」

「そうでもないですよ?……砂糖の量と、材料が十分にあれば、私にも似たようなものは作れます、たぶん」


クッキー自体の製法は簡単だ。新鮮なバターと卵、質の良い小麦粉、砂糖があれば何とかなる気がする。



「……なに?作れるのか?」


ユーウェインの瞳が良い獲物を見つけたと言わんばかりにぎらりと光った。


15話は15日12時に投稿予定です。

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