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グリアンクル開拓記~異世界でものづくりはじめます!~  作者: わっつん
第1章 異世界で遭難しちゃいました
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13話 理想のソリ

13話です。上から読んでも下から読んでも~。

誤字脱字などございましたらお気軽にご報告ください。


13話 理想のソリ


妖精の眼(アバルウアヴァル)は魔力を感知すると光る仕組みになっている」


簡潔に説明するとそういうことらしい。天音の頭に携帯のアンテナが浮かんだ。

魔力の発信を感知して知らせる、ただそれだけの機能のようだ。


外に出る際、定期的に魔力発信を行って生命の無事を確認する。

これが単独での外出条件となっているようで、本来は昨晩連絡をしなければならなかったが、意識を失っていたため未発信のままとのこと。



「今から無事を知らせることは出来ないんですか?」


天音がそう訊ねると、ユーウェインは眉を寄せて頭を振った。

彼が持ち出した魔石は小さなもので、死の山からの距離を考えると届かない確率が高いらしい。


森の境あたりまで戻れば何とか届くとのことで、一旦この件は持ち越しになった。



(アンテナかぁ……パラボラアンテナとかどうなんだろう)


アンテナについてぼんやりと考えを巡らしながら天音はあくびを噛み殺した。

明瞭感のない頭では働きが鈍いものの、何とかなりそうな気はしている。


既に夜は更けている。体調が悪化しては不味いので念入りに寝具の準備をしたあと天音は自室へと戻った。

さっとお湯で身体を拭き、ベッドへと入る。シャンプーで頭を洗いたい欲に駆られるが、我慢だ。


ドライヤーがないため自然乾燥させている間に頭が冷えてしまう。

風邪を引いてしまうと後々の行動に支障が出て来るので、それだけは避けたい。


明日、温かいおしぼりで頭皮のマッサージぐらいはしておきたいところだが。


ユーウェインの方は、先ほど身体を動かしていたついでに自分で拭いてもらったので清潔に関しては問題ないだろう。


出発まで残念ながら時間が足りないので、タオルケットなどの寝具を洗っている時間はなさそうだ。

洗濯は村へ行ってからになるだろう。

下着についてはコッソリ洗うにしても、出発してから数日は我慢しなければならないかもしれない。



明日からは相当忙しくなる。早めに就寝して、英気を養うとしよう。天音はそのまま結論を出さずに眠りの淵へと落ちていった……。




翌朝。はりきって目覚ましをかけていたのでユーウェインに仰天される羽目になった。

天音は平謝りしつつ作業に取り掛かる。


荷物の内容だが、ユーウェインと相談したのち、以下のものを持って行くことになった。


・食料品、調味料類

・衣料品(下着多めに)

・タオル、歯ブラシ、化粧品等

・せっけん、シャンプー等

・日曜大工セット

・裁縫セット(布や材料含む)

・料理や裁縫のレシピ集

・調理用具

・筆記用具

・寝具

・医療品

・その他雑貨品


布団については断腸の思いで諦めることにした。どう考えても嵩張るので持って行けない。

ベッドは使用人用の余りがあるそうで、そちらを利用させてもらうことにする。

ただし藁布団なのでシーツや毛布はこちらで用意することになる。


あとは路銀についてだが、余った保存食料などは買い取ってもらえることになった。

特に柿ジャムの反応が良い。瓶は今後なかなか手に入らないかもしれないので中身だけの提供となることも了承を得た。


ユーウェインと話していて、砂糖があまりこちらでは出回っていないということに気が付いた。

そして恐らく塩の流通量も少ない。近くに海があるのにとは思ったが、「汲み上げる技術がない」とのことだ。

なるほど、納得である。


砂糖と塩、調味料系は佐波先輩のお陰で余裕が有る。

そのまま販売すると質が良すぎて怪しまれる可能性もあるので、保存食料の加工物を少量ずつ下ろすというのが冬の間の現実的な労働かもしれない。


そして、荷物の入れ物については、なるべく皮製品や目立たない色のものを選んでいる。

服も無地のものをメインにしているが、ユーウェインの衣服を見ているとデザインが随分違うようだ。

そのあたりは追々改善させていくことにする。


さて、ソリ制作だ。

風呂蓋をノコギリで4つに切り分ける作業からはじめる。


外での作業になるので防寒具はバッチリ着込んでいる。少し動きづらいが許容範囲内だ。

火を使うのでミァスが怖がっては行けないと思い、玄関側で作業をしている。

いつも台所で使っている折りたたみ式の踏み台に蓋を乗せてノコギリで切って行く。それほど時間もかからずに終わった。


そして次の作業はガスバーナーで表面を少し焼くこと。


1つ分が半分に折りたためるようになっているので、内側を焼いて固定するのだ。



「うわ、わ、結構怖いな」


バーナーの勢いが思ったよりも強いので溶けるスピードも早い。

慌てて火元を離して、ペタンと半分に折り畳む。念のため雪をかけて冷やしたあと、折り畳まれたままかどうかの確認。



「次は先っぽのほうを炙って、と」


先の方を炙ると上向きに板が曲がるので滑りやすくなる。

内側を炙って折り畳んだあと板を曲げる作業を何回か繰り返して滑りの部分は完成だ。


荷台はひとまずスノコ部分の取り付け作業を行う。

スノコは3枚あって、2枚を滑りに取り付け、残り1枚は短めのスキー板代わりにするつもりだ。


早速並べてある滑りの上に乗せて位置を確認したあと、滑りをガスバーナーで炙って溶かす。

そしてスノコを乗せ、念のため麻紐で更に縛って固定させる。


3段ボックスは上手くすれば2つは載せられるだろうか。

荷台との連結は麻紐・革紐である程度固定させたあとボルトを締めて完成だ。



理想とは少し形が違うソリを横目に見て、荷造りに入る。

瓶系は割れる可能性が高いので新聞紙と梱包材の合わせ技を使う。


新聞紙だけだと湿気てしまうため、先に梱包材で包んだあと、くしゃくしゃにした新聞紙で隙間を埋める形になる。

ソリで運ぶと振動が直に伝わってしまうのでミァスに持ってもらう予定だ。


お気に入りの革製肩掛けかばんに梱包した瓶を詰め終わると、かばんに防水処理を行う。

革製の肩掛けかばんは以前ネットで注文した手作りの一品だ。

形はランドセルをペタンと潰した様な形状で、素人作成だがなかなか使い勝手が良い。


そういえば、注文した際に型紙も購入していたので、それも持って行こう。天音は忘れないうちに型紙をかばんに入れる。


村がどんなところかわからないが、聞く話に寄ると自給自足がメインの村らしい。

なるべく身の回りのものは手作りできたほうが余計な出費が嵩まないので、レシピ系は重宝するだろう。


ソリには軽めの食品系、衣料品、雑貨類等壊れにくいものを順番に入れていった。

水もこちらに区分する。ただし小さいペットボトルはすぐ飲めるようにリュックに入れておく。


緊急性のある医療品などもリュック行きだ。

あとは3段ボックスの蓋につけるクッションもどきだが、こちらも2つ目を取り急ぎ作った。

作り方は前回と一緒だ。


毛布は大きいものを1枚、ハーフサイズのブランケットを2枚。

毛布については明日出発する直前に詰め込む。


森に至るまでは、ユーウェイン曰く強行軍になるようだ。

途中で野営ということになると装備が厳しい。


森境にツリーハウスがあるそうなので、1日目が終わるまでそちらに到着することが当座の目標だ。



◆◆◆



朝ごはんは昨日のリゾットで軽く済ませて、現在は昼ご飯の準備をしている。

昨日切り分けておいた鶏モモ肉を更に刻んでミンチ状にしたものに、更に濃い目に味付けを加える。

そして朝、小麦粉を練って寝かしておいた生地で包んで、小さい方の蒸し器でさっと蒸せば、鶏ミンチの肉まんが完成だ。


これだけだと量が少ないように思えるので、干し野菜と豚コマの残りでコンソメスープを作った。


冷蔵庫の中のものはある程度整理してクーラーボックスに入れてある。

今日、寝る前に冷蔵庫内の掃除をしておきたい。



「頂きます!」


肉まんはあつあつのまま早めに食べないと、すぐに生地が硬くなってしまうのが難点だが、味は文句なく美味しい。

ひと口頬張るとジューシーな旨みたっぷりの肉汁がじわじわと口内に広がり、濃厚なエキスで舌も大満足だ。


ユーウェインも無言で食べているが、目は必死だ。

肉まんは皮を分厚く、具を少なめにしたため、腹溜まりは良いように見える。

だがユーウェインの食欲の前にはそのような小細工は無力だった。


あっと言う間になくなってしまった皿を恨めしげに見つめても、残りはない。



「……」


じとっとした視線が天音に突き刺さる。だが天音も自分の分を分け与えるつもりはない。

そもそもユーウェインの分を多めに渡してある。

よって分け与える義務もない……はずだ。


しかしユーウェインは天音の分の肉まんから目が離せない様子。



「……1個だけ、食べますか?」

「む。そちらがそう言うのであれば、仕方あるまい」


素直じゃないなぁと思う天音であった。



カセットガスコンロは村に持って行くため、天音は軽めの保存食を作り置きすることにした。

明日以降の朝ごはんの分だ。


火を使える状況とは限らないので、カロリーバー的なものを作ることにする。

材料は卵、塩コショウコンソメ、重曹、片栗粉と小麦粉、乾燥刻み野菜、ハムベーコンの残り、チーズ。

冷蔵庫内を総さらいして作る栄養食は、日本でよく時間がないときに食べていた市販の栄養食品の形に成型するつもりだ。


さつまいもペーストと合わせると、腹持ちもするし栄養価も高い食事になるだろう。


早速作業に入る。

卵をボウルに割り入れて調味料と重曹と一緒に混ぜる。


粉ものをふるいにかけながら少しずつ入れていく。

しっかり混ざりきったら具材を混ぜて内側にバターを塗った焼型に流し込む。焼型はアルミ製のものを使う。


オーブンが使えないので、蒸し器に数分入れれば、ぷくりと膨らんだ生地のお目見えだ。

ほっくほくで美味しそうだが、これは今食べられない。



「何だと……」


あらかじめ念を押しておいたが、ユーウェインは落ち込んでいる様子だ。

明日以降の分ですよ、と言っても食欲スイッチが入ってしまったようだ。

だが天音は心を鬼にしてピシャリと言い切る。



「我慢してください」


ただでさえ限りある食材なのだから有効に使わないといけない。

誤算はユーウェインの食欲が天音の想像以上だったことだ。

短剣の手入れをしているユーウェインの背中には哀愁が漂っているように……見えなくもない。


可哀想な気もしないでもないが、村に下りるまで食材を保たせなければ。


(村に降りるまで食材が保つのか心配だ……)


天音は軽い心労を感じてこっそり溜息をついたのだった……。


14話は14日12時に投稿予定です。

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