§6.5 確かな絆
「本当に?」
「はい……准教授だって分かってからも、やっぱり樹くんのことが好きで……」
涙をこぼしながら、結衣は微笑んだ。
その涙を見て、樹はゆっくりと彼女を抱き寄せた。
「准教授は関係ないよ。だって、そもそも知らなかったくせに」
そう言って、彼は少しだけ得意げに笑った。
結衣は、樹の言葉に顔を赤くして、彼の胸に顔を埋めた。
「……ずるい……」
そう言って、結衣は彼の腕の中で、小さく微笑んだ。
樹は結衣の頭を優しく撫でながら、静かに言った。
「これからも、今まで通りの樹でいるから安心して」
「やだ」
想像とは違う返答が返ってきたため、樹は目を丸くした。
結衣は顔を上げて、少しいたずらっぽく微笑んだ。
「准教授として仕事してる格好いい樹くんも見たい」
樹は驚いて結衣を見つめた。
「え?」
「だって、樹くんが学会で発表してる姿とか、企業の人と打ち合わせしてる姿とか、とにかく先生らしいところ一度も見たことないんだもん」
「それは……結衣さんが気づいてなかっただけで……」
樹は困ったように呟いた。
「知らない。とにかく見たいの」
結衣は頬を膨らませた。
「今まで見逃してた分、これから全部見せて」
樹は苦笑しながらも、その理不尽な要求が可愛くて仕方なかった。
「じゃあ、今度学会発表があるから、聴きに来る? 医学系のAIの話だから、結衣さんにも分かりやすいと思う」
「うん!」
結衣は嬉しそうに頷いた。
「でも、結衣さんの前では、やっぱりただの樹でいたいな」
「それも、もちろん」
二人は見つめ合って、幸せそうに微笑んだ。
「ところで……」
「なあに、樹くん?」
結衣は恋人同士となった喜びから、甘えた感じで小首を傾げる。
「研究協力のお願いした時、インフォームドコンセントの書類の表紙に、僕の名前が代表研究者として書いてあったんだけど、読んでなかったの?」
結衣はとっさに樹から目を逸らした。
(あのタブレットで署名した時だ……堅苦しい書類に目を通すのが面倒だったので、最初から最後までスワイプして読んでいなかったとは――言えない)
「ねぇ、結衣さん、ちょっとこっち見てよ。ねぇ」
全てを察した半笑いの樹にガン詰めされる結衣であった――
次回「§6.6 二人の未来」
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