第5章 剥がれる仮面/§5.1 親友の追及
『結衣!? 大丈夫なの!?』
『樹くんと一緒にいるの!?』
『返事して! 心配だから!』
『もう朝なのにまだ返事ない……』
『まさか何かされた!?』
慌てて返信する。
『洋子、ごめん! 電池切れてた。今帰った。大丈夫だよ』
すぐに既読がつき、電話がかかってきた。
「結衣! 何があったの!? 『樹くんやさしい』とか『バーきた』とか、しかも変なクマのスタンプ連打して! その後音信不通って!」
「ごめん、心配かけて……あの時酔っちゃって」
「酔っちゃって? まさか……」
洋子の声に心配と怒りが混じっている。
「樹くんが介抱してくれて……朝まで一緒にいてくれたの」
「朝まで一緒に!?」
「うん、すごく優しくしてもらって……」
どこか浮かれたような結衣の声に、洋子の脳裏を最悪のシナリオがよぎった。
「ちょっと待って! まさか結衣、初めてを……!?」
「え?」
「酔わせて、朝まで一緒で、優しくしてもらったって……それって……」
「ち、違う! そういうんじゃない!」
結衣は慌てて否定した。
「研究室のソファで寝ただけ! 樹くんは別の部屋にいたし!」
「研究室? なんで研究室?」
「大学が近かったから……家まで送るより安全だって」
「ふーん……で、本当に何もなかったの?」
洋子の疑り深い声に、結衣は思わず昨夜の失態を思い出して顔を赤らめた。
「な、何もないよ!」
「その間が怪しい」
「本当だってば! 樹くんは紳士的だったし……」
結衣は必死に弁解する。まさか、お酒のせいで失禁して介抱されたなんて、口が裂けても言えるはずがない。
「朝になったら……いや、もうお昼だったけど味噌汁作ってくれて、それで帰ってきたの」
「味噌汁?」
洋子の声が少し和らいだ。
「うん、二日酔いにいいからって。すごく美味しかった」
「へー……なんか意外と家庭的なんだね、樹くんって」
「そうなの。料理上手で驚いた」
「で、結衣」
洋子の声が真剣になった。
「樹くんのこと、どう思ってるの?」
結衣は少し黙ってから、小さな声で答えた。
「……好きかも」
「やっぱり! いつから?」
「昨日かな……介抱してもらって、優しくて……でも、もっと前からだったのかも……」
結衣の声が恥ずかしそうに震える。
「そっか。じゃあ、ちゃんと応援するよ」
「本当?」
「うん。でも、相手のこともっとちゃんと知った方がいいよ。樹くんって、苗字は?」
「え? 樹が苗字だよ」
「あ、そうなんだ。じゃあ下の名前は?」
「聞いたことない……」
洋子は少し不思議に思いながらも、その名前をメモした。
次回「§5.2 明かされた素顔」
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