オデット・ラマディエだった者1
オデット目線の後日談です。
中編程度になる予定です。
※第1部の騎士団長令息の名前を、アルノーに変更いたしました。
(名前が被ってしまっていたため)
よろしくお願いします。
「もうっ! マナーに、歴史に、文字の練習に……仕方ないじゃない! 私、元々平民なんだからぁー!」
私──オデットは、光が当たると独特の桃色に光る艶のある銀髪を振り乱していた。夕暮れ色の丸い瞳は、対処できない課題に涙で濡れている。
王宮に来るように言われた。私の時代が来ると思った。
でも、私のピークって、きっと悪役令嬢の罪を断罪しようとしたあのパーティーだったのよ。十八歳にして人生のピーク終了。後は退屈な人生を送って、適当なところで死ぬの。
──逃げちゃう?
咄嗟に甘い甘い誘惑の言葉を脳内の悪魔が囁いた。
部屋は二階。あるのは扉と窓が一つずつ。扉の向こうには王宮に仕える屈強な騎士。
「……となればここでしょっ!」
桃色の花弁のようなシフォンが重ねられたドレスに桃色のシューズ。頭にはやはり桃色の大きなリボン。……いかにもロマンス小説のヒロインのような可憐な服装で、私は窓枠を華麗に蹴って外へと逃げ出した。
──バイバイ、私の部屋。……また夜になったら帰ってくるけど。行くとこないし。
まずは物陰に隠れよう。そう思って庭の方へと踵を返した瞬間、私の視界は深い緋色に覆われた。




