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24. リベンジ

(注意)本日2回目の投稿です。(1/4)












   24



「要するにさ、捉え方の問題なんだよな」


 と、グレイはカミコに自分の意図を説明した。


「短い時間で魔物が湧くあの部屋は、確かに非常に危険な場所ではある。ただ、逆に見ることもできるんだよ。つまり、短い時間で魔物が供給される部屋だと」

「連戦になってしまう危険性を、連戦ができる利点に変えるってこと?」

「そういうこと」


 これは、サクラを迷宮に連れていくと決めたときから考えていたことだった。


 というのも、魔石の収集効率の問題があったからだ。


 単独で探索をしていたときの魔石獲得数は、『邪神の使徒』としての戦い方を確立したあとで1日20個から25個だった。

 これがサクラを連れていくようになって、平均6~7個程度にまで落ちたうえに、強化に使う魔石をふたりで分けるようになったので必要数が2倍に増えた。


 サクラが戦えるようになったことで、全体としての戦力が向上し、そのぶんだけ安全性も確保されたいま、次はガタ落ちになっていた効率をどうにかする必要があったのだ。


 そこで向かったのが、あの部屋だった。


「魔物を探すための時間がなくなれば、それだけ効率は跳ね上がる。理屈でいえば、確かにその通りだけどさ。はー。それはちょっと、考え付かなかったなあ」

「そうか? あんなに使えそうな仕掛け、使わないともったいないだろ」

「それだよ、それ」


 純粋に疑問を口にするグレイに、カミコは思わずといったふうに苦笑をこぼした。


「迷宮っていうのは神の与えた試練なんだから。『乗り越えよう』とは思っても『使えそう』なんて発想はまずありえないんだよ」

「……よくわからないな」


 正直なところを口にした。


 こちらの世界の価値観には詳しくないのだ。


 正直、ピンと来ない。

 サクラもこのあたりは同じだろう。


 ただ、ひとつ気になることがあるとすれば……。


「……ひょっとして、不愉快だったか?」


 カミコもまた神のひと柱だ。


 ありえない発想というものは、普通に考えれば非常識なものだろう。

 顰蹙を買う可能性は高い。


 しかし、カミコは首を横に振った。


「別に。わたしは気にしないよ。だいたい、キミ、契約神であるわたしのことだって、敬ったりしてないじゃん。それなのに、なんで他の神のことは敬うのさ」

「それもそうだな」


 カミコのことは敬ったりはしていない。


 といっても、ないがしろにしているわけでもないのだが。


 敬意はあるし、感謝もしている。

 ただ、それは神への崇拝ではなく、人に向けるたぐいのものだというだけで。


「やっぱ、敬ったほうがいいのか」

「んーん。キミはそれでいいよ」


 尋ねてみると、あっさりとカミコはかぶりを振った。


「そういうのは求めてないし。むしろ、好ましい……」


 言い掛けて、なにかに気付いたように、はっと彼女は目を見開いた。


「い、いや。いまのはパートナーとしてってコトで、深い意味はないんだけどっ」

「深い意味? 他になにか意味があるのか?」

「んー! んんんん!? ないないないない! ないよ、ないともさ!」

「なにをそんな焦ってるんだ」

「なんでもない! ともかくさ!」


 整った顔を少し上気させて、カミコはなにか誤魔化すように言ったのだ。


「好きにやるといいってこと!」


   ***


 というわけで、好きにやることになった。


 もちろん、戦いは慎重に。


 最初は連戦回数は、余裕を持って数回程度に抑えた。

 終われば即座に撤退して、近くで休憩を十分に取る。


 魔物はたまに2体湧くこともあり、段取りを崩されることもあったが、それも想定内。

 部屋の入口に陣取っているので、サクラを肩に担いで即座に通路に撤退することができた。


 少しずつ無理なく数を増やして、戦闘を最適化していった。


 何日も、何日も。


 その結果は――。


「魔石、うまい、でした」

「うん。順調だったな」


 初日に50個程度だった獲得魔石は、1日当たり70個近くにまで増えた。


 サクラと半分にすることを考えても、35個。

 ひとりでやっていた頃で25個程度だったことを考えれば、かなり増えた計算になる。


「……もっとも、それもいつまでも続かないか」

「残念、です」


 ふたりで言い合い、石碑に目をやった。


 今日はすでにそれなりの時間を戦いに費やして、いまは次に湧くのを待っているところだった。


 しかし、インターバルの時間がいつもより長い。


 最近、こういうことがたまにあった。


 石碑に目をやれば、そこに描かれた魔法の文字列に宿る輝きが失われかけていた。


 単純な話、この部屋の仕組みは永続的なものではなかったのである。


「当たり前といえば、当たり前なんだけど。本当に残念だよなあ……」


 パチリと最後に輝いて、魔法の文字列から光が失われた。


 ただ、その最後の瞬間、まるで焼き切れた瞬間にスパークが生じるように、魔法の罠は本来より強力な魔物を生み出したのだ。


 グレイは目を細めた。


「……ここで、お前が来るかよ」


 上半身の骨の体は骨の槍を携え、下半身の骨の狼の四肢が石の床を踏みつける。


 こちらに向けられる骸骨の眼窩の奥には、生者への憎しみに満ちた鬼火が燃えている。


 死の具現とも思えるその姿。

 額に生えるのは『ふたつ角』。


「スケルトン・ナイト……!」


 以前に遭遇し、殺されかけた因縁の魔物だった。


 あのときは、万全の態勢を整えていたにもかかわらず、為す術もなく殺されかけた。

 腕力に頑強さ、速度に索敵能力、すべてを非常に高い水準で兼ね備えており、その凶悪さは『ふたつ角』という恐るべき魔物のありようを体現した存在とも言えるだろう。


 以前は一目散に逃亡を選択した。


 慎重に部屋の入り口に陣取っていたため、今回も逃亡を試みることは可能ではある。


 だが……。


「やるぞ、サクラ」

「はい」


 グレイは剣を構えて、サクラもまた素直に応じて魔力を高めた。


 ふたりが選択したのは、逃亡ではなく交戦だった。


 果たして、その選択は正しいものかどうか。

 それを測るのは、戦いの結果のみ。


「あのときの借りを返してやる……!」


 グレイが叫ぶと同時、スケルトン・ソルジャーは背負った弓を手にして矢をつがえた。


 眼窩の奥の鬼火が勢いを増す。

 放たれた骨の一矢は、まさに魔的だった。


 ただのスケルトンとは位階さえ隔たった、怪物の膂力で撃ち放たれたのだ。

 常人の体なら、何人もまとめてぶち抜くだろう。


 これが『ふたつ角』。

 この世界においては、町ひとつ簡単に滅ぼしかねない災厄の存在である。


 魔の一矢を防ぐことは、常人はおろか生半可な『紋章持ち』でも不可能で――


「この程度!」


 しかし、その矢は届かない。


 正確にして強烈な薙ぎ払いの剣撃が防いだからだ。


 強化した動体視力で矢を捉えたグレイが、見事打ち落としてみせたのだった。


 そこに危うげはまったくない。


 過去に遭遇したときであれば、このように正面から対応することはできなかっただろう。


 その手応えに、グレイは確信を得る。


 いまの自分はあのときとは違う。


 それも当然。

 以前、グレイがスケルトン・ナイトと遭遇したのは50日ほど前のことだった。


 当時は戦闘にこそ慣れつつあったが、まだ『邪神の契約者』としての戦い方にも達しておらず、魂に蓄えた魔石の総数は30にも届いていなかった。


 しかし、それからもグレイは単独での探索を続け、その後はサクラとの連携を探りつつ戦闘経験を積んできた。


 さらに、この部屋で効率よく戦闘を繰り返したのが15日間。

 集めに集めた魔石の大半は、自己強化に使用した。


 サクラと半分にしたとはいえ、その数は500個近くになる。


 この部屋に来る前からの累計は――実に()()()()

 純粋な存在強化というだけでなく、この数はそれだけ戦闘を繰り返して経験を積んだということを意味している。


 以前にスケルトン・ナイトに遭遇したときとは、単純な地力からして大きく違っていた。


 魂に蓄えた魔力は三階紋寸前にまで迫り、毎日欠かさず積み上げられた戦闘経験はすでに歴戦の戦士にすら匹敵する。


 その成果を、発揮するときがきたのだった。


「今度はこちらから行くぞ!」


 自分に喝を入れるように叫び、グレイは地面を蹴った。


 矢を防がれたスケルトン・ナイトもまた、即座に動いていた。


 骸骨の狼の下肢が地面を蹴り、近付けば即座に手にした剛槍を繰り出す。


 しかし、城壁でさえ打ち砕くだろう一撃は、迎撃に動いたグレイを捉えない。


 実戦で身についた身のこなしは獣のように。

 槍を回避して、必要とあれば芯を外して剣で受ける。


 それでも、力尽くでスケルトン・ナイトはグレイを押し切れたはずだった。

 両者の腕力にはそれだけの差があったからだ。


 しかし、そうはならない。

 させない。


 グレイが握る錆びた剣に宿った昏い闇の魔力が、攻撃の威力を押さえつけていたからだ。


 これこそが、存在侵食の魔法を宿した『侵食の魔剣』。

 敵を衰弱させる力――その『()()()()()()()』。


 ただ地力を向上させるだけではない。

 技術面でも、グレイは力を蓄えていた。


 魔法の次の段階、『イメージの拡張』に成功していたのである。


 通常の属性魔法にはまったく適性のなかったグレイだったが、その反面で唯一適性のあった存在侵食の魔法への適性は突き抜けたものだった。


 それはつまり、生前の彼がまともな生活を送ることもできず、ひたすら肉体を侵略する病魔と闘い続ける日々しか許されなかった表れとも言えるのだが……。


 その無残さが、ここではプラスに働いた。


 拡張された衰弱のイメージは、敵の攻撃の威力さえも減衰させる。


「おおおお!」


 打ち付けられる骨の槍に剣を合わせれば、昏い魔力がまとわりついて威力を抑える。


 スケルトン・ナイトの恐るべき膂力で放たれる一撃も、この剣ならどうにか受けとめられたのだ。


 そうしてグレイが敵を押さえ付けている間に、うしろで守られていたサクラの魔法が発動した。


「お兄様は、わたしが、守ります」


 少女の体から、光り輝く風が巻き起こる。


 グレイほどではないものの、サクラもまた500個以上の魔石により強化されている。

 その魔力量は以前より大きく増強されていた。


 だが、いまの彼女の魔法はそれだけでは終わらない。


 そもそも、『イメージの拡張』による『上級魔法』への道は、彼女のために紹介されたものだった。


 彼女の魔法もまた、グレイと同じく更なる段階に進んでいたのである。


「叩き潰す、です」


 知っての通り、翡翠色に輝く魔法の風は、精霊としての彼女自身として定義されている。


 しかし、現在の彼女はホムンクルスの少女である。


 よって、彼女は『いまの自身を投影する』というかたちで、更に魔法を拡張した。


 それが魔法『翡翠の腕』。

 魔法の風は輝く剛腕と化すと、以前とは比べものにならない精度と威力を両立させて、戦いの最中のスケルトン・ナイトを殴りつけた。


 大ダメージを受けたスケルトン・ナイトが吹き飛ばされて、骨片をこぼしてよろめく。


「このままいくぞ!」

「はい、お兄様……っ」


 かつては殺されかけた魔物を、ふたりの連携は圧倒した。

◆以前に殺されかかったスケルトン・ナイトを倒せるまでになりました。

リベンジ成功です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ・放たれた骨の一矢は、まさに魔的だった。 これは『魔』そのものとか言う意味でしょうか? 若干わかりづらいかな? 魔弾みたいなわかりやすいたとえとか魔を体現した~とか詳しい説明が欲しいかも?
[気になる点] この存在侵食の拡張って魔法の減衰にも有効だよね? でもその時って、魔力10を消費した攻撃に対して、グレイも魔力10を消費してやっと魔法を消滅させられるのか? それだと例えば消費10の火…
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