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20. 今後の課題

   20



「それじゃあ、ミーティングだ」


 部屋に戻ってきたグレイは、早速、今後について話をすることにした。


 祭壇の前に座って、口を開く。


「サクラの持つ可能性は、確かに俺にとって魅力的なものだった」

「魅力的……!」


 向かい合ってちょこんと座るサクラが、びくっと肩を跳ねさせた。


「魅力的、ですか。お兄様に、とって」

「ああ。魅力的だ」

「……っ」


 可能性があると言われたのが嬉しかったのか、ほおを赤くして息をのむサクラに対して、説明を続けた。


「特に、魔法の威力だな。あれはすごかった」


 直撃したスケルトンの腕を一撃で砕き、その余波で体ごと吹き飛ばしてひびだらけにしたあの威力。

 あれは、自分にはないものだ。


 さすがに、一度見たカミコの魔法に比べれば数段落ちるが、威力が並外れたものなのは違いない。


「だからな、サクラ……サクラ?」


 改めて呼びかけたところで、ふと正面に座るサクラの様子がおかしいことに気付いた。


「魅力、的。お兄様が、魅力的と……ふわぁあ」


 視線がこちらに向いていない。

 なんだか、ふわふわした雰囲気で心ここにあらずだった。


「お兄様が……」

「おーい、サクラ。話、続けるよ」


 祭壇に座ったカミコが、上の空のサクラに声をかける。

 苦笑いだった。


「いまのはグレイが悪いけどさぁ」

「え? 俺? なんでそうなる?」

「なんででも」

「釈然としねえ……」


 グレイがうめき声をあげたあたりで、サクラも我に返ったようだった。


 胸を抑えて、首を傾げている。


「いまのは、なんでしょう。不思議な、感じで」

「あはは。まだちょっとサクラには早いかもねえ。その感覚を大事にしなさい」


 カミコは優しく言い聞かせてやったあとで、グレイに視線を向けてきた。


「それで、魔法の威力に関してだっけ。ま。サクラは精霊混じりだからね」

「やっぱりそこが大きいのか」

「うん。この子は風や雷を司る、空の眷属。その手の魔法に関する適性は飛び抜けてる。もともと、体のほうには魔法の知識が埋め込まれてたから、いろんな魔法を使えはするだろうけど、風だけは突出してるだろうね」


 逆に言えば、他の属性魔法はあそこまでの威力は出せないということだが、そこはかまわないとグレイは判断する。


 下手なオールラウンダーより、特化型をうまく運用してやるほうが強い。

 それは、自分自身で実証していることだった。


「魔法の素養があるって聞いたときには、駄目だった自分のことを思ってへこんだもんだけど……むしろよかったかもしれないな。属性魔法の知識に関していえば、あったとしても俺じゃ並程度にしか使えなかっただろうし。精霊憑きのサクラが持っているほうがよほど有用だ」

「へへーん、だからわたしが言ったでしょ。サクラを連れていったほうがいいってさ」


 いかにも自慢げに、豊かな胸を張ってみせるが、今回については彼女の手柄は大きい。


 これで、迷宮攻略がさらにはかどる可能性が出てきた。


 ただし、まだそれは可能性の段階だ。


「だけど、改善点はいろいろある。まずは魔法の操作性だ。あれじゃあ、一緒に戦えない。巻き込まれかねないからな」


 スケルトンの自由と同時に味方の行動まで阻害してしまった大風も、動きをとめていたのに芯を捉えることのできなかった風の弾丸も、制御が甘かった。


 いまのままでは効果は限定的だし、なにより誤射が怖い。


 検証報告を聞いたカミコが、思案げに言った。


「ふむ。サクラのレベルだったら、いっぱしの魔法使いとしては十分なんだけど、確かにたったふたりで迷宮に挑むには、力不足かもしれないね」

「あとは、近接での最低限の自衛の手段がないとな。肉弾戦闘はできなくてもいいけど、なにかあったときに俺が駆け付けるまで、ある程度は持ちこたえられないと危ない。このへんが今後の課題だ」

「わかり、ました。がんばります」


 コクコクと頷くサクラ。

 これで熱意はあるのだろう、無表情でも目は真剣だった。


「といっても、どうがんばるかなんだけどな。カミコ、なにか良い案はないか?」


 魔法に関しては、自分よりもカミコのほうがよく知っている。

 話を振ってみると、彼女は思案する顔を見せた。


「そうだねー。当たり前のことだけど、まずは慣れることが第一かな。この部屋での練習も大事だけど、戦闘で使うのは練習とは違うからね。魔法はとにかくイメージが大事だから、精神状態に大きく影響されるし」

「実際の戦いで、場数を踏めってことか」

「うん。ただ、その場数を踏むためには、サクラに戦闘力がないと危ないんだよね? 難しいなあ」


 戦力を得るためには戦闘経験が必要で、戦闘経験を得るためには戦力が要る。


 部屋を開けるための鍵が部屋のなかにあるような、どうしようもなくもありがちな話だ。

 だが、対処しなければ話が進まない。


「そこはとりあえず、こっちでなんとかするよ」


 サクラがひとりだったらどうしようもなかったかもしれないが、さいわい、ここには自分がいる。


 自分もそうだったが、経験を積むのは必要な行程だ。

 そこをおざなりにするつもりはない。


 いま多少効率が悪くなっても、あとで帳尻があえばいいのだ。それに――。


「――ある意味、俺にとっても好都合かもしれないしな」

「ふむ? まあ考えがあるならいいけどさ」


 カミコは少し首を傾げつつ、さらに話を進めた。


「とにかく、慣らしてあげるのはいいことだと思うよ。ただ、それだけだと効率が悪いから……アドバイスとしては『イメージの拡張』を習得することかな」

「『イメージの拡張』?」

「現実にある現象に親しみ、きちんと想像できることが魔法には大事。これは前に言ったよね?

 ただ、それだけだと現実を越えることはできないんだよ。火は火でしかなく、風は風でしかない。ほら。風を操作するといっても、風は本来気ままに吹くものだし。操作が難しくても当然でしょ」

「……なるほど」


 魔法を使うためには、まず現実の現象を克明に思い浮かべなければいけない。


 だが、上を目指すならそれだけではいけないと。


「ただの風を自由に動かそうとしても難しいわけ。だから、自由に動かしたいのであれば、そのようなイメージを追加してやらないといけない。これが、イメージの拡張だよ。できるようになれば、精度は上がるし威力だって増す」

「そういえば、カミコは水を剣みたいなかたちにしてたよな」


 スケルトン・ソルジャーを撃退したときの話だ。


 猛々しくも美しい姿は、よく覚えていた。


「そうそう。あれは一例だね。想像の翼を広げることが重要なんだ。ただし、あまり突飛だと難易度が跳ねあがるから、そこはきちんと考えないといけないけどね。

 ただ使えるってだけの魔法が『下級魔法』と呼ばれるのに対して、イメージの拡張を修得できれば『上級魔法』の使い手とされる。余談だけど、身体能力強化も広義では魔法なんだけど、いわゆる魔法とはされないのが通例だね。あれは前衛の戦士や剣士も使える……というか、彼らのほうがうまいから」

「なるほどな」


 いまのところ、グレイ自身は魔法使いではないということだ。


 練習中の『弱体化と衰弱』の魔法がうまくいったときに、初めて魔法を使えると言えるということだろう。


「上級魔法か。サクラが魔法特化で戦うならほしいところだな」

「うん。迷宮探索についていこうとするなら、そうだね」


 カミコは頷き、さらに続けた。


「ただ、これはサクラだけの話じゃないけどね」

「ん? というと?」

「グレイもできるようになるといいよ。四階紋に上がるためには必須の技能だからね」

「四階紋に?」


 サクラの話だったのが自分の話になって、グレイは目を丸めた。


 もっとも、生きのびるための力を得るための話であれば、聞き逃せない。


「四階紋に上がるために必要な技能か。似たような話を前にも聞いたな。確か具現化の魔法に関しての話だったと思うけど」


 具現化の魔法は四階紋に上がるためには必須の技能だと、以前にカミコが言っていたことがあるのを覚えていた。


 ちなみに、使えると便利なので、あれから具現化の魔法も練習はしている。


 というのも、特に永続的に具現化した物品は、自分の意思で出したり引っ込めたりできるからだ。

 探索ではいちいちホームであるこの部屋まで戻っていられないので、先々移動距離が延びることを考えると、持ち物を減らせるこの技能は習得しておいて損はない。


 まだ練習中であり、いちからとなると難しいが、実は部分的には成功してもいる。

 戦闘中に破けた服を修繕したりしているのがそれだ。


 また、特殊なものではあるが『侵食と弱体化』の魔法は自分も適性があるのだ。

 上級魔法も習得できる可能性はある。


 先があるというのなら、興味はあった。


 興味を示したこちらに対して、カミコが瞬きをして首を傾げた。


「ん? 話、聞きたいの?」

「できれば。聞いて減るもんじゃないだろ」

「そうだね。んー。四階紋なんて上がれる子はほぼいないからまだ話さなかったけど……早いうちに聞いておくのもいいかもね。グレイなら、いずれは上がれるかもしれないし」

「それはひいき目に見過ぎだけどな」


 冗談のつもりなのだろうが、からかわれているように感じてしまう。


 なにせ四階紋は『英雄の領域』だ。


 自分のような二階紋スタートは珍しいらしいが、それはあくまでも前世での経験があってのこと。


 英雄なんて器ではない。

 自分はただあがいているだけだ。


 しかし、言われたカミコのほうはケラケラと屈託なく笑った。


「どうかな。ま。神様の言うことだ。覚えておきなよ」


 そう言うと、ぶらぶらと揺らしていた足をとめた。


 グレイは少しどきりとした。

 カミコの黄金の瞳に、思いのほか真摯な光が宿っていたからだ。


「さてと。四階紋についてだったね」


 思わず背筋が伸びるような、真剣な声色だった。

 それだけで、空気が澄んだものに変わるような。


 英雄に至った人間に対する確かな敬意を込めて、カミコは語った。


「四階紋まで至った人間っていうのは、例外なくとある技能を持ってるんだ。それが、『神器創成』。己の在り方をかたちにした専用武装。英雄の振るう神域の武具。それが『神器』と呼ばれるものなんだ」

「……つまりは、カミコ。それは『具現化した武器』に『上級魔法』の効果を付与したものか?」


 必要なのが『具現化魔法』と『上級魔法』だという情報から、そう推察したのだが、カミコは首を横に振った。


「いいや。違う。それはそれで便利で強力な武器だし、『神器創成』を会得するための前段階になるんだけどね。『神器』はそういった次元にはないんだよ。まさしく次元が違う」

「次元が……?」

「武器と魔法を組み合わせるだけじゃない。というか、そこから先は技術じゃないんだよ。魔法は意志の具象化だけれど、四階紋まで上り詰めた魂はそこに留まらない。

 そもそも、なぜ四階紋以上が英雄の領域とされるのか。三階紋以下と分かつものはなんなのか。そう。それが『神器』の存在なんだよ。さっきも言った通り『神器』は己の在り方をかたちにした専用武装、英雄の振るう神域の武具だ。言い換えればこれは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。そして、それこそが使徒の本来の……」


 そこまで言いかけたところで、カミコは言葉を呑み込んだ。


 黄金の瞳がグレイを映し出し、真剣な表情が崩れる。

 ふわりと笑う。


「その顔は……グレイ? 想像が付かないって顔だね?」

「……まあな」


 図星だった。


 神の領域に足を踏み入れる、なんて大仰なことを言われてもわからない。

 正直に認めると、カミコは苦笑した。


「あははー。やっぱり、ちょっと早かったかな」

「みたいだな」


 グレイも苦笑を返した。


「まあ、そんな雲の上の話よりも、手の届く現実のほうをどうにかするさ」

「そうだね。そのほうがキミらしい」


 そうカミコも認めた。


 ただ、邪神である少女は契約者である少年に、こうも続けたのだった。


「一歩ずつ、進んでいけばいいよ。その果てに、もしも辿り着いたのなら思い出して。かたく揺るぎない意志を武器に、困難を乗り越えた経験を芯にして、心の底からの願望で世界を変えるんだ。きっと、キミにならできるさ」


◆今後の対策と、ふわふわサクラ。


精霊と融合して起き上がり、割としゃべるようになりました。

サクラとカミコ、皆様はどちらがお好みでしょうか?


また、四階紋について語られましたね。

グレイはその領域に達することができるのか。今後をお待ちください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「そういえば、カミコは水を剣みたなかたちにしてたよな」 「剣みたなかたち」 → 「剣みたいなかたち」 でしょうか?
[一言] なんだかんだ、グレイはカミコがこのまま一人でずっと閉じ込められてる事を許容できないはずだから、鬼を倒せるレベルまで強くなるんだろうな。
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