13. 隠し事
(注意)本日2回目の投稿です。(12/30)
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魔石の収集効率が悪いこと。
ここをどうにかしないと、成長を速めることは難しい。
痛みを無視して怪我を許容することで、確かにスケルトンを倒す時間は短くなった。
けれど、実のところ、これだけではあまり収集効率を上げることはできない。
なぜかといえば、収集効率が悪い根本的な原因は、そこではないからだ。
それでは、どこが原因なのか。
言い換えれば、どこで一番時間を費やしているのか。
答えは――魔物の探索だ。
これは当たり前の話で、もともと、10分から20分で魔物を倒すことはできていたのだ。
なのに、1日に手に入る魔石の数は5,6個程度だった。
1日のうち、戦いにかける時間は1時間から2時間程度の計算になる。
つまりは、1日のうち戦い以外の時間――魔物の探索の時間が、ほぼすべてを占めていたということである。
これが、効率が悪い原因だった。
それでは、なぜそんなに時間がかかっていたのかといえば、対象にしていた魔物の条件が厳しかったからだ。
狙いは『ひとつ角』が1体。
これだけに絞っていた。
2体以上でいることが多い魔物は、対象から外していた。
1体しかいなくても、近くに他にいて2体以上になる可能性が高いときも避けていた。
これでは効率が悪くて当然だ。
そして、ここは改善が可能なポイントだとグレイは判断した。
そもそも、この方針は『ひとつ角』1体がグレイの戦える限界だという、カミコの見立てをもとにしたものだ。
この彼女の見立てが間違っていたというわけでは決してない。
ただ、前提が違えば結論も変わってくるというだけのこと。
カミコは『グレイが自傷しないように力をセーブすること』を前提にしていた。
敵からの攻撃を受ければ深く傷付いてしまうグレイの貧弱さから、なるべく傷付かないように配慮した。
だが、『どれだけ負傷しても損傷を無視して戦い続けられること』が、邪神の契約者グレイの特性だとすれば、この配慮は特性を殺してしまう。
逆に言えば、その配慮さえ取り払ってしまえば――対象にできる敵の種類は、劇的に増加する。
「あぁああ!」
気合いとともに、正面のスケルトンの頭を剣で叩き潰す。
過剰な力に、柄を握っていた右手から血が飛び散る。
スケルトンが崩れ落ちた。
だが、見届けている暇はない。
「こっちか!」
うしろに足音。
振り返れば、別のスケルトンが突っ込んできている。
同時に相手をしていた、2体目だ。
カカカカッと、骨がこすれ合う音。
槍のように、指を立てた腕が突き出される。
タイミングは際どい、が……。
「……ぐっ」
即座に身をひるがえしたことで直撃だけは回避して、脇腹に浅くかすめるにとどめる。
軽くもろい体は、それだけでもかなりのダメージがある。
肉を抉られ、衝撃が内臓を揺らす。
痛みと吐き気に、息がとまる。
動きはとめない。
これくらいなら、無視できる。
「お返しだ!」
前かがみになった骸骨の後頭部に、左の拳を振り下ろした。
反動で拳にもダメージがあるが、これも無視。
よろめいたスケルトンに、大上段から振り下ろしの一撃を繰り出す。
「はあぁああ!」
剣が頭蓋骨にめり込み、スケルトンが地面に倒れる。
それでもバタバタと抵抗しようとしたスケルトンだが、これは予想はしていた。
間髪入れずに、剣を踏みつけて体重を込めた。
錆びているくせに、この剣は丈夫だ。
こんぼうみたいな使い方をしているのに、これまで欠けたことはない。
仮にも邪神の持ち物だというので、特別なものなのかもしれない。
「倒れろぉお!」
ひときわ力を込めると、頭蓋骨が砕けた。
動きがとまり、骨の体が崩れ始める。
ふうと息をついた。
残ったのは魔石がふたつと、傷付いたホムンクルスがひとり。
2体同時に相手取っての、戦いの勝利。
戦い方を変えてから、5日が経過していた。
***
戦いが終わると、まずは全身の怪我の程度を確認する。
怪我は多いが、致命的なものはない。
問題なしと判断する。
次に魔石を拾い上げる。
身をかがめると、少しめまいがした。
もちろん、この程度はどうってことないけれど……。
精霊がまわりを飛び回り始めた。
「ああ。大丈夫だから」
最近はいつも精霊はこんな感じだ。
傷を見るように、すぐ近くまで寄ってくるので、ひらひらと手を振ってやめさせる。
「ただ……そうだな。少し休憩してから帰るか」
今日一日の探索も、これで終わりだ。
疲れを感じたので、休んでいくことにする。
端に寄って、壁を背にして座り込んだ。
「……」
落ち着いて見てみると、全身がボロボロだった。
手や腕はもちろん、体中が傷だらけだ。
殴られたものもあれば、えぐられたものもある。
ただ、きちんと致命傷は避けているし、これだけの怪我をよしとしたからこそ、得られた成果は大きい。
「今日は、戦闘回数が14……魔石はこれで23個か」
戦い方を変えてから5日間。
以前に比べれば、1日の戦闘回数だけでも約3倍、回収できた魔石数では4倍ほどに増えている。
まさに劇的だった。
強化に使用した魔石の数は、ここ5日は平均して1日に20個弱
今日のぶんを使用すれば、累積で実に124個。
戦い方を変えるまでの3週間と少しで累積30個弱程度しか使えなかったことを思えば、状況は劇的に変化している。
もちろん、その3週間で戦いに慣れて、魔力の扱いもうまくなり、他にもシャドー対策の魔力の扱いを覚える等の準備を整えたからこその現状だ。
使用した魔石も100を超えると、実感として少し強くなったのがわかる。
具体的にいえば、明らかに扱える魔力量が増えていた。
魔力量の増加は、戦闘力に直結する。
相変わらず肉体強度は脆弱だが、自然治癒能力あたりは伸びが大きい。
加えて、自然治癒に集中して魔力を回すこともできるようになった。
戦闘の間のインターバルを、それだけ減らせるということだ。
傷がだいたい治ったところで立ち上がる。
折れた骨がある程度繋がるまで、もう30分ほどしかかからない。
最後に魔力を込めて軽く体を払う。
破けて血で汚れていた服が魔法で元の通りになったのを確認してから、帰路についた。
***
「……数がおかしい」
邪神の封印部屋に帰ってきたあとのことだった。
「おかしい」
納得いかない様子で、カミコが首をひねっていた。
「おーかーしーいー」
「……」
体ごとねじれてしまいそうな勢いだった。
そんな彼女の目の前には、5日前と比べて格段に数の増えた魔石があった。
黄金の瞳がこちらを向く。
なんとなく目をそらしそうになって、意識して目を合わせた。
「順調なぶんにはいいだろ」
「まあそうなんだけど。そうなんだけどさ」
納得がいかないようだ。
むーっと唇をとがらせて尋ねてくる。
「なにか隠してない?」
「……」
実のところ、彼女には戦い方を変えたことを話していなかった。
なんとなく……そう、なんとなく、気が乗らなかったからだ。
気まずいというか。
よくわからないけれど。
「別に、なにもないって」
誤魔化すと、カミコは首を傾げた。
「……うーん。そう? じゃあ、わたしの気のせいかな?」
彼女はこの部屋から離れられないので、言わなければわからない。
結局は引き下がった。
少しうしろめたい気もしたが、わざわざ伝えるまでもないことだ。
なにより、結果が出ているのだ。
グレイは気持ちを切り替えると、目の前にある剣に意識を向けた。
最近は、適性があるとわかった存在浸食の魔法の訓練をしていた。
炎のようにゆらめく黒い影の魔力は、少しだけ濃さを増している。
一方のカミコは、ホムンクルスの少女のほうに向かった。
体を起こしてやり、リハビリテーションを始める。
グレイは少しほっとして、自分の訓練のほうに集中することにした。
存在浸食の魔法は、実用レベルにはまだ少し時間がかかりそうだった。
とはいえ、すぐに結果の出ないものは出ないもので、準備はしておいたほうがいい。
ただ、探索の疲れのせいか、眠気がかなりあった。
最近は、よくあることだった。
カミコに見られてしまうと休むように言われてしまうので、さっきまでは眠たくないふりをしていたのだが、気を抜くと、うとうとしてしまいそうになる。
いけない、いけない。
と、眠気をこらえていたところで、ふと視線を感じた。
「……」
カミコの視線――ではない。
彼女にリハビリをしてもらっているホムンクルスの少女が、こちらを見ていた。
グレイのものより白っぽい灰色の瞳は、意思を持たないせいかガラス玉めいている。
じっと、見つめられている。
たまに、こういうことがあった。
スケルトン・ナイトに殺されかけて、部屋に転がり込んできたあの日が最初だった。
疲れているところを見られてしまっただろうか。
いや。見られたところで、彼女の場合はなにがあるわけでもない。
かまわないだろう。
そう判断して、眠気をこらえて訓練に戻る。
なにもない。
あるはずがない。
そう思っていた。
違ったとわかったのは、次の日のことだった。
***
「あぁああ――っ!?」
すっとんきょうなカミコの叫び声で目が覚めた。
「な、なんてことを!」
「……なんだ?」
グレイは寝惚けまなこで、むくりと起き上がった。
まだ少し寝足りない。
カミコにはお世話になっているし、明るくて元気なのは見ていて気持ちがいいのだが、朝からのハイテンションはやめてほしい。
「おい、カミコ。なにを……」
しかし、文句を言いかけたところで、グレイは驚きで息をのんだ。
「――」
ホムンクルスの少女が、ひとりで身を起こしていたからだ。
こちらに顔を向けている。
「お前……っ」
「……」
ガラス玉のような目。
たが、いまは確かに意思が宿っていた。
なにより、その白みがかった灰色の瞳だ。
右の目の色が変わっている。
穏やかな緑色。
見覚えのある――精霊の光と、同じ色だった。
目が合うと、彼女はぼんやりした感情の薄い顔で言った。
「……おはよう、ございます。お兄様」
◆新ヒロイン登場……というか、すでに出ていたふたりでひとりなわけですが。
こうなる伏線も軽く張ってましたがお気づきでしたでしょうか。次回をお楽しみに!




