deta,91:心が、フワフワ
「え? 入籍した!?」
――あれから二年後のある日。
高校を無事卒業し19歳になった悠貴美誠はセントティべウス教会のリビングで、自分の向かいのソファーで座っている目の前の二人にそう口にした。
「ええ、そうよ。あたしも30歳越えたし、身を固めようかと思って」
「私も24歳だし、理想は25歳までには結婚したかったから、カイの妻になることに決めたの」
水沢堂魁とセレア・メイランドが、そう美誠へと答える。
「裏稼業の人間が“身を固める”とは可笑しな話ではありますけどね」
美誠の隣に座っていたラフィン=ジーン・ダルタニアスが、相変わらず魁へと皮肉る。
「ラフィン兄さん、祝福してくれるでしょう……?」
セレアがふと、ラフィンへと目を潤ませる。
「勿論ですよセレア。どうかお幸せに」
途端にこの上ない爽やかな笑顔で、セレアへと告げるラフィン。
「何その態度の変化は。裏稼業は、遊ちゃんがいるから大丈夫なの」
魁の言葉通り、氷室遊弥は彼と一緒に今や便利屋兼情報屋の仕事をしていた。
その彼も、エレイン・ローレンスと一緒にこの場にいた。
「遊弥。エレインとも入籍しよう」
突然のエレインの発言に、遊弥は口にしていたコーヒーを噴き出した。
エレインは、現在16歳の高校一年生である。
「何バカ言ってんだよ! お前はまだ高校生で、俺はその保護者だろう!」
「女は16歳から結婚出来る。遊弥は保護者だけどあくまでも代理。血も繋がっていないからエレインと遊弥、結婚出来る」
無感情に抑揚のない口調で、淡々とそう述べるエレイン。
「あのなぁエレイン。結婚は愛し合う者同士で――」
「エレインは遊弥のことを愛してると思う」
「えっ!!」
彼女の言葉に、遊弥を含めてその場にいたみんなが一斉に、エレインへと顔を向ける。
「それでもダメなの」
エレインは無表情で、遊弥へと訊ねる。
「いや、ダメではないけど……」
「じゃあ、いいの」
今度はみんなの視線が、遊弥へと向けられる。
無言の圧力。
「何だよみんな、その目は!?」
言いながら遊弥は顔を紅潮させる。
ジィー……。
「分かったよ! 俺もエレインを最近意識してたし! 結婚してやるよ!」
「……エレイン嬉しい。心が、フワフワ」
「フワフワ嬉しいなら笑顔を見せろ笑顔を!!」
遊弥は言うと、エレインの両頬を軽く抓った。
「クスクス……だったらエレイン、私と一緒に感情を顔に出す練習、しようか」
セレアに声を掛けられて、エレインはコクリと頷いた。
「あたし達のことはこの際別にどーだっていいのよ! 一番肝心なのが残ってるじゃない」
「そうよラフィン兄さん!」
魁とセレアがラフィンへと話を振る。
「なぜ私までがあなた方の前で公開プロポーズをしなくてはならないのですか。これはプライベートなことなので、二人っきりの時にゆっくりと――」
ラフィンは紅茶の入ったティーカップを手にそう言いかけて、突き刺さるような視線を感じてそちらへと顔を向ける。
美誠だ。
「……」
「……」
無言で見つめあうラフィンと美誠。
「もしかして、今この場でお望みですか? まさか」
これに美誠は、キュ~ンとした子犬のような表情を見せる。
「“ゆっくり”なんて言える立場かよお前は」
そう男口調で言ったのは魁だった。
声のトーンも低くなっている。
「……確かに」
ラフィンは短く答えると、ティーカップをテーブルに置いてズボンのポケットに、手を突っ込んだ。
そして白いリングケースを取り出すと、隣に座っている美誠へ、ラフィンはソファーから下りて跪く姿勢になってから、ケースの蓋を開けて見せた。
そこには、白金に輝く指輪が入っていた。
「美誠。どうかこの俺と、結婚して欲しい」
「ラフィン……!! うん、勿論!!」
思いがけない指輪の登場に、感極まって目を潤ませる美誠。
ラフィンはケースから指輪を取り出すと、彼女の左の薬指へゆっくりとはめた。
「愛している美誠」
「私もよラフィン……」
そうして皆の前で、キスを交わす二人。
「……」
無言でこれを見てエレインも、真似をして遊弥へとキスをしてきた。
「!?」
硬直する遊弥。
「随分用意がいいじゃないの」
魁の言葉に、ラフィンは美誠から口唇を離すと、答えた。
「本当は今夜、サプライズするつもりだった」
「あら、じゃあサプライズを台無しにしちゃったわね。ごめんなさいラフィン兄さん」
「気にしなくていい」
言いながら改めて再び、ソファーに腕を組んで座るラフィンと美誠。
一方――。
「エレイン! キスはもういい! 帰ってからたっぷりしてやるから!!」
「分かった」
エレインはキスをやめると、座り直しておとなしくなるのだった。




