deta,79:“死にたくなるくらい”
「自分達の失敗作クローンを普通の人間にする為に、唯一の成功体であるクローンを犠牲にすることなんて、私はしたくないの……! それにねエレイン。私とあなたが姉妹同然であるように、ダルタニアスさんは――血の繋がりのない私の兄よ」
「!?」
セレア・メイランドの言葉に、その場にいた全てに衝撃が走る。
「生き別れの兄って……ラフィン、あんたはセレアのこと、気付いてたの!?」
「ええ」
「ええって、ケロッとした顔でよくも言ってくれたわね!」
水沢堂魁はラフィン=ジーン・ダルタニアスに食って掛かる。
そんな彼を氷室遊弥が牽制する。
「とにかくその話は後っスよ!」
「そんなことは……もうどうでもいいーっ!!」
エレイン・ローレンスは怒声を上げるや床に拳を叩き込んだ。
床を貫き大きな亀裂が走る。
「こんな力さえなければあたしは、あたしはっっ! ミコト……あなたがあたしの物にならないのなら、いっそ全員ぶっ殺してやる――!!」
直後、地下から爆音が響いた。
これにその場にいた全員がよろめく。
「今お嬢が床に与えた衝撃で、その下にある地下の研究室内の精密機器類が故障して、爆発を誘発したんだ!!」
その爆発とエレインが作った亀裂が重なり、大きく彼女の足元がくぼんでエレインが地下へと落下してしまった。
「キャアアァァァァー……ッ!!」
エレインの悲鳴が瓦礫音と共に掻き消える。
「エレイン!!」
咄嗟にセレアが手に持っていた銃を捨てて、その穴へと駆け寄る。
「セレア!!」
魁が大きく一歩足を踏み出す。
すると今度は別の亀裂から炎が出現して、セレアと魁の間に立ち塞がった。
「セレアッ!!」
魁は彼女の名を呼ぶ。
これにセレアはゆらりと立ち上がると、魁へと振り返った。
「どうやら私の命もここまでみたいね……これでいいの。これでいいのよ。どうせ私は虚弱体質が原因で遅かれ早かれ、死んでいたのだから。エレインが助けてくれなかったら私は処分されて殺されてた。そのエレインへ私は銃を向けた。これ以上……私が生きている資格はないわ。ありがとうカイ……私に夢を与えてくれて。ありがとうラフィン兄さん。私を昔、励まし可愛がってくれて」
「セレア……」
ラフィンが小さく彼女の名を呟く。
「何それ。最後の言葉につもり? セレア」
「え?」
思いがけない魁の言葉に、セレアが顔を上げる。
「何が生きている資格がないよ。あんた、泣いてるじゃない。本当はまだ生きたいんでしょ?」
「……」
「言った筈だセレア。俺を男に選んだことを“死にたくなるくらい”覚悟しろと」
そう言った魁の口調は、男のものになっていた。
魁は言うなり炎の中に飛び込んで、セレアの元へと掻い潜って来た。
「カ、イ……!!」
「女一人も守れないんじゃあ、男やってる価値はないわよ☆」
「魁!!」
「水沢堂さん!!」
「水沢、セレア!!」
悠貴美誠に続いて、遊弥とラフィンもそれぞれの名を呼ぶ。
「ほらほらモタモタしてるとあんたらも死んじゃうわよ。さっさとここから逃げなさい!」
「……」
魁の言葉に、ラフィンは決断すると美誠の肩を抱き寄せて、その場を走り出した。
遊弥もその後に続く。
そのタイミングを見計らうように、瓦礫が崩れ落ちて魁とセレアの姿は炎と瓦礫と煙で、完全に見えなくなった。
「魁ーっっ!!」
美誠は大粒の涙で頬を濡らしながら、彼の名を叫んだ――。
時間の存在とは残酷だ。
この世のどこかで誰かの命火が燃え尽きようとも、構わずその流れを止めない。
そしてその流れと共に、悲しみや喪失感を運んでくる。
つい少し前まで一緒だった存在を、無残にも闇へと葬って――。
美誠とラフィンと遊弥の三人の姿は、セントティベウス教会にあった。
まるで何事もなかったように夜明けを迎え、何食わぬ顔して朝はやって来た。
すっかり泣き疲れた美誠が眠りに落ちたのを、ラフィンが抱きかかえてベッドまで運んだ。
「何か……すみませんっス。俺なんかが生き残ったりして……」
「お気になさらずに。あなたは美誠の友人の彼氏ですからね。悲しむ者は一人でも少ない方がいい」
「ダルタニアスさんは……知ってたんですね? お嬢の気持ちも、姫の恋人になったのが水沢堂さんだったのも……」
「はい。全て水沢からの情報で、ですが。唯一皆に伝えなかったのは、私とセレアがオスリン研究所で兄妹関係だったことだけです」
「それは姫も同じでした。どちらが悪いわけでもないっスよ」
「氷室君。あなたには今回とても頑張って頂きました。感謝しています。一度帰って、その疲れを癒すといいですよ」
「そうっスね……じゃあ、いったん俺、帰ります」
遊弥は言って頭を下げると、教会を後にした。




