deta,76:どう考えても普通じゃない
懐中電灯を持った氷室遊弥を先頭に、彼から2メートル程離れてエレイン・ローレンスが付いて行く。
彼女が警戒しているのは闇よりも、男である遊弥の方だった。
恐怖で過呼吸になりそうなのを必死で、己を心の中を鼓舞しながら歩を進める。
通路に入ると、明かりに反応して奥から声が聞こえた。
「遊ちゃんか!?」
「うん、今お嬢を連れて来たから!」
「ミコト!?」
コンクリートの反響を利用して、言葉を交わす三人。
「エレイン!? 本当にエレインなのか!?」
「ミコト! 待ってて! 今あたしがそこから出してあげるから!」
会話をしながら突き進み、ようやく一番奥の牢獄に遊弥とエレインは到着する。
「エレイン……本当だ、エレインだ……」
牢の中で、悠貴美誠は彼女へ目を見張る。
「ミコト……ごめんね」
「何でエレインが謝るんだよ……?」
「だって、あたし……」
沈んだ口調で呟くエレイン。
「細かいことは後! とにかく鮫島さんが戻る前に早くここから脱出させないと!」
遊弥の言葉に、エレインははと我に返る。
「ミコト。一応念の為、離れて」
「ん? あ、ああ……」
美誠は不思議そうな顔をしながらも、牢の奥にある壁面へと後ずさる。
これを確認するとエレインは、両手で鉄格子を掴んだ。
エレインの双眸が緋色に変わる。
「――エェイッ!!」
彼女が掛け声を発すると同時に、鉄格子がまるでグミのようにグニャリと曲がり、人一人が通れるくらいに広がった。
「――は? えっ!? な……っ!!」
その光景を目の前にして、動揺を露わにする美誠。
「そういうのも全部、後! とにかくさっさとここから出て!」
「あ、ああ!」
美誠は遊弥に急かされて、慌てて牢内から外へ出る。
その拍子にふいに曲がった鉄格子を手で触ってみたが、己の役割を主張するかのように鉄格子は、堅いままだった。
「ミコト!」
「エレイン……!」
「さぁ、早く上に戻るよ!」
再び遊弥を先頭に、懐中電灯で前方を照らしながら足早に、通路を突き進む。
美誠は彼に続くと同時に、背後にいるエレインの手を握って先を進む。
今しがた怪力を発した自分を前にしながらも、手を繋いでくれる美誠にエレインは、嬉しさのあまり泣き出しそうになるのを必死で耐えた……。
三人は一階のダイニングリビングへと出て来た。
ダイニングテーブルの椅子に座っていたセレア・メイランドが、三人の帰還に立ち上がって出迎える。
「良かった無事で!」
「セレア!」
エレインはセレアへと駆け寄ると、ギュッと彼女を両手で抱きしめる。
「良くやったわね、エレイン。いい子よ」
セレアは言ってエレインの頭を優しく撫でると、立ち尽くしている美誠へと顔を上げた。
「ユウキ・ミコトさんね?」
「ああ……」
「うちのエレインがあなたには大変お世話になっています。私はセレア・メイランド――」
「あたしのお姉ちゃんよ、ミコト!」
「ああ、あなたがエレインの……話は聞いています。あなた達は、クローン体なんですね?」
美誠の単刀直入に、ビクリとエレインは体を弾ませる。
「どうしてそうだと……」
呟くエレインに、美誠は口を開いて続ける。
「こちらの氷室遊弥君……遊ちゃんと呼んでるけど、俺達交流があるんだ。彼の存在で、大体の事はクローン体について、俺も知ってる。さっきのエレインのバカ力は、どう考えても普通じゃない。この遊ちゃんと同じタイプの……亜種なんだな? エレイン」
「……」
エレインは無言で下ろした両手を握り締めると、俯いたままコクンと頷いた。
「クローン体であるエレインが、どうして俺と出会った? 教会の典礼に偶然来たとはとても俺には、思えない」
「……」
相変わらず無言のエレインは目に涙を溜めて、ふと俯く。
「且つ、ここの地下牢に俺を投獄した鮫島の存在。ここにいるエレイン。ここがどこかは分らないけど、接点が同じってことはエレイン、鮫島の――」
「違う!!」
突然の大声で否定したエレインに、遊弥とセレアの二人は違う意味で驚いた。
「あんな男と仲間なんかじゃない! 同じクローン体だけど、あたしは嫌い! そこの遊弥も! 男なんて誰も嫌い!! だから仲間なんかじゃ――!!」
その時、玄関にピッタリと寄せるようにして車が止まる気配がした。
「!?」
これに四人はそれぞれ身を固くした。




