deta,75:好きなんでしょう? 彼女のことが
『でも、いいんですか!? 状況は何かと複雑になりますよ!?』
「構いません。うちの水沢と話し合って決定したことです」
「“うちの”って何よ!」
ラフィン=ジーン・ダルタニアスの脇から、もれなく水沢堂魁が口を挟む。
『エレインってどういうこったよ!? エレインがここにいるのか!? つかそもそもここは一体どこなんだよ!?』
『ほらね……』
騒ぎ始めた悠貴美誠に、氷室遊弥がガックリと頭を項垂れる様子が想像出来た。
『何で遊ちゃんまでがエレインのこと知ってんだよ!?』
『エレインはうちのお嬢なんだよ……』
『おじょお!? おじょおって何だよ!? 妹か何かの類か!?』
『そうだと言っても過言ではない――』
「詳細は後です。鮫島がそこにいないのなら脱走は今の内です。もし今、鮫島が戻って来たら牢の中で射殺されてしまいます」
『あ、ああ、そうだな……何だかよく分かんねぇけど……』
『じゃあお嬢を呼んできます。電話、いったん切りますよ?』
「ええ、我々もそちらへ向かいます」
ラフィンの言葉を最後に、遊弥は通話を終了させた。
「じゃあ、ライフサイエンスに進路を変更するわよ」
「はい、お願いします」
魁の確認に、ラフィンは首肯した。
「心細いかも知れないけど、もう少しここで待っててな悠貴さん。今、助っ人を呼んでくるから……」
「助っ人ってエレインだろう? エレインが来たところで何も変わんねーんじゃ――」
「いいから今は黙って言う通りにして悠貴さん!」
遊弥の大声に、不満そうに口を噤む美誠。
「君を助けないと、俺の彼女である梓を泣かせてしまうからさ」
梓――藤井梓は、美誠の親友の一人だ。
「……ああ。分かった。待ってる」
これに遊弥は引き攣った笑顔を見せると、踵を返す。
「必ずそこから出すからね!」
その言葉を残して、遊弥はその場から走り去った。
また暗闇が、美誠を包み込んだ。
「一体全体、どういうこったよ……ラフィン……」
彼女の小さな呟きは、闇の中に吸収された。
「んーっ! 良く寝たぁ~!!」
セレア・メイランドのベッドの中で、上半身を起こして伸びをするエレイン・ローレンス。
これにセレアも上半身を起こす。
時計に目をやると、PM8:15を示していた。
「ちょっと、眠りすぎちゃったかしらね」
言いながらセレアはベッドから起き出す。
「お腹空いたねぇ」
「じゃあ、リビングに下りてご飯にしましょう」
「うん!」
本来ならば、この時間帯は誰もいない筈だった。
日が昇るまでの間は――。
セレアとエレインは着替えてリビングに下りると、いつも研究員の柴田が作り置きしてくれる食事がなかった。
「柴田さん……忘れちゃったのかな?」
「いいわ。きっと柴田さん今日は忙しかったのよ。私達で作りましょう。エレインは何が食べたい?」
「ハンバーグが食べたい!」
「じゃあ、決まりね」
セレアは笑顔でエレインの頭をポンポンと軽く叩くと、冷蔵庫へと足を向けた。
しかし同時に、地下から誰かが上ってくる気配を感じる。
「誰かしら……?」
「柴田さんかもよ!」
訝しがるセレアに、エレインが明るい口調で口にする。
だが姿を現したのは、氷室遊弥だった。
「ヒィッ!!」
エレインは短い悲鳴を上げて、セレアへと駆け寄り彼女の背後に隠れる。
「お嬢、逃げないでくれお嬢! 頼みがあるんだよ!」
「頼み……?」
代わりにそう口にしたのは、セレアだった。
「ここの地下牢の中に、悠貴美誠がいる!!」
「!?」
ピクリと反応するエレイン。
「鮫島さんが捕まえて、投獄したんだ。俺は鍵を持っていない。鮫島さんは悠貴さんのクローン体を作ろうと企んでいるみたいなんだ。俺は悠貴さんを助けたい! 鮫島さんに見つからないうちに、お嬢、鉄格子を壊してくれないか!?」
「ミコト……ミコトが……でも、あたしミコトの前で怪力を見せたらきっと、嫌われちゃうかも……!」
「その鮫島さんにバレたら、彼女殺されるよ!?」
「……!?」
「――エレイン、行ってあげて」
背後で震えるエレインへと振り返るとセレアは、エレインの手を取った。
「大丈夫よ。嫌われないわ。だから早く行って、ミコトさんを助けてあげて。鮫島さんから彼女を守るって、エレイン言ってたじゃない。好きなんでしょう? 彼女のことが」
――好きなんでしょう? 彼女のことが――
セレアの言葉に、それぞれ別の意味で、エレインと遊弥の心に響いた。
「俺、離れて進むから、お嬢は俺の後に付いて来て!」
「わ……分かったわ……」
恐る恐ると、エレインはセレアの背後から進み出てきた。




