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deta,72:だてに情報屋はやってないわよ



「水沢!! 起きてください水沢!!」


「うーん、今度は一体何なのよ……」


 ラフィン=ジーン・ダルタニアスは(いわく)く憑きの部屋のベッドで寝ていた、水沢堂魁(みさわどうかい)を起こす。


美誠(みこと)が行方不明なのです。道路の側溝に美誠のタオルが落ちていました」


「何ですって……!?」


 これにようやく魁もムクッとベッドから起き上がる。


「遊ちゃんに聞いてみるわ」


 魁はスマホを取り出すと、氷室遊弥(ひむろゆうや)に電話をした。


『何スか水沢堂さん。また監視ですか』


「美誠がいなくなったのよ。あんた今何やってんの!?」


『え、俺は今彼女(アズ)をデートの迎えに行っている最中っスけど』


鮫島(さめじま)と一緒じゃないの!?」


『はい。今日はまだ声をかけられていないっスよ……――え? 悠貴(ゆうき)さん行方不明なんスか!?』


「そうよ!!」


『分かりました。俺から鮫島さんに聞いてみるっス』


「分かり次第すぐに電話して頂戴」


 魁はそう言い残して通話を終了した。


 3分経過した時、遊弥から魁への着信。

 すぐさま電話に出る魁。


『ダメっス。鮫島さん電話にでないっス。こんなこと今までなかったのに……』


「どこにいるかあんた、見当はつかないの!?」


『俺、鮫島さんの家知らないんスよ。教えてくれなくて。だから、ライフサイエンスの方に行ってみます』


「じゃあ何か分かったらすぐに電話して」


『分かりました』


 通話を終了すると、魁は自分の前で立ったままソワソワしているラフィンへと、ベッドに腰掛けたまま顔を上げる。


「遊ちゃんはライフサイエンスの方に行ってみるって」


「じゃあ私達もそこへ――」


「いえ、そこは遊ちゃんに任せるわ。いざとなったらあのエレインって娘もいるから、どうにかなる筈よ。あたし達は、もう一つ心当たりがある所に行ってみましょう。まぁ、アタリかハズレかはまだ謎だけどね」


「もう一つ……?」


「遊ちゃんには教えていないみたいだけどね。あたしは知ってんの。鮫島の(ねぐら)。だてに情報屋はやってないわよ」


「では早速」


「ええ。この際だから鮫島は倒しちゃいましょう。どうせ敵はもう鮫島ただ一人だけなんだから。無駄に泳がしておいても何も出ないし被害にも遭うだけよ」


 ラフィンと魁は、言葉を交わしながら一階へと足早に下りて行った。

 すると麻宮清(まみやきよし)神父が戻っていた。


「美誠ちゃんはいたかね」


「いえ、どこにも。彼女を探してきます」


「そうか。分かったよ。気を付けてな」


 麻宮神父に見送られて、二人は教会を後にした。




 美誠が目を覚ますと、そこは真っ暗で何も見えない。

 本当に自分が目覚めたのかと疑いを覚えて、ひとまず声を出そうと試みたが猿ぐつわを噛まされていて声を発せない上に、両手両足を縛られていて肌から伝わる感触では、自分が冷たいコンクリートの上であることだけが判った。


「ンーッ、ンーッ」


 微かなくぐもった美誠の声は、虚しくも猿ぐつわに吸収されて響かない。

 しかしそれに反応する者がいた。


「気が付いたかクソガキ」


 そうして小さな明かりが灯る。

 ジッポライターの火だ。

 鮫島の片目が闇の中に浮かび上がる。

 美誠は不自由な体ながらも必死に、体を起こす。


挿絵(By みてみん)


「ダルタニアスさえ捕らえればお前にはもう用はないと思ったが……全てのクローン体を倒されてそうもいかなくなった。だからこの際だ。お前のクローン体を創る。そうすりゃダルタニアスもそう簡単にお前のクローン体を倒せないだろう――恋人(・・)のクローン体なんだからな」


“何でてめぇが俺とラフィンの仲を知っていやがるんだ!!”「んんんんんーん……っっ!!」


「何ぬかしてんのか分からんがどうでもいい。ひとまずそこでゆっくりしていろ。じゃあな」


 鮫島は言い残して、その場を立ち去ってしまった。

 また暗闇と静寂が、美誠を包んだ――。




 魁の運転で、ラフィンは鮫島の塒へと向かった。

 そこの地域はまさに“裏社会”の言葉がぴったり合うような、意味ありげの人々がどこかしこに存在していた。

 灰色のコンクリート群のビルがあちこちに、そそり立っている。

 壁にはカラースプレーでの落書き。

 道路にはゴミや紙くずなどで散らかっていた。

 汚らしい皮膚病であろう野良猫が、トタン屋根で丸くなっている。

 

 空気も汚れている雰囲気を醸し出していて、心許なく照らしている太陽の光が無駄に神々しさを感じさせた。

 見栄えの良い、魁が運転する車を珍しそうに、それでいて物欲しそうに通り過ぎる人々が見てくる。

 こんな治安の悪い区域が、この世界で一番平和な日本にも存在するのかと、信じられないくらいだ。


 魁が少し車のスピードを落として、徐行を始めるや待ってましたとばかりに、突然ボンネットに一人の男が飛び込んできた。

 魁は大きな嘆息を吐いて、渋々と車を止める。

 男は力なくズルズルとボンネットから滑り落ちる。

 これにはラフィンもフゥと息を吐いた。


「アタリ屋よ」


「ええ。存じております」


 車内で言葉を交し合う魁とラフィン。


「おいおいおい!! やっちゃった! やっちゃったよコレ! えっ!? どーするのコレ病院送りだよ!? おいコラいつまでも車にこもってねぇで、さっさと降りて来いやオラァッ!!」


 別の男が一人姿を現して、魁の車のタイヤに蹴りを入れた。


「行くわよラフィン」


「はい」


 二人は申し合わせたように、同時に降車した。




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