deta,69:そんな注文をして、大丈夫かね?
「ただいまラフィン!」
「お帰りなさい美誠」
教会に入るやラフィン=ジーン・ダルタニアスの姿を見つけて声をかけた悠貴美誠へと、振り返り笑顔で出迎えるラフィン。
そして互いに口唇にキスをする二人。
「いかがでしたか? 動物園は楽しめましたか?」
「ああ! エレインは動物に関する知識がなくて、いろいろ教えてやったんだ」
「おや、そうですか。それはエレインもさぞ勉強になったことでしょうね」
ふと、ラフィンは英国のオスリン研究所が脳裏を過ぎる。
我が家であり、父が死んだ――殺された場所――。
エレイン・ローレンスが14歳ならば、ラフィンが脱走を図った時はまだ3歳か4歳辺りだろう。
お互いの存在は知らない同士だ。
あの研究所内に軟禁されている限り、動物の知識も付くまい……。
「エレインが男性恐怖症じゃなければ、ラフィンにも紹介してやりたいんだけど……純粋で素直で、とってもいい子なんだ! まるで妹みたいだよ! ああいう妹が、俺にもいたらなぁ」
「妹にすればよろしいではありませんか」
「え?」
「兄弟姉妹に必ずしも血の繋がりは関係ありませんよ。血が繋がらずとも兄弟の仲を語っている人は世の中いくらでもいます」
「そうか……そうだな! じゃあ今度そう言ってみるか!」
「ええ」
その調子で遠回しに、美誠はエレインを恋愛対象として見ていない事を思い知らせる、ラフィンの知恵だ。
よりにもよって、クローン体失敗作の亜種に恋心を抱かれてしまうとは、厄介なことになったとラフィンも、水沢堂魁と氷室遊弥と同じで嘆息吐いていたのだった。
つまるところ、ただでさえ成功体として標的にされているラフィンが、更にライバル関係にまでなるのだから味方に引き込むどころか、泥沼化してしまうことだろう。
「では、夕食に致しましょう」
「ああ。お腹空いた」
「今夜は和食ですよ」
「スッゲ! ラフィンが作ったのか!?」
「いいえ残念ながら。麻宮神父に作って頂きました」
「魁は?」
「今夜は他に用事があるそうで、来られませんよ」
「そっか。いや、今だから言うけど、冗談でも“さきがけ”なんて呼んだりできねぇな。あの恐ろしい反応からすると」
「ええ。気を付けた方が良さそうですね……」
ラフィンと美誠は、愉快そうに互いにクスクス笑いあった。
今夜のメニューは、ぶり大根にあさりの味噌汁、ほうれん草のおひたしだった。
「わぁ~! 麻宮神父が作ったんだろう? 超美味そう!」
「美誠ちゃんが以前、魚料理が大好きだと言っていたからね。ぶりのかま焼きも考えたが、ダルタニアス君がきっと食べるのに苦戦するだろうと思って、今回はやめておいたよ」
フォッフォと笑う麻宮清神父。
「そんなに食べるのが大変なのですか?」
「慣れるまでが、な。何せほぼ骨の中と言うか、裏側の身を箸で掘り返すようにして食べるから、思いの他大変なんだよ。でも、超美味いぜ!!」
「おや。そうなのですか。では麻宮神父、次回は是非それをお願いします」
「そんな注文をして、大丈夫かね? ダルタニアス君」
「日本の食文化にも慣れていかなければと思うのです」
「そうかい? じゃあ次回はそのメニューにしよう」
「ヤッター! んじゃ、いただきまぁ~す!」
美誠の元気の良い挨拶に、ラフィンと麻宮神父は愉快そうに笑うのだった。
「……」
セレア・メイランドは、目の前の光景にポカンとしていた。
いつもの公園広場にやって来たセレア。
時間は10時を過ぎていて、エレインはもうベッドの中で眠っている。
が、セレアが前にしているのは、ベンチで横になってこちらも眠っている、魁の姿だった。
起こすべきかこのまま眠らせておくか悩んでいると、勝手に魁の方から寝返りを打った拍子に地面に落下して、目を覚ましてしまった。
「痛ァッ!!」
「!? 大変! 大丈夫!? カイ! 怪我はない!?」
「あらセレア……来てたのね」
彼女を見上げた魁の寝起き顔がマヌケで、思わずセレアは吹き出してしまった。
「プッ! クスクスクス……一体いつからここで眠っていたの?」
「9時過ぎ頃に来て、だから……一時間は眠ってたかしら」
魁は腕時計を見ながら言った。
「いくら夏でも夜風に当たると、風邪引いちゃうわよ」
「大丈夫よ。風邪の方からあたしから逃げてくわよ……――ックション!!」
「ほら、言った側から」
これにまたセレアは、クスクス笑う。
「とりあえず、温かい紅茶でも飲んで」
セレアは言うと、魁の隣に座って持って来たバスケットの中から水筒を取り出す。
「でもここ、夜風が心地良くて眠っちゃうのよね」
魁はセレアが紅茶を注ぎ入れた紙コップを受け取ると、グビリと大きく一飲みする。
「あー、甘くて落ち着くわぁー。セレアが淹れてくれるこの紅茶、あたし大好きよ」
「そう言って貰えると嬉しいわ。私の妹も同じこと言ってくれるのよ」
彼女の言葉に、魁は昼間の美誠と一緒に動物園に行ったエレインを思い浮かべる。
「この紅茶ね、単純そうな作り方だけど、こうして美味しくするのにちょっとしたコツがいるの。それを教えてくれたのも、兄様よ」
「兄様?」
これに魁が眉宇を寄せる。
セレアに兄がいるとは聞いたことはない。
遊弥からもなかった情報だ。
「私が子供の頃に生き別れた兄なの……」
「生き別れた? 一緒じゃないの?」
「ううん。もう一緒にはいないわ」
そう口にしたセレアの表情は、どこか寂しげだった。
一緒にいないのなら、問題はなさそうね。
魁は内心、そう思う。
「いいお兄さんなのね」
「え?」
「これだけ美味しい紅茶を作れるなんて、いいお兄さんに決まってるわ」
これにセレアは、嬉しそうに美しい微笑みを見せた。
思わず胸をときめかされる魁。
「綺麗に笑えるじゃないセレア……」
そっと、魁はセレアの頬に片手で触れる。
「カイ……?」
「あたしを自分の男に選んだのは、セレアよ……」
「カイ……」
少しずつ、互いの顔の距離が縮まっていく。
「“死にたくなるくらい”覚悟しなさい。セレア」
「ええ……」
セレアは魁の口唇を、自らの口唇で受け止めた……。
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