deta,68:スッゲェ可愛いぜ
「なぁラフィン。今日、動物園に行ってきてもいいか?」
「“行ってきても”?」
「うん。エレインって子と昨日電話で約束しちゃって」
「ああ、典礼に来る男性恐怖症のお嬢さんとですか。分かりました。少々お待ちください」
ラフィン=ジーン・ダルタニアスは言って立ち上がると、三階の自分の部屋へと向かう。
エレイン・ローレンス。
ライフサイエンス研究所副所長の役目をしている、クローン体失敗作亜種、特殊能力・怪力の14歳の少女……悠貴美誠に恋心を持ち始めたらしいが、本来の目的だった懐柔して連れ去る計画でこの教会にやって来て、女である美誠に近付いたものの目的から違ってしまいつつある状況……。
「もしもし、水沢。仕事です」
『何。まさかまた美誠の監視?』
「美誠ではなく、あくまでも亜種の少女の方です」
『で、次の目的地はどこなのよ』
「動物園です」
『了解。じゃ、遊ちゃんと動くわ。あの子しっかり役立つから』
「そうですか。では、お願いしますよ」
便利屋兼情報屋をしている水沢堂魁への依頼の電話を終えると、ラフィンはリビングへと戻る。
「お待たせ致しました。では、楽しんでいらっしゃい」
ラフィンは笑顔を見せると、美誠に2万円を渡す。
「いつもありがとう。今度はラフィンと一緒に行こうな♡」
「ええ。勿論、その時は是非」
美誠の言葉にラフィンは微笑むと、お互い軽く口唇にキスをする。
「んじゃ、行ってきま~す!」
美誠は踵を返すと、ラフィンに手を振ってリビングを後にした。
ちなみに美誠が働いていたバイトは、一人にする危険性を考慮しラフィンが辞めさせていた。
その代わり、彼が彼女の面倒を見ることにして。
エレインは教会の側にある公園で待ち合わせていた。
変異体クローン達と、バトルを繰り広げた場所だ。
美誠が教会を出ると、もうエレインは来ていてブランコに身を任せていた。
「お待たせエレイン! じゃあ、行こうか」
「うん、ミコト!」
エレインは美誠から声をかけられて、ブランコから飛び降りると嬉しそうに駆け寄って来た。
こうして二人は最寄り駅へと向かった。
いざ動物園に到着して、女同士二人でキャッキャウフフと園内を楽しむ。
「わぁ! あのデカい生き物、何!?」
「あれはカバだよ。物凄く大きな口をしていてな、スイカもキャベツも丸ごと一個、簡単に一口で食べれちゃうんだぜ」
「ええー!? 本当!? 食べている所、見たいなぁ!」
「うーん、あ、お食事タイムが書いてある。おお! あと30分待てば、見れるぜ!」
「本当に!? わぁい! ヤッターァ!!」
これにエレインはピョンピョン跳んで、喜びを露わにする。
「その調子だと知らないだろうから、もう一つ教えておこう。カバはな、真っ赤な汗を掻くんだぜ!」
「ま、真っ赤な汗!? まるで血塗れみたいじゃない! どうして汗が赤いの?」
「それはな、今日みたいにクソ暑い時の日焼け防止だとか、皮膚の乾燥や病気防止の為と言われているんだ」
「へぇ~……世の中にはいろんな生き物がいるんだねぇ~……」
「ひとまず、30分の間に他を見て回ろうぜ!」
「うん!」
エレインは、そう簡単に見れない象やライオン、キリンなどには純粋に驚いて大はしゃぎした。
やがて本命のカバのお食事タイムを目の前にして、大きな歓声を上げて喜んだ。
そして昼になったので、園内のレストランで食事をしてから、今度はふれあい広場へと向かった。
ここにはモルモットやウサギ、ヒヨコ等に触れることができて美誠はウサギ、エレインはヒヨコと触れ合って喜び合う。
ポニー乗馬体験も二人は楽しんだ。
「大丈夫かな? 怖くない?」
「ポニーはとてもおとなしくて優しい動物なんだ。エレインは可愛いから絶対に気に入られるよ」
「か、可愛い……あたし、ミコトにとって可愛いの?」
「ん? ああ、勿論だとも。エレインはスッゲェ可愛いぜ」
特別深い意味はなくそう述べた美誠に、エレインは顔を紅潮させて胸をときめかせる。
「さぁほら、乗った乗った!」
「う、うん!」
いざポニーに乗馬してみて、今度はそれにもエレインはドキドキさせられ彼女は、すっかりそれが美誠に対するドキドキの継続と思い込み、更に美誠への恋心を募らせるのだった。
「水沢堂さん。悠貴さん、また男前な発言をうちのお嬢にしてますぜ」
耳を澄ませていた氷室遊弥がそう口にする。
「何ですって?」
「“スッゲェ可愛いぜ”だそうっス。それからずっとお嬢の胸がときめいてドキドキさせてます」
「……確かにエレインの顔が赤くなってるわね……すっかりお互い誤解を生みまくってるわ」
遠目から美誠とエレインの様子を覗き見ながら、魁は愉快がってクスクス笑う。
「笑っている場合じゃないっスよ。悠貴さんにはもうダルタニアスさんがいるっしょ? 誤解を解かないと後々面倒なことになりそうですぜ」
「確かに、それもそうね。まさかの三角関係かぁ……どうしよう」
魁と遊弥は、二人して腕を組みウーンと悩んだ。




