deta,67:胃袋入りゃあ皆一緒よ
「なっ、何ですって!? 何であんた達があたしの本名知ってんのよ!?」
水沢堂魁が気を動転させながら、並んで立っていたラフィン=ジーン・ダルタニアスと悠貴美誠へと詰め寄る。
麻宮清神父は当然ながら彼の本名を既に知っていたので、動揺している魁を不思議がる。
「それは――」
口を開きかけたラフィンの言葉を遮るように、美誠が口を挟む。
「俺が魁のまんじゅうを食べたいって言って、ラフィンに連れてってもらったんだよ」
これに更に魁は目を見開く。
「行ったの!? あたしの実家に!? まんじゅうが食べたいのならあたしに直接言えば良かったんじゃないの!?」
責めるようにして魁は、ラフィンへと捲くし立てる。
「しかし私は、あなたが現在住まわれている場所を知りませんし」
「でも実家には行けたってわけ!?」
「そりゃ、ナビで照会されるからな。160年もの老舗なら」
「――っっ!!」
美誠の発言に、言葉を失う魁。
「まぁ、いいじゃねぇの。俺ら手厚くもてなしてもらって、これ全部タダで貰ったんだぜ。ここはさきがけには感謝だよ――」
「その名前で呼ばないで頂戴!!」
早口で言って魁は、キッと美誠を鋭く睨みつけた。
魁のその凄みに、思わず畏怖を覚える美誠。
「は、はい……気を付けます……」
こりゃ、からかう程度じゃ済まねぇくらいの勢いだな。
美誠は内心、密かに思う。
「まんじゅうは日持ちするが、こうした生菓子はそうはいかんからの。私こそ今回のダルタニアス君と美誠ちゃんの行動には感謝だよ。なかなか食べられないからね。せっかく来たんじゃ。水沢堂君も実家の味を思い出すといい」
麻宮神父は言うと、椅子に腰を下ろす。
気が付くと、ラフィンは他人事のように悠然と日本茶を淹れていた。
麻宮神父に諭されて、魁はふてくされたように椅子にドッカリと腰を下ろす。
「それで? うちの連中、元気にしてたの?」
ラフィンが急須から湯飲みへとお茶を注ぐ様子を目にやりながら、誰にともなく魁は訊ねた。
「ああ。メッチャ元気だったぜ。お姉さんもおばちゃんも」
美誠が椅子に座りながら答える。
「親父には会わなかったでしょうね!?」
「おばちゃんが呼ぼうとしたケド、ラフィンが止めたんだ」
「お忙しい中、ただの客にわざわざ顔を出させるのもご迷惑だと思いましてね」
ラフィンもそれぞれに湯飲みを配ってから、美誠の隣に座る。
「魁は跡、継がねぇんだろう? 何で?」
「あたしは……伝統だろうが家系だろうが、そんなのを長男だからっていう理由で押し付けられて、自分の将来を潰されたくなかったのよ。あたしにはあたしの生き方があるもの」
「それが情報屋兼便利屋だったわけか」
「そうよ。文句ある!?」
「いいえ。ありませんよ。おかげで私はこうしてここにいられるわけですし」
「確かにあたしは長男だけど、上には姉貴がいる。だから姉でもいいじゃないかってのが、あたしの気持ちなの。それで顔を合わせる度に親父とはケンカよ」
「ええ。お姉さんから聞きましたよ。現在はそのご主人が跡継ぎ候補だとも」
「そうよ。それでいいのよ。誰だろうが跡継ぎがいるだけでも御の字だって、あたしは思うわ」
「まぁ、安心してください。名前は今まで通りの呼び方をしますから。ねぇ、美誠……?」
ふと隣に座っている彼女へと顔を向けたラフィンは、生菓子を目の前にしてボケェッとしている美誠に不思議がる。
「いかがなされましたか? 美誠」
「この子、あたし達が会話している時からこうなってんのよ。まるで雨上がりのかたつむりの動きを見つめている幼児みたいに」
「いや、だって……こんな綺麗なお菓子、どこから食べればいいのかスッゴク悩むんだもん……」
美誠は竹楊枝を片手に、ぼんやりと言った。
これに麻宮神父は愉快そうに、フォッフォッと笑う。
「胃袋入りゃあ皆一緒よ」
魁は言うと、手の平よりも小さな生菓子を三本指で摘み上げると、ポイと口の中に放り込んでしまった。
咄嗟にアッと声を上げる美誠。
「何だよ魁! もうちょっと余韻とかマナーとかねぇのかよ!?」
「あたしにとっては今更よ。ガキにビー玉与えりゃもうそのガキにとっちゃあダイヤモンドと同等みたいなもんよ」
「……ん? 言っていることは分かるがそれとこれと何の関係が……」
「見た目はダイヤモンドでも慣れりゃあビー玉と価値は一緒てこと!」
「つまり、無価値!?」
「そうよ!」
「魁やっぱまず親に謝れ!」
「冗談じゃないわよ!」
「名乗り方も謝れ!」
「あーっ!?」
ギャイのギャイの言い合っている美誠と魁を他所に、ラフィンと麻宮神父の二人だけが上品に生菓子を味わっていた。
「あー、まだアゴが痛ぇ」
「鮫島さんって体、頑丈に出来てますよね。普通ならアゴ砕けてますって」
「あのクソガキの蹴りが大したことなかっただけだ……」
氷室遊弥の言葉に、鮫島はアゴを擦りながら吐き捨てる。
本当はしっかりクリーンヒット受けて、脳震盪起こしてぶっ倒れたくせに。
氷室は内心、そう毒づくのだった。




