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deta,56:鮫島に向かって走れ!



 地面が土の公園だったおかげで大怪我は免れたものの、それでも受けた衝撃は大きく、水沢堂魁(みさわどうかい)は意識を失ってしまった。


「水沢!」


「ウソ! そんな!」


 ラフィン=ジーン・ダルタニアスと悠貴美誠(ゆうきみこと)が同時に声を上げる。


「クックック……こっちが黙っていれば見下げよって……」


「!?」


 突然の言葉に、ラフィンと美誠は思わず耳を疑った。


「確かに単一ならば能無しクローン体かも知れないが……私はこの通り、頭が四つある。つまりそれだけプラスされて私は会話が可能なまでに言葉が理解出来る。まずは戦闘能力の高いこの男から潰させてもらった……」


 No6は、悠然と腕を組んでから、ニヒルな笑みを浮かべた。


「マジか……」


「様子を窺っていたと言うわけですか」


「お前達のやり方を分析していた、と言うべきだろう」


 愕然とする美誠とラフィンの言葉を、No6は訂正を入れる。

 すると遠くの方から、鮫島(さめじま)が声をかけてきた。


「いいぞNo6。そのままダルタニアスを捕らえろ!」


「……」


 これにNo6がゆっくりと鮫島へと、背中側の顔の視線を向ける。


「ちなみに女の方は適当に始末しておけ!」


「フン……偉そうに」


 No6がボソリと小さく呟くのを、聴覚の良い氷室遊弥(ひむろゆうや)は聞き逃さなかった。


「お前を捕らえた後には、あのクズ野郎に“No6”と呼ばせないようにしよう……」


 No6は言って、ラフィンへと不敵な笑みを浮かべる。

 これに鮫島の隣に立ってた氷室がプッと小さく噴き出す。

 鮫島には聞こえていないのだ。


「私達のやり方を分析していたのであればお解かりでしょうが、そう簡単に私には触れられませんよ」

 

 ラフィンは一歩進み出ると、美誠を守るようにして片手で彼女を庇う。


「ああ。そうなんだよ。それが問題だな。一体どうやってお前を捕らえよう? ダルタニアス……」


 No6は言いながら、ゆっくりとラフィンと美誠の周囲を歩き始める。

 No6はどちらを向いていようと、顔が四つ前後左右に付いているので目が離せない。


「とりあえず、お前にバーコードナンバーを唱えさせなければいい訳だな」


 これにラフィンの眼に鋭利な光が宿る。


「美誠、走りなさい」


「え?」


「鮫島に向かって走れ!」


「!!」


 ラフィンの鋭い口調に、美誠は過敏に反応すると脱兎の如く走り出した。

 それを合図に、No6がラフィンに(こぶし)を振るう。

 ラフィンはその拳を腕でガードすると、彼の方も素早く拳を振るった。

 しかし彼の拳もNo6から払いのけられてしまった。

 こうして目にも留まらぬ程の早業で、ラフィンとNo6の肉弾戦が始まった。

 だが一度走り出した美誠には、背中でその気配を感じながらも脇目も振らず、鮫島の元へと全速力で走る。


「どうしたあの女。気でも触れたか?」


 鮫島が怪訝な表情で、迫ってくる美誠を見やる。


「怖くなって鮫島さんに、助けてもらいたくなったんじゃないスか? 抱き止めてあげたらどうっスか」


「あいにくあのガキは好みじゃない。生意気すぎて可愛げもない」

 

 氷室の言葉に、鮫島は答えると銃を取り出し、美誠へと真っ直ぐに向けた。

 発砲音に、咄嗟にラフィンは美誠の方へと顔を向ける。が。


「お前には顔が一つしかないのだからよそ見している場合じゃないぞ」


 ラフィンはNo6に左頬を殴られてしまった。

 そのまま続けざま、腹にもNo6の拳が炸裂し、苦痛から上半身を屈めたが今度は背中に強烈な打撃を受ける。

 喘ぎながら膝を折って蹲るラフィンを、No6は蹴り飛ばした。


「――っ、くぅ……っ!!」


 ラフィンは4~5メートル吹っ飛んで、地面に転げ落ちた。

 

 全神経を鮫島に集中して走っていた美誠は、鮫島が自分へと銃を向けたのに気付いて素早く動いた。

 鮫島が発砲した時には、飛び前転を開始しそのまま側転、ロンダートと移って銃弾を避けて彼へと肉薄する。

 その彼女の素早い、まさにくのいちのような動きにただでさえ一つ目でしかない鮫島が気付いた時には、もう美誠は目の前だった。

 美誠は動きを殺すことなく、その流れを生かして下から蹴り上げるスタイルのサマーソルトキックを鮫島にお見舞いする。

 見事に鮫島の顎に炸裂したキックに、そのまま彼は後方へと大の字になって倒れて、気を失ってしまった。


「ヒュ~♪ 悠貴さん、超激運動神経いいっスねー! 鮫島(こいつ)、普段は偉そうにしてるけど実際は、超打たれ弱いんスよ。笑っちゃう。プププ」


「ま、体育は最高得点だもんよ。接近戦には自信がある。初めてこいつに会った時はびっくりして逃げちまったけど、慣れちまえばこっちのもんよ」


 声をかけてきた遊弥へと美誠は言うと、倒れている鮫島に唾を吐き捨てた。


 一方ラフィンの方も、倒れているままだった。

 そんな彼にゆっくりとした足取りで歩み寄る、No6。

 側まで到着した時、途端にラフィンは跳ね起きてNo6の背中から、首に腕を回してロックをかけた。

挿絵(By みてみん)

 素早く口走るラフィン。


「4 514603……」


 ラフィンから逃れようと、No6は肘鉄を彼の脇腹に放つ。

 だがラフィンは耐えながら続ける。


「347814!」


「チッ! クッソ……!!」

 

 左側にあるNo6の顔が表情を歪める。


「――溶解(ディソリューション)


 勝ち誇った目を向けたラフィンへと、背中側にあるNo6の顔が声を荒げた。


「……っぉのれええぇぇぇぇーっ!!」


 そうしてNo6が絶叫を上げると共に、全身から白い煙が立ち昇る。


「こんな簡単な罠に引っかかるとは、やはりあなたも知能がありませんでしたね。脳みそが四つもあったくせして」


「ぐぅぅわああぁぁぁぁーっっ!!」


 一斉に四つ全ての顔でNo6は咆哮を残して、すっかり溶解してしまった。

 それを見聞きしていた遊弥は、安堵の息を吐いた。


「これ、水沢堂さんから預かっていた溶解銃。使う事がなくて良かった。返しておくよ」


 そうして美誠へと、銃を渡した。




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