deta,55:あんた……用意がいいわね
悠貴美誠を真っ直ぐ見据えたラフィン=ジーン・ダルタニアスは怒りの表情を浮かべていた。
「麻宮神父と一緒にいなさいと言った筈です。こんな危険な場所に飛び込んで、でしゃばるにも程があります。帰りなさい」
「だって! 俺居ても立ってもいられなかったから……! それに、今みたいに少しは戦力になっただろう!?」
「こちらだって貴女に何かあったらと思うと、安心して堂々と戦えません」
ラフィンから説教を受けて、美誠は一転してすっかりしょげ返ってしまった。
「ラフィン。もう手遅れよ。今美誠を一人で帰らせる方がよっぽど危険だわ。何せあの鮫島は、JKだろうと容赦しない男なんだから」
水沢堂魁の言葉に、ラフィンは改めて嘆息を吐いた。
「……分かりました。仕方ありませんね。美誠、決して私から離れてはいけませんよ」
「う、うん!」
途端に顔にパッと笑みが広がる美誠。
「喜んでる場合かバカ美誠」
魁は軽く、美誠の頭をはたいた。
「あの空を飛んでいるのが厄介ですね……」
ラフィンが夜空を見上げる。
街灯があるので薄っすらとその“No4”を目視できる。
「でもあんな頭だけの奴が、ラフィンを捕まえられっこないじゃない。蛾よりも役に立たないわ」
「……!!」
魁の素っ気ない言葉に、離れていた場所にいても聞こえた鮫島は、愕然とした表情になる。
時々思うけど、いざって時にどこか抜けてる所あるんだよね鮫島さんて。
この計画が始まった時から気付いていた氷室遊弥は、内心密かに思った。
「ま、ひとまず美誠。あんたはあの無駄に飛び回っている役立たずのクローンの相手でもしていなさい」
「ああ、分かった」
魁は言って残る2体のうちの1体である、顔が四つある“No6”へと銃を向けた。
直後、シュッと何かが視界に飛び込んできたかと思うと、魁が構えた銃を奪い取られた。
「!? 何……!?」
魁がその方向へと視線を向けると、牛の角にトカゲ頭をした“No1”が長い舌をカメレオンのように伸ばして、銃を奪ったようだった。
「チッ! クソ……こいつは思いの他、役立つクローン体だったわね。鮫島! こいつは正解よ!」
魁は悠然と、遠くで様子を窺っている鮫島に声をかけた。
敵である魁からの言葉ではあったが、鮫島は安心したようである。
「さて。それはどうでしょうね」
ふと、ラフィンが口にした時、No1が角を向けてラフィンへと突っ込んできた。
「やはりですか」
ラフィンは言うと、ニッと口角を上げた。
そしてNo1の角を掴むと、足に力を入れて踏ん張った。
ザザザと二メートル程、押し進められた所で、止まった。
「筋肉バカは接近戦しか出来ない上に、まるで学習能力がない。私にはこちらの方が、有利です」
ラフィンとNo1は力の押し比べをしていたが、筋力はやはりNo1の方が上、よってラフィンは押し切られる前にNo1のバーコードナンバーを唱えた。
「4940 1370.溶解」
これにNo1はガクガクと激しく痙攣を始めたかと思うと、全身のあちこちにテニスボール程の瘤のような浮腫が出たり消えたりすると、白い煙を上げて溶け始めた。
「兵隊創りにばかり力入れて、知能がない。戦略をもっと練ってから創るべきでしたね」
ラフィンは両手を払いながら鮫島を見ると、言い放った。
「おや残念! どうやら正解じゃなくてハズレだったみたいね! おバカさん!」
魁も鮫島に言い放つと、No1が落とした銃を拾い上げた。
「クソ……ッ! こんな筈じゃ……!」
鮫島は悔しそうに歯軋りするのを、隣で氷室は他人事のように素知らぬ振りをした。
残すは四つの頭を持つNo6と、頭だけで空を飛んでいるNo4の2体。
ちなみにNo4を相手にしている美誠は、えいえいと石を拾っては投げていたのだが……。
「ったく! チョロチョロしやがって! 早くこっちに顔を向けろってぇの!」
美誠は苛立たしげに口にする。
するとそれに応じるようにして、No4は美誠の方へと顔を向けたかと思うと、噛み付かんと口を開けて襲い掛かってきた。
「はっ! バーカ! 思う壺だ!」
美誠は更にポケットからゴムパチンコを取り出すと、それに溶解液アンプルをセットして、ゴムを引き絞った。
「入れぃっ!!」
掛け声と共にアンプルを撃ち放つ。
すると見事にNo4の口に入ったアンプルは、ゴムパチンコの威力により口内で砕けた。
「あんた……用意がいいわね」
「戦力になりそうな物は手当たり次第持って来たから!」
美誠は嬉しそうに答える。
しかし直後。
「後ろです水沢!!」
ラフィンの鋭い声に、魁が後ろを振り返る。
同時に、魁はNo6から片手でこめかみを掴まれたかと思うと、地面に押し倒すその勢いで後頭部を地面に叩きつけられた。




