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deta,52:能力と体力は別もんよ



「それで、ダルタニアスさんは記憶力いい方?」


 氷室遊弥(ひむろゆうや)水沢堂魁(みさわどうかい)に対して訊ねる。

 二人はいつもの中華料理店にいる。

 今回は遊弥の彼女である藤井梓(ふじいあずさ)は同伴していない。


「当たり前じゃない。あの子は天才的に頭がいいわよ」


 魁の言葉に、遊弥は首肯すると6枚の写真を魁に手渡して見せた。

 写真には、あの突然変異体クローンがそれぞれ写っていて、マジックペンでナンバーとバーコードナンバーが記してあった。


「ぅわぁ~、改めて見るとエグいわねどれも」


 写真を見ながら、魁は顔を顰める。


「今回、俺はこいつらサイドだから極力戦闘には手を出さず、傍観に回るけどいざとなった時のみ、この溶解銃を使わせてもらうよ」


「判ってるわ。その為にそれをあんたに渡したんだから」


「ちなみにこいつら全員、普通の銃弾は効かないように創られてるから」


「じゃあ初っ端から溶解銃の出番なわけね」


 魁は言って銃を取り出すと、マガジンを抜いて弾数を確認する。


「ちょ……っ! 魁さん! 公衆の面前で銃を堂々と出すのはマズい――」


「大丈夫よ。ここの店、裏社会の住民の憩いの場だから」


 魁の言葉に、遊弥は周囲を見渡すと誰一人として、魁の銃に反応する者はいなかった。


「はぁ~……つくづく水沢堂さん、闇の住人なんスね~……」


「あんたも人のこと言えないじゃない」


「まぁ確かに」


 遊弥は答えると、自分も銃を取り出した。

 そして魁と同様、彼から貰った溶解弾の弾数を確認するのだった。




「成る程。これが氷室とやらから貰ってきた、突然変異体クローンの写真ですか」


 ラフィン=ジーン・ダルタニアスは魁から6枚の写真を受け取ると、じっくりと目を通す。

 悠貴美誠(ゆうきみこと)はダイニングテーブルの椅子に座っているラフィンの背後に回り込むと、彼の肩越しから写真を覗き込む。


「うわっ! マジこんなのを相手にすんのかよ二人とも!?」


「でしょー!? 信じらんないでしょ!? でもあたしもこの目で実際に見たし、間違いないわ」


 魁も椅子に足を組んだ姿勢で美誠に言うと、手にしていた缶コーヒーを仰ぐ。


「しかしこれは……クローンはクローンなのでしょうが、突然変異体ではありませんね。遺伝子組み換えクローンですよ」


 ラフィンは写真を片手に眺めながら、そう口にする。


「そんなことどっちでもいいわよ。少なくとも化け物であることには変わりないんだから」


「でも、ラフィンは大丈夫だぜ。何と、昨日からラフィンは超人になったんだから!」


「超人……?」


 美誠の言葉に、魁はキョトンとした。


「私自身がクローン体溶解の力を体内に取り込んだので、今後は私に触れられた対象は溶解されるってことです。バーコードナンバーを知りたかったのは、そういう理由です」


 美誠に“超人”呼ばわりされて、ラフィンは苦笑しながら魁へと答えた。


「え? でも遊ちゃんは、もうあんたは特殊能力を持ってるって言ってたわよ?」


「そのように敵クローンには情報を握らせたんですよ。そうすれば簡単に私へ手を出せなくなるでしょう? それまでは、その特殊能力開発製造のデータを持っていただけです。処方箋みたいなものです。勿論、その能力を体内に取り込めるのは私だけです。他のクローン体などが体内に取り込んだ場合、(たちま)ちその肉体ごと溶解しますからね」


「成る程。情報操作してたの。それで美誠のボディーガード役にあたしを動かしたわけね。納得」


「ええ。これからは、私直々に参戦できるので、もう逃げ回る必要もなくなりました。全ては美誠を守る為です」


「あら、そう。でも体力面では足手まといにならないで頂戴ね。能力と体力は別もんよ」


「解っていますよ」


 すると更に美誠が嬉々として言った。


「それも大丈夫だぜきっと! だってラフィンはこう見えても“体しまってる系”だから!」


「……」


「……」


 さすがにこれには黙り込む魁とラフィン。


「ん? 何だよどうしたんだ二人とも?」


「あんたねぇ……それって……全く。よくこんな天然、抱いたわねラフィン」


 キョトンとする美誠に、呆れ果てる魁。

 ラフィンは困った表情で、クスクスと苦笑する。

 ここでようやく自分が何を意味する言葉を発言してしまったのかに気付いた美誠は、ハッとして硬直すると忽ち赤面した。


挿絵(By みてみん)


「ご覧なさいあのアホ面。軽く目玉焼き出来るわよあの熱で」


 魁の言葉に美誠は自分の頬に、両手を当てると狼狽する。


「いや、ちが……っ、あの、そのっ、ああ、ごっ、ゴメン、ラフィン! そんなつもりじゃ……!!」


 恥ずかしさのあまり、泣きそうになっている美誠だったが。


「別に構いませんよ私は。事実なのですから」


 平然と述べたラフィンの言葉に、更に魁は呆れた。


「はいはい、ご馳走様。もうお腹一杯よ全く。こんな事であんたもいちいち泣くんじゃないわよ美誠。ホント涙腺弱いわねぇ~」


 そう言うと上着の内ポケットからタバコを取り出して火を点けると、大きく一息吸い込んで紫煙を吐き出す。


「水沢の言う通りです。何も泣く事ではありませんよ」


 ラフィンは言いながら、エグエグと泣き出してしまった美誠を、よしよしと頭を優しく撫でて慰めるのだった。


 そんな三人のやり取りが交わされている間にも、時間は無情なまでに刻一刻と近付いていた。

 鮫島(さめじま)と遊弥率いるクローン体との戦いに向けて。

 敵がいつ現れるかまでは解らなかったので、ラフィンは晩ご飯は麻宮神父の家に行くようにと美誠に指示した。




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