Data,48:クローンの成れの果て
「あたしは散歩している通りすがりの者よ。こんな所で女性が一人、何をしてるの?」
「あ……私は……今夜はあまりにも綺麗な満月だったから、散歩に……」
女は消え入りそうな声で答えた。
「あら、じゃああたしと一緒ね。もし良かったら、あたしの話し相手になってくれない?」
「え、ええ……」
女は警戒していたが、幸いにも水沢堂魁が女言葉だったのでいくらか、安心感を与えたようだった。
魁は彼女の隣に座ると、ニッコリと笑顔を見せる。
「あたしもね、この月に誘われてここまで来たの。ここってちょっとした穴場じゃない? 月が美しく見れる、ね」
「……」
「星空も綺麗に見えるし……あ! 流れ星!」
「え!? どこどこ?」
女は咄嗟にそう口にして、夜空をキョロキョロ見渡したが。
「残念。もう消えちゃったわ。でもまた見れるわよ」
「せっかく願い事をしようと思ったのに……」
「フフ、今時あまりない発想ね。願い事って、何?」
「そ、それは……内緒」
女は星空を見上げながら答えた。
月明かりに照らされた彼女の顔は、とても美しく見えて魁はうっとりした。
「ねぇあなた……日本人じゃないわよね? いつから日本にいるの?」
「あ……ええ、私は、イギリス人なの。日本に来たのは二年前」
「へぇ~、そうなのね。日本語、とっても上手よ」
「勉強、したから……」
「いつもここにいるの?」
「ええ。私体が弱くて……夜でしか外出できないの」
「じゃあ、良かったらまた今度ここで会わない?」
「え……?」
「ダメかしら?」
「いいえ、ちっとも! 私この体だから、友人とかいないから嬉しい……!」
「年はいくつ?」
「22歳よ」
「そう。あたしは29歳よ。年上でも大丈夫かしら?」
すると女は、コクコクと何度も頷いた。
「あたしはカイ。あなたは?」
「セレア・メイランドよ……」
夜風でセレアの長い白髪が揺れる。
「じゃあセレア、これからもよろしくね」
魁に握手を求められて、セレアはそっと手を上げて彼の手を握った。
「こちらこそよろしく、カイ……」
「それじゃああたし、行くわね。セレアも夜風に当てられないようにね!」
そうしてベンチから立ち上がると、魁はセレアに手を振りながら行ってしまった。
「カイ……」
セレアは生まれて初めて、胸に灯る温もりを感じた。
「ちょっと遊弥! 人がせっかくナンパした女と楽しい時間を過ごしてたのに、うるさく呼んで邪魔するなんて!」
魁は耳にあるイヤホンを指で押さえつつ、苦情を口にする。
「あんた一体何やってんスか全く。水沢堂さんからここを調べると言い出しておいて」
研究所の入り口の前で、丁度戻って来た魁に氷室遊弥は言葉を交わす。
「今なら中に侵入しても大丈夫っスよ。お嬢は睡眠中で、姫は外出中で、研究員達も帰宅していませんから」
「何なのその、お嬢とか姫とかって……」
「ここの支配者みたいなものっスよ」
「ふ~ん。じゃあ、手早く捜索させて貰うわ。遊ちゃん案内よろしく」
「了解っス」
そうして二人はライフサイエンス研究所へと入って行った。
二階建ての研究所は、一階二階は特別これと言ったもののない、普通の住居スペースだった。
地下室の方へと行ってみると、魁は眉宇を寄せた。
そこには、巨大な筒状のガラス管の中で液体とともに、いくつもの配線に繋がれた人らしからぬ姿の生物が入っていたからだ。
全部でそれが六個もある。
「これ、クローンの成れの果てっス。でもあいにく、失敗作ではなくて、鮫島さんが意図的に作らせていた、云わば生物兵器です。対ダルタニアス用のね」
「何ですって!? こんなものをダルタニアスに明日、ぶつけようとしてるの!?」
「っス」
「“っス”じゃないわよ! じゃああたしも参戦するしかないじゃない。6対2か……遊ちゃん、この銃を渡すから、あんたも鮫島の目を盗んで巧くやって頂戴」
「何スかこれ」
「クローン溶解銃。ダルタニアス製作」
「ヒィ~ッ!!」
クローンである遊弥は思わず、顔を青ざめた。




