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Data,46:入手した特殊能力



 思いがけないラフィン=ジーン・ダルタニアスとの共通点に、口に出そうか迷ったが男性恐怖症のエレイン・ローレンスに、男の話題など興味ないだろうと、喉まで出かけた言葉をそっと飲み込む。


「それに美味しいし! イギリスは最悪!」


 エレインは言うと、舌を出して不味いという表現をして見せる。

 それが面白くて、悠貴美誠(ゆうきみこと)は声を出して笑った。


「そう言ってもらえると、ウェルカムジャパンだよ」


 美誠の言葉に、エレインは愛らしい微笑みを浮かべた。




 セントティベウス教会の典礼も終えてラフィンは、またもや書斎にこもっていた。

 それは、生前ラフィンの生みの親である父親――“オリジナル”が、万が一の為にと残してくれた資料を実物化する為に、書斎で製造しているからだ。

 それを製造するには、長い時間を要していた。

 何せ自分以外のクローン体が必要だったからだ。


「できた……」


 ラフィンは呟くと、青い液体の入っている注射器を目の高さまで掲げた。

 その薬液が成功しているのか失敗しているのかは、自分の体を以ってしてしか確かめられない。

 そうでなくてはいけないのだ。

 この薬液の効果を他で実験するわけには、いかないものだからだ。


 ラフィンは、改めて父の残した資料を繰り返し読み直しながら、自分が行った作業と重ね合わせて何度も思い返した。

 10分以上過ぎてから、ようやく納得すると覚悟を決めた。

 三回、深呼吸をするとラフィンは自分の左腕の血管を見定めて、注射の針を突き刺した。

 そして少しだけ注射内に自分の血液を吸い上げる。

 青い薬液に深紅の血が混じって、紫色になるのを確認してからラフィンは、ゆっくりと薬液を血管内に押し流しこんだ。


 一秒もしない内に、その効果は表面化した。

 ラフィンの瞳孔が開き、心臓が大きく跳ね上がった。

 体は燃えるように熱くなる。

 脳が麻痺した感覚に襲われ、視界が白くなる。

 短くなる呼吸。

 やがて高い場所から足を踏み外した感覚に捉われて、押し殺していた声を漏らした。


「ぅぅぅぁぁぁあああああーっっ!!」


 ラフィンは膝から崩れ落ちるように倒れこみ、床に激しく両手を突いた。

 直後、まるで夢から覚めるかのようにして、ラフィンは現実に戻った。

 繰り返される、短く浅い呼吸。

 失敗したのか、成功したのか、謎のままだ。


 ラフィンはユラリと立ち上がると、戸棚に置いてあった水槽へとふらつきながらも歩を進めた。

 その水槽の中には、毛のないネズミが二匹、入っていた。

 裸ネズミの皮膚には、バーコードの烙印が入っている。

 時間をかけただけに、ラフィンの頭の中には二匹のネズミの、バーコードに記されている数字はとっくに暗記済みだ。

 

 ラフィンは水槽を戸棚から出すと、中央のテーブルの上に置いた。

 そして中へと手を差し入れると、二匹のうちから一匹を取り出した。

 ラフィンはもう一度深呼吸をすると、そのネズミの体に刻印されたバーコードの数字を唱えた。


「4,974296,010411」

 

 すると彼の手の中にいたネズミは一瞬硬直したかと思うと、たちまち奇声とともにもがき苦しみながら骨まで残らず、ドロドロに溶解死した。

 これにラフィンは体を震わせた。

 全身からどっぷりと汗が噴き出している。

 手には先程のネズミの肉汁がまとわりついている。


挿絵(By みてみん)

 

 ラフィンはその手の平をまじまじと見つめると、もう一度確認する為に水槽に残ったネズミを取り出し、バーコードの数字を唱えた。

 これでもやはり、先程のネズミと同様、彼の手の中で二匹目のネズミも溶解死する。

 自分の体を張った実験は、無事成功したのだ。


 つまりこれは、ラフィンがバーコードナンバーを唱えるとクローン体の奇形細胞が働いて、その標的は肉体が溶解して死に至るという能力を得たのだ。

 水沢堂魁(みさわどうかい)に与えている、溶解弾と同じ理屈でそれをラフィン自身が実行できるようになったわけである。

 

 これでもう、奇形クローンの襲撃に恐れることはない。

 ラフィンはこの能力を与えてくれた父に、心から感謝した。

 今後は自ら、愛する者を――美誠を守ってやれると。




「んじゃ、今日は楽しかったぜエレイン」


 夕方、美誠は駅でエレインに声をかけた。


「ミコト……これからもあたしと友達になってくれる……?」


 エレインは不安そうな表情で訊ねた。

 すると美誠は目を瞬かせると、ニカッと笑った。


「何言ってんだよ。もう俺達、友達だろう?」

 

 これにエレインは目を見開くと、嬉しそうに微笑んで大きく首肯した。


「うん! ありがとうミコト!」


 言うとエレインは電車に乗り込んだ。

 タイミング良く、ドアが閉まる。

 動き出した電車の中にいるエレインが手を振るのに、美誠も手を振り返した。




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