Data,39:ホットミルクはいかがです?
夜――。
もう深夜0時を過ぎた時間。
悠貴美誠は自分の部屋のベッドの中で横たわり、スヤスヤと静かな寝息を立てている――はずだが。
その日の彼女はどうにも寝付けず、ギラギラした目で天井を見つめていた。
ベッドに入って、もう何度寝返りを打ったことだろう。
眠れない時の寝返り程うざったくて、飽き飽きすることはない。
「クソ。どう努力しても眠れん」
美誠は小声でぼやいてから、ムクリと上半身を起こした。
そして盛大な溜め息を吐くと、ベッドから足を下ろす。
「のど……渇いたな」
呟くと美誠は立ち上がった。
彼女は普段から、シャンパンゴールドのサテン生地である、膝までのネグリジェを寝間着にしている。
ラフィン=ジーン・ダルタニアスとリビングで別れたのは3時間前だ。
「ま、大丈夫だろう。このままでも……」
美誠はそっとドアを開けると、一階のキッチンへと足を運ぶ。
向かいにあるラフィンの部屋を尻目に、その隣にある書斎を前にしてすぐ脇にある階段を前にした時だった。
突然、書斎のドアが派手に開いた。
「わっ!!」
美誠は飛び上がって驚き、床にしりもちを突いてしまった。
「ラ、ラフィン! まだ起きてたのかよ!?」
背後に両手を突いた姿勢で喚く美誠だったが、下着が丸見えになっていることには気付いてなかった。
「おや……これはこれは」
珍しくラフィンが、悪戯っぽい微笑を浮かべる。
ラフィンの舐めるような視線に、ようやく自分のパンツが丸見えだと気付いた美誠は、咄嗟に声を上げた。
「キャア!!」
これに一瞬驚いた顔をしてからラフィンは、クツクツと咽喉を鳴らして笑った。
「美誠でもいざとなったら女の子らしい声を上げるのですねぇ」
「当たり前だ! 女なんだから! それがどうした!!」
顔を紅潮させながら、精一杯強がる美誠。
「なるほど……女、ですか」
ラフィンは意味深にポツリと口にする。
「それよりもこんな所でこんな時間に、一体何やってんだよ!?」
美誠は立ち上がりながら訊ねた。
「そんな美誠こそ」
「俺は寝付けなくて。そしたら咽喉が渇いたからキッチンに……」
するとラフィンは、書斎かの部屋から足を踏み出すと、ドアを閉めてから言った。
「ではこちらに。飲み物くらいならお出ししますよ」
そうして書斎の隣にある自分の部屋へと歩を進めた。
「え、でも……部屋、入っていいのか?」
するとラフィンは一瞬意外そうな顔をしてから、ニコリと笑って大きくドアを開けた。
「勿論です。さぁ、どうぞ」
促されて、美誠は恐る恐ると中へと入った。
室内は、綺麗に片付いており、必要最低限の物しかなかった。
男の部屋って初めて入るけど……こんなさっぱりしているものなのか?
美誠は内心、思う。
「ホットミルクはいかがです? よく眠れますよ」
「うん。じゃあそれ貰う」
これにラフィンは首肯すると、簡易冷蔵庫から牛乳パックを取り出してから、マグカップに注ぐ。
そして電子レンジに入れると、温めを開始した。
その間に、ラフィンも手早く自分の飲むワインを準備する。
軽快な音と共にミルクの温めが終了したので取り出すと、ラフィンは訊ねる。
「このままがいいですか? 甘めがいいですか?」
「じゃあ甘めで」
ラフィンは首肯すると、ハチミツをホットミルクに入れてスプーンで掻き回した。
「さぁ、どうぞ……――って、一体いつまで突っ立っているのです」
「いや、どこに座ればいいのか分からなくて」
「別にベッドに座っても構いませんよ」
クスクスと笑ってラフィンは言った。
こうして二人並んでベッドに腰かける。
ラフィンは近くにあった、車輪の足になったミニテーブルを引き寄せた。
「どうかしましたか?」
ラフィンは一口、ワインを飲んでから訊ねてきた。
「え? ううん、何で?」
それまでホットミルクに視線を落としていた美誠は、慌てたように顔を上げる。
「いえ、何だかいつもと比べて、随分しおらしいので」
「そ、そんなことねぇよ!」
美誠はついムキになると、一気にホットミルクを飲み干してしまった。
それを確認したかのように、ラフィンは美誠の長い黒髪を優しく撫でてきた。




