Data,38:クローン体の支配
「エレインが私を守ってくれたように、私もエレインを守るわ」
本来、いつも弱々しいセレア・メイランドのエメラルドブルーの瞳が、冷酷な光を宿していた。
研究所長、氏仲洋人を力一杯殴り飛ばしたエレイン・ローレンスの右手は、真っ赤な鮮血で濡れている。
氏仲の頭は、その余りもの力に粉塵して飛び散り、肉片以外跡形もなかった。
「まぁ何たる威力、恐ろしい……しかしこれは一体どういうことだよセレア? エレインを守るって?」
すると氷室遊弥より遅れて鮫島がリビングに入って来た。
「氷室、ダルタニアスの写真は……――っと、これは何の修羅場の後だ」
この血溜まりの中で、そう口にした鮫島はあくまでも冷静だった。
「それがいきなりエレインが氏仲さんを怪力でぶん殴っちゃって……その理由を今から聞くところ」
「ああ。で?」
「で、って……まるで他人事みたいだね鮫島さんは」
鮫島の氏仲の死に対する落ち着き様に、氷室は半ば呆れる。
「こいつ……エレインに肉体関係を迫ってきてたのよ。この私を利用してね!」
「肉体関係!? エレインに? セレアじゃなくて!?」
セレアの怒声に、氷室が驚愕して思わず、聞き直す。
「セレアは役立たずだからここに置いておく理由がない、処分されたくなかったらあたしに、セ、SEXさせろって……!!」
エレインは喚くように言うと、その場で泣き崩れた。
「私を盾に取るなんて、あまりにも卑怯だったのよこの男!!」
セレアは言うと、もうピクリとも動かなくなった氏仲の肉体にペッとつばを吐き捨てた。
「……ちなみにエレインは今、いくつだっけ?」
「13よ……」
「うわぁ、子供相手に、悪趣味な奴だったんだなぁ~!」
頬を涙で濡らしながら年齢を答えたエレインの発言を聞いて、氷室は死んだ氏仲に呆れ果てる。
「まぁ、いいんじゃないか」
「え? 何が?」
鮫島の言葉に、キョトンとする氷室。
「この男が生きていようが死んでいようが、俺には興味のないことだ」
「まぁ、そうかも知れないけどさぁ、今度からここの所長はどうするよ?」
無感情な鮫島に、氷室は途方に暮れたように訊ねる。
「セレアになってもらう」
「え!?」
これには氷室だけでなく、セレアとエレインも聞き返した。
「我々を生み出した相手にこう言っちゃあ何だが、どうも人間どもはクローンに対して差別的に見ている。ここは一つ、クローンの所長を祀り上げ、権力でも保守して俺達の立場を思い知らせなければな。ダルタニアスのような成功例とは違って、奇形や亜種にはそれらにはない力があるのだから。今回のエレインのような扱い方を間違えた結果がこれだ」
鮫島は言うと、氏仲の肉体を足で小突いた。
「でも、私には何の力もないわ……」
セレアは不安そうに口にする。
「姫にはお嬢がいる。雑務は今まで同様、俺達がこなす。それでいいだろう」
鮫島の言葉を聞いて、エレインがセレアの胸の中に飛び込んだ。
「セレア!!」
これにセレアは、意を決したようだ。
「……ええ……分かったわ……じゃあ今から私が、ここの所長になります」
「ああ、頼むよ。お姫様」
鮫島はニヒルな笑みを浮かべると、氷室に命令した。
「下から何人か研究員を連れて来い。ここを片付けさせる。最初の人間への見せしめだ」
「あ、ああ、分かった……!」
氷室は答えると、リビングから地下へと行ってしまった。
ここの所内は、五人の研究員を抱えていた。
「ああ、そうだ。あの例の白いオウムはどこにいる」
「パルのこと?」
「パル?」
セレアの返答に、鮫島は眉宇を寄せた。
すると少しは元気を取り戻したエレインが、セレアから体を離してオウムを呼んだ。
「パル! パルー!」
これに奥の部屋から、白いオウムが翼を羽ばたかせて飛んできた。
「私が名付けたのよ。ね、パル」
セレアに声をかけられて、七本指のクローンオウム、パルはクエェと鳴いた。
「そうか。こいつを今から、俺の探索係りとして使用する」
鮫島は言うと、黒い首輪をパルに着けた。
「探索……?」
「ああ。この首輪には小型カメラが付いている。おまけにオウムは言葉も覚える。日本にダルタニアスがいると判ったからには、空からの探索も必要だからな。借りるぞ、姫」
鮫島の言葉に、セレアは儚い笑みを見せて首肯した。
「しっかり役立っていらっしゃい、パル」
「パル、頑張ル、セレア、クエェッ!」
それから一年後に、ラフィン=ジーン・ダルタニアスと悠貴美誠は出会うのだった。




