Data,37:寄り添う姉妹
「何をするの博士!!」
エレイン・ローレンスは咄嗟に立ち上がった拍子に椅子が倒れたが、構わずその場から離れて裾で口を拭う。
「キスだよエレイン。言ったろう。お前のことが大好きだって」
「あたしはそういう気持ちは博士にはない!」
氏仲洋人はゆっくり立ち上がると、同じ調子で彼女へと歩み寄る。
「来ないで!!」
「そんな態度をとっていいのかいエレイン。セレアがどうなっても知らないよ?」
氏仲の言葉に、エレインは後ずさっていた足の動きを止めた。
「え……セレアが、何……?」
「今のクローン製造のまだほとんどが失敗作ばかりだが、それなりに役には立つ。しかしセレアはどうだ。太陽の下すらも歩けず、ほとんど毎日が体調不良。一体何の役に立っているかね」
「何、を……」
「しかし私はセレアを処分したりはしないよ。君さえ私の傍にいてくれたらね」
「傍に……?」
「そう。つまりSEXだよ」
「!?」
エレインの顔が青褪める。
「君は本当に愛らしい……まるでビスクドールのようだ……私は君と最初に出会った時から、一目惚れだった。どうだい。私と肉体関係を持たないか。そうしたらセレアをずっと……ここに住まわせても構わない」
氏仲は1.5メートル程の距離を取って、足を止めた。
エレインの怪力の被害に遭わない為だ。
「すぐにとは言わない。考えてくれないか。オスリン研究所から脱走した時のことを思い出しながら、ね……」
氏仲は不気味な笑みを浮かべると、突如踵を返してオウムの雛が入っている水槽を手に、リビングから足早に立ち去って行った。
氏仲がすっかりいなくなってから、エレインはその場にへたり込む。
氏仲は鋭い所を突いてきた。
オスリン研究所から脱走して日本に来るまでの間、日の下には出れないセレア・メイランドの調子に合わせながらの逃走は、本当に大変だったのだ。
おまけに虚弱体質のセレアは道中、何度も嘔吐した。
時には吐血まで。
彼女を守る為が、逆に負担を与えてしまったのだ。
よって日本に来てからはこの研究所の待遇は、本当にセレアの助けになった。
きっとこの国以上の場所は他にないだろう。
セレアはエレインにとって、実姉のような存在だ。
失いたくない。
守りたい――。
エレインは溢れ出す涙を、止めることが出来なかった……。
およそ三ヶ月が経過したある日のこと。
エレインはあれから、まるで氏仲から隠れるように常に、セレアと一緒だった。
セレアには、氏仲から脅されていることを相談はしている。
なのでセレアも、エレインを守る為、その虚弱体質ながら彼女なりに努力していた。
オウムの雛もすっかり成長し、室内を自由に飛び回っている。
リビングでエレインはセレアと一緒にTVを観ていた時だった。
「朗報朗報~!!」
氷室遊弥が明るい声でやって来た。
「どうしたの氷室さん……」
セレアが彼に尋ねる。
「ダルタニアスが日本にいることが判明したよ」
これにエレインとセレアが驚愕を露にする。
「それは本当!?」
セレアの言葉に、氷室は首肯する。
「うん。ほら、証拠写真」
そう言って氷室は、10枚の写真をセレアに渡した。
「この人が……ダルタニアス……」
エレインがセレアの手元を覗き込んで、呟いた。
そこには美しい金髪を腰まで伸ばした、まるで女と見紛うかのようなラフィン=ジーン・ダルタニアスの姿が写真に捉えられていたのだ。
するとリビングに、氏仲が入って来た。
「おや、氷室君か。何かあったのかい?」
直後、エレインの双眸が緋色に変貌する。
何も知らない氏仲は、笑顔を浮かべながらエレインへと歩み寄る。
「エレイン、目の色の様子が――」
瞬間、氏仲の頭部が弾け飛んだかと思うと、首なしの胴体のみが床に倒れこみバタバタと暴れた。
「!? エレイン! 何てことを――!!」
驚愕する氷室に、セレアが冷ややかな様子で口にした。
「私がアイデアを与えたのを、エレインは実行しただけよ」




