Data,31:黙れオカマ
翌日――午前10時、双葉学園の正門前にて。
悠貴美誠が到着してから五分遅れて、青い車に乗った藤井梓達がやって来た。
「ヤッホー美誠! 調子はどない?」
助手席から梓が手を振りながら、満面の笑顔で降車して来る。
数秒遅れて、運転席から氷室遊弥も降車して来た。
「今日も俺は絶好調だよ。今日は晴れて良かったな!」
美誠も片手を上げて答えながら、笑顔を見せる。
「この人が梓の彼氏かよ?」
美誠は遊弥に視線を送って訊ねた。
「せやね~ん! って、美誠の彼氏がおれへんけど?」
梓が照れ臭そうに言ってから、キョロキョロと左右を見渡した。
「ああ、いるぜ」
美誠の言葉を合図に、校門の裏から長身の男が姿を現した。
「ハァ~イ、藤井さん。元気してた?」
「……――って、え? アレ? えっ、え!? どないなっとんねん美誠!? やっぱりこの先生、美誠の彼氏やったん!? ってか、確かオネェ系やったんじゃ……!?」
梓は驚愕しながら、美誠と、そして水沢堂魁を交互に見やる。
「俺の反対みたいなもんで、決してオネェじゃねぇよ。これでもしっかり男」
美誠は梓の反応に、可笑しそうに答えた。
「先生、うちのこと覚えてくれはったんですか?」
「ああ、勿論だよ。君は関西っ娘だからこの美誠と並んで、印象が強かったからね」
魁は男口調で答えると、ポカンとしている梓にコロッと笑顔を見せた。
「……――なんちゃって☆」
そして梓の斜め後ろに立っている遊弥に視線を向けると、彼は怪訝そうな表情で立っていた。
これに魁はクスリと小さく笑うと、悠然と口を開いた。
「では改めて、お互い自己紹介しましょ」
「そうだな。初めまして。俺は悠貴美誠、梓の親友です」
美誠の言葉に、遊弥は何とか無理矢理作り笑いをしてから、答える。
「は、初めまして。僕は氷室遊弥、二十歳です」
「藤井さんはもうみんな知ってるからいいわね。じゃあ残りはあたし。あたしは水沢堂魁、29歳よ」
「みっ、みさ――……ゲッ」
これに遊弥が初めて動揺を露にした。
「……」
「どないしたん、遊弥君?」
何かを察した美誠に、何も知らない梓が不思議そうな目で彼を見る。
「あ、いや、そのっ、初めまして、みみみみみ水沢堂さん! よろしくです!」
あからさまな動揺に、魁は意地悪そうな笑みを浮かべる。
「よろしくね、遊ちゃん♪」
さすがラフィン。彼氏役をあたしに頼んだ理由はこれね。
魁は内心、密かに思う。
一方、遊弥は要注意人物として魁の名前を、鮫島から聞かされていた。
遊弥が計画した、美誠ごと一緒に来た本命恋人であるラフィンを、ドライブと称してそのまま拉致る予定が狂った。
「これじゃあ話が違う。帰ろうか梓ちゃん」
「へ? 何言うてんの遊弥君?」
「そうよ。まるで何かを計画しているみたいな口ぶりじゃない?」
キョトンとする梓に、鋭い所を突いてくる魁。
「えっ!? いや、そんなことないよヤダなぁー! じゃ、じゃあドライブ行こうか!」
「やれやれだぜ……」
美誠も呆れたようにぼやく。
そして魁と視線を交えると、アイコンタクトを取る。
「じゃあ、ここは年長者の水沢堂さんに運転を――」
「あらイヤよ。あたし他人の車を運転するのは嫌いなの。運転は遊ちゃんがして頂戴。あたしと美誠は、あなたの後ろに座るか・ら☆」
それはつまり、お前の背後からいつでも何かあれば狙えるぞ、という含みがあった。
これに遊弥は小さく舌打ちする。
遊弥も同じことを考えていたからだ。
こうして運転席には遊弥、助手席に梓、その後ろに美誠、そして遊弥の真後ろには魁が乗り込んだ。
エンジンをかけると、遊弥は車を発進させる。
「こいつ、とんだ素人だな」
「どうせ鮫島の下っ端でしょ」
後部座席で顔を寄せ合い、小声で言い合う美誠と魁。
梓には聞こえていないようだったが、遊弥は敏感に反応した。
「素人でも下っ端でもねぇ! 俺はパートナーだ!」
突然大声を出した遊弥に驚いた梓が、“パートナー”が自分を指していると思い込んで喜びを露にする。
「せやねん! うちら最早、夫婦同然やねん」
「まぁ、気の早い夫婦だこと」
梓の言葉に魁が答えると、遊弥が口を挟んだ。
「黙れオカマ」
「……――誰がオカマだゴルアァァーッ!! 俺はれっきとした男だナメてんじゃねぇぞ!!」
魁は怒鳴るなり遊弥の首を、後ろから腕を回して締め上げた。
「ウグッ!!」
「ちょおっ! 運転が!!」
遊弥と梓のカップルは慌てふためくのだった。




