Data,28:ときめきましたか?
「ホント、あんたってからかいがいのある子ね! かわいいったらありゃしない。好きよ。ラフィン」
「全く……あなたにとって私は、赤子当然なわけですか……」
「そうね。あたし流の、かわいがりよ」
水沢堂魁の様子に、ラフィン=ジーン・ダルタニアスは観念した様に嘆息を吐いた。
魁を恋のライバルだと敵視しても、ケンカにもならないのだと。
たった2歳年上なだけなのに、ラフィンは魁に対して大きな差を感じざるを得なかった。
日本に来たまではいいが、どうしたらいいのか路頭に迷っているラフィンを拾ったのは、魁なのだから。
丁度このタイミングで、麻宮神父がアイスコーヒーを運んできた。
ラフィンの存在も意識して、彼の為に紅茶も一緒だ。
ついでにオレンジジュースも一緒なのは、悠貴美誠の分だろう。
「そうだ水沢堂君。新鮮な野菜を収穫したんだ。良かったら夕飯を食べていかんかね?」
「まぁ嬉しい! 是非ご馳走になりますわ!」
魁は手を叩いてはしゃいでみせる。
すると私服に着替えてきた美誠が、部屋からみんなの元に戻ってきた。
「あれ? 魁、まだいたんだ。いつまでいるんだ?」
美誠の粗野な言い方に、魁は眉を吊り上げる。
「あら冷たい言い方ね。しっかり夕飯頂いてから帰るわよ」
興醒めした表情で言うと、魁はアイスコーヒーを啜った。
「では夕飯を作るかな」
麻宮神父が言いながらキッチンへ向かおうとしたのを、ラフィンが引き止める。
「神父様。今日は私が作りましょう」
「ん? そうか。じゃあ任せようかな」
ラフィンの言葉に、麻宮神父はニッコリと笑顔を見せて輪の中に戻ってくる。
代わりにラフィンがキッチンへ向かい始めた所を、美誠が声をかけた。
「ラフィン! 俺も手伝うよ!」
「そうですか。それは助かります」
答えるとラフィンは、美誠を伴って一階のキッチンへと向かった。
この教会には信者用に一階のキッチン、そしてプライベート用に二階のキッチンと二つあるのだ。
キッチンへ行くと、野菜が入った籠が置いてあった。
「わぁ、これ神父様が畑で採ってきたのかな?」
「ええ、その通りですよ」
ラフィンは言うと、壁にかけてある首かけエプロンを二着取った。
「さぁ美誠、エプロンをどうぞ」
ラフィンは美誠にエプロンを渡すと、自分もエプロンを身に着けた。
「では、始めましょうか美誠」
ラフィンが微笑を浮かべると、袖を腕まくりした。
今日のラフィンの服装は白シャツにネクタイ姿だ。
ネクタイの上からエプロンをして、腕まくりをした彼の前腕は、筋肉の筋がしっかりと浮き立っている。
てっきりなよなよにもやしの様なイメージを勝手に抱いていた美誠は、そんな彼の姿が男らしくて魅力的に見えた美誠は、ときめきを覚えずにはいられなかった。
そんな自分の腕を見つめてくる美誠に気付くラフィン。
「私の腕が、どうかしましたか美誠?」
「え? あ、いや、その……っ、ラフィンの素肌の部分初めて見たから……結構筋肉質なんだな、と……」
「……ときめきましたか?」
少し紅潮した顔の美誠に、ラフィンは少しだけ悪戯っぽい微笑を浮かべる。
「な……っ! うっ……うん……」
素直に首肯しつつ、更に顔を真っ赤にする美誠に、ラフィンはクスリと笑う。
「そのうち思う存分、見せてあげますよ私の素肌を」
ラフィンは言うと、美誠の頭を優しく手でポンポンとした。
「う、うんっ!!」
おそらく深い意味も解かっていない美誠は、動揺しながら力強く頷いた。
そんな彼女の純粋な反応が可笑しくて、ラフィンはクスクス笑いながら言った。
「では神父様が丹精こめて作ったこれらの野菜を、しっかり使用したメニューを作りましょうか」
「おうよ!」
ラフィンの言葉に、美誠はガッツポーズをすると籠の中を覗き込んだ。
「んー、俺はぁ、これとこれを使おうかな!」
「おや、そうですか。では私は……」
二人は頭を寄せ合い、籠から野菜を選び取っていった。
「お待たせしました」
「ホント、待ちくたびれたわよ。飲食店でももっと早く出て――」
「飲食店では下処理済んでっからなぁ! 俺らは下処理からだからウダウダ抜かすなら食うな!」
料理を運んできたラフィンと美誠へ、苦情を言ってきた魁に料理をテーブルに置くと美誠が賺さず、人差し指で魁の胸元を2、3度突っついて反論した。
「で、何これ?」
魁は改めて料理へと視線を向けて訊ねる。
「こっちがラフィンが作った……」
「ソーセージとざく切り野菜のポトフです」
「そう、それ。んでこっちが俺が作った、ナスとピーマンの味噌炒めだ」
「どちらも美味しそうだね」
麻宮神父がニコニコ笑顔でそう言ったのを、魁も首肯しながらも。
「でもこれはパンにすべきかライスにすべきか迷うところよ」
「パンもライスもありますから、お好みで召し上がってください。私はパンにしますが」
「俺はライスだなぁ」
「そう。じゃああたしは両方にしちゃおう」
「では、頂くとしようか」
麻宮神父の発言の下、こうしてみんなは食事にありつくのだった。




