Data,26:ラブホなんてどう?
悠貴美誠が気にしてサイドミラーで後ろを確認すると、校門の前で大騒ぎしている三人の姿が見えた。
「ちょっと魁! どうしてそのままの言葉使いしたんだよ! みんな大パニックじゃないか!」
「別にいいじゃない。さっきも言ったようにもう教師という建前はなくなったわけだし。気にしなくったっていいわ」
「あー、魁はいいかも知れねぇけど俺、絶対次会った時、質問の嵐だよ! しかも他の生徒からも注目浴びたし!」
「適当に誤魔化しとけば~?」
「適当って……つか、ラフィンが迎えに来るんじゃなかったのか?」
「そうかも知れないけど、ちょっとあたしとドライブしましょ♥」
「え? ドライブ?」
「そうよ」
「まぁ、いいけど……じゃあラフィンに連絡して……」
そう言いながら、カバンからスマホを取り出そうとする美誠の手を、水沢堂魁が押さえた。
手と手が重なり、思わずドキッとする美誠。
「あいつには、あたしからもう伝えておいたから」
「そっか。分かった」
魁の言葉に美誠は、スマホを取り出すのをやめる。
すると魁は、美誠が膝の上に置いているカバンを掴んで、後部座席に放った。
「邪魔でしょ。後ろに置いとくわ」
「ああ。ありがと」
礼を述べてから美誠は、改めて前へと向き直る。
「ドライブってどこに行くんだ?」
「……――ラブホなんてどう?」
思いの他真顔でそう言ってのけた魁に、美誠は思わず車のドアに張り付く。
「え゛っ!?」
「冗談よ冗談! ドライブはドライブよ。これと言って目的はないわ」
魁はカラカラと笑ってから、美誠の質問に答える。
「ふーん……でも俺、昼飯まだだから腹減ったかな」
「全く、色気のない子ね。じゃあこれでも食べとけば?」
美誠の言葉に、魁は運転席から彼女の方へ身を乗り出すと、ダッシュボードを開けて紙袋を取り出し、美誠の膝の上に乗せてからまたダッシュボードを閉めると、運転に向き直る。
美誠は紙袋の中身を覗きこんでから、クスッと笑った。
「これって何、まんじゅう? さすがはまんじゅう屋の息子」
「しょっちゅう実家から送ってくるのよ。いい加減飽きるっちゅーの!」
「アハハ! いい親じゃん!」
煩わしそうに言う魁に、美誠は愉快がる。
「親と言や、俺さ、お父さんができたんだぜ」
「お父さん?」
魁はハンドルを切りながら訊ねる。
「ああ。ラフィンがいる教会の神父様!」
「へぇ~、良かったじゃないの。今まで両親がいなかったんだから、たっぷり可愛がってもらいなさい」
「おう! まぁでも……父親へどう甘えればいいのか、まだよく分かんなくてさ。――んっ! うまっ! このまんじゅう、マジ旨いんだけど魁!?」
「まぁ一応、老舗だからねぇ。あたしのとっては馴染みの味だけど」
言うと魁はおもむろにタバコを取り出すと、一本咥えてライターで火を点ける。
それをまんじゅうを食べながらジィと見つめる美誠の視線に気付く魁。
「? 何よ」
「魁って……タバコ吸うのな」
「吸うわよ。これでも男なんだし。ちなみにあたしはタバコを吸う女は嫌いなんだけどね」
「俺は吸わねぇけど」
「吸わない方がいいわよこんなもの。無駄に命を縮めるだけよ」
「うわぁ~、説得力ねぇ~」
魁の言葉に、美誠はケラケラと笑う。
「う、なぁ魁。何か飲み物ない? まんじゅうに口の中の水分吸収される」
「自販機ね。了解」
そして道路沿いにある自販機へと車を寄せる。
パチンとシートベルトを外すと、魁は美誠へと顔を向ける。
「買ってきてあげるわ。何がいい?」
「やっぱまんじゅうにはお茶っしょ!」
「OK」
そう言い残して降車すると、魁はお茶とコーヒーを買った。
車に乗り込むと、お茶のペットボトルを美誠に渡し、発進させてから片手で缶コーヒーのタブを開けてゴクリと飲む魁。
服装から嗜好品から仕草から、何をしても普通の男である。
喋らなければ。
まだ17歳の美誠ではあったが、そういう所で魁がれっきとした男に見えた。
「山登ってる感じだけど、どこ行くんだ?」
「んー、美誠を捨てにかなー」
「えーっ!?」
「クスクス……冗談よ。景色がいい所、連れてってあげる」
そして頂上に着くと、二人は降車した。
「わぁ~! 夏なのに風気持ちいいし、景色もサイコー!!」
左右を山々が連なり、真正面には水平線まで望める海原、地上には街が拝めた。
「ふふ、喜んでもらえて良かったわ」
「ラフィンも一緒に連れてくれば良かったなー!」
「ねぇ美誠。あんたラフィンのどこを愛してるの?」
「どこって……何つーかその……上手く言えねぇけど、一緒にいると嬉しい気持ち?」
「あたしもよ」
「え?」
「あたしもあんたと一緒にいるのが楽しいわ。まぁ完全な横恋慕だけどね。だからこれくらいの付き合い、別にいいでしょ」
山中では、やかましいくらいにセミが鳴いていた。




