Data,21:怪しい気配
「それでは美誠。今日は貴女に逢えて実に良かったです」
「ん、うん、お、俺も……」
車の窓から微笑みを見せるラフィン・ジーン=ダルタニアスに、車から降りた悠貴美誠は改めて照れながらしどろもどろで答える。
「クス……その照れている所が更に愛らしいですよ美誠」
「何だよ。か、からかってんのか?」
「いいえ、本音ですよ。私にとって貴女は愛らしい」
これに更に顔を紅潮させる美誠。
「そ、それじゃ、俺もう行くよ」
「ええ。また連絡します。それではまた……」
ラフィンは心なしか名残惜しそうに言うと、車の窓を閉めながら車を発進させて行ってしまった。
「ラフィン……」
美誠は口の中で彼の名を呟きながら走り去る彼の車を見送りつつ、そっと自分の口唇を指先で撫でるとふと、ラフィンとのキスの感触を思い出す。
それは柔らかく、とても温かかった……。
美誠は思わず、嬉し恥ずかしながらその場で一人、はしゃぎだしたい衝動に駆られた。
だが心の片隅にある理性が、ここは公衆の面前だと警告し美誠はグッと抑えた。
しかし自ずと、距離は短くはあったが正門までの道のりを、ついついスキップする足は止められずにいた。
「何や美誠、今日はやたら不気味やなぁ。何か良い事でもあったんか?」
藤井梓は、二段ベッドの上段で巨大な猫のぬいぐるみを抱きしめて一人ニヤニヤしている美誠の様子に、怪訝な表情を浮かべる。
「んふ~。それはなぁ、満利奈だったら解るかなぁ」
美誠はご機嫌よろしく、間延びした声でそう口にした。
これにルームメイトである山村満利奈も、笑顔を浮かべて答える。
「これは、男が出来たメスの反応ね」
「何やてーっ!?」
満利奈の言葉に衝撃を受ける梓。
「こんな俺っ娘美誠に彼氏ができよったやとー!? そんなん、うちもうかうかしてられへんやないかい!!」
そう喚きながら梓は頭を抱える。
「大丈夫よ梓。この美誠が本当に彼氏が出来たとしたら、あなたにもすぐ出来るわ」
「せやな! うちは少のうてもこの美誠よりも女らしいもんな!」
梓は言いながら胸を張った。
その豊満な胸がプルンと大きく揺れる。
これに目を光らせた満利奈が、梓を背後から襲いかかる。
「胸がでかければ女らしいと思うなよー!!」
そうしてガシッと梓の両胸をつかむと、揉みしだき始めた。
満利奈は彼氏持ちだが、決して胸は大きくなかった。
「あ、アホ! 何さらして……あっ、や、やめぇ……! ――アァン!!」
梓は抵抗しながらも、思わず悶える。
これにそれまでぬいぐるみを抱きしめていた美誠だったが、この景色と声にすっかり現実に引き戻されて呆れながら、ツッコミを入れた。
「何レズってんだよお前ら……気持ち悪ぃ」
「だって梓が欲求不満って言うものだから」
「誰もそんなこと言うてへんわぃ!!」
梓は紅潮しながら喚くと、満利奈の手を振り解いた。
夜も11時を過ぎ、ルームメイトの満利奈は眠りに入っていた。
梓も自分の部屋に戻っている。
二段ベッドなので一段を満利奈が、二段には美誠が使用していた。
部屋の照明も消され、美誠もベッドで横になっていたのだが、ラフィンとのことを思い出さずにはいられず胸をときめかせていて、とても眠りに入ることが出来ない。
その時、ベランダから何やら気配を感じた。
ハッと両目を開く美誠。
何か、いる!
美誠は飛び起きると、梯子も使わずに二段ベッドから下へと飛び降りる。
そしてカーテンの隙間から外を覗いてみると、何かが蠢いていた。
しかしこの部屋は、二階だ。
まさか、あいつら――!?
美誠は背後を振り返る。
満利奈は静かな寝息を立てていた。
彼女を巻き込むわけにはいかないと、手に整髪スプレーを持って美誠はそっとベランダの鍵を開けて、静かに窓をゆっくりと自分が通れるくらいまで開けてから、息を殺してその隙間からベランダへと出る。
ここでようやく美誠の気配に気付いた何者かが振り向いた瞬間を狙って、美誠は相手の顔にスプレーを吹きかけた。
だが、暗闇に慣れてきた目でその者を凝視すると、その相手には両目がなかった。
「そんな……っ!」
愕然とする美誠を他所に、相手は彼女の腹に拳を一発叩き込んだ。
「ぐっ……!!」
美誠は目を見開いたが、苦しみに喘ぐ間もなく気絶してしまった。




