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Data,19:明日一緒に会いに行こう



 呆然と立ち尽くす悠貴美誠(ゆうきみこと)は、ラフィン・ジーン=ダルタニアスの運転する車を見送る余裕すらない。

 すると入れ違うように水沢堂魁(みさわどうかい)の車が彼女に横付けしてやって来た。


「ヤッホ! 美誠。どう? 楽しんできた? って言うかあんた何こんなところに突っ立ってんのバカみたいに」


 魁は明るい声で言いながら、車から降りると美誠の側へと車を回り込んで来る。

 しかし魁の言葉に答えることなく、美誠は大粒の涙を零し始めた。

 これにギョッとする魁。


「なっ、何よいきなり! 何泣き始めてんの一体!? ひょっとしてまた性懲りもなくラフィンとケンカしたんじゃないでしょうね!?」


 魁の言葉に美誠は、ゆっくりと首を横に振る。


「違う……寧ろその逆、かも」


「は!? 何訳の分からないこと言ってんの? あんたバカ?」


 すると半ば魁に縋り付くようにして美誠は、泣き顔で彼を見上げる。


「だって……っっ、何かそれっぽいこと言われてキスされたんだもん……っ!」


「キ……? それっぽいって、ま、まさかその……愛の告白的な……? うっそでしょ!? マジで!?」


 美誠の曖昧で漠然とした言葉を、見事的中させて言うと魁は更に驚愕する。


「うん……」


「なっ、何でいきなりあんた達そーいう事になってんのよ! ケンカしたりキスしたりあんた達さっぱり訳分かんないっっ!!」


「俺だって訳分かんねぇよぉぉぉー……」


 美誠は言いながら、その場に座り込むのだった。

 



 門限の為、寮に帰らざるを得なかった美誠は、その後魁と部屋の固定電話から魁へと電話していた。


『で、あんたラフィンの告白受けるわけ?』


「そんなこと、予想も想像もしたことねぇから分かんねぇよ。しかも年だって離れてるし……」


『そうねぇ。27と17だものねぇ。確かに下手すればロリコンっぽいけど、あいつにそういう意識はなさそうだものね。愛に年の差なんて関係ないってカンジかしら。さすがにあたしはそういう意識持ってるけれど、そんなあたしですら一瞬――』


 ここまで言って魁は言葉を噤む。


 一瞬、異性として抱きたくなった、なんて口が裂けても言えないわ。


「何?」


『いえ、何でもないわ』


「同級の魁にとっては俺なんかガキ扱いしてるけど、ラフィンにとって俺って一人の女性として見られちまってるってこと?」


挿絵(By みてみん)


『あいつは紳士だからね。あいつにとってあんたは立派なレディーよ。ところであたし、あいつと同級じゃないわよ。二つ上の29だもの』


「え!? そうなの!?」


 電話の向こうで美誠が仰天している顔が浮かんで見える。

 これに魁はあっけらかんと答える。


『この大人っぽくて知的で格好いいあたしを、あんなキザガキと一緒にしないで頂戴。ま、あたしにとってあんた達いい関係だと思うけど?』


 魁は言うと、タバコの紫煙をゆっくり燻らす。

 すると美誠の慌てた声が答える。


「そんな! 俺ほどがさつで男勝りで活発なじゃじゃ馬女なんか、あんなクールで大人で紳士的なあいつに釣り合うわけねぇよ!」


『あら意外。一応あんたにもそういう謙虚なところあったのね』


「そりゃあ俺だって控える時は控えるさ……」


 美誠は言い澱みながら、電話のコードをクルクル回す。

 ルームメイトの山村満利奈(やまむらまりな)は美誠の電話内容を聞きながら、ほくそ笑みつつ髪をクルクル回していた。

 恋愛経験に対して先輩である満利奈には、その会話がどんな内容なのかはすぐに見当がつくらしい。

 そうとも知らずに美誠は、魁との会話を続ける。


『とりあえず明日も学校休みなんだから、ラフィンに会ってよく話し合ってみたら?』


「ええ!?」


『嫌ならいいのよ別に。ただしあたしがあんたに構ってやれるのは明日までよ。一週間の契約だったんだからね。まぁあたしがいなくても何とかなるってんなら何も急ぐこと……』


「分かった。明日一緒に会いに行こう」


 美誠の返事は即答だった。




 次の日、魁の車の中にて。


「で、あんたどう答えるつもりなのよ」


「俺、今はまだ分からないから……とりあえず断っておこうかと……」


「ふーん……」


 魁は教会の少し手前で車を停める。


「でもあんたも好きなんじゃないの? ラフィンのこと」


「俺に愛とか恋とかなんて感覚、分かるわけねーだろ!」


「でもあんた昨日あいつにキスされたって泣いてたじゃない」


「あ、あれは……! 怖くなって、つい……」


「それだけかしら? 人って恋すると訳もなく急に切なくなったり、涙を流したりするものよ」


「キスされたからっていきなり恋に落ちるとは限んねーじゃん!」


「でも“気付かされる”きっかけにはなるわよね」


「でも俺は……!」


 美誠は搾り出すように言うと、背中を丸めて上半身を前屈みに伏せた。


「ああもう! じれったいわね! あんたらの恋の悩みを聞かされるあたしの立場も少しは考えてよね! あんまりグズグズされるとこっちが迷惑だわよ!」

 

 魁は喚くように言うと、運転席で体を美誠の方へと斜に構え、腕組みをした。

 すると美誠は上半身を元に正して反論する。


「俺まだ恋してるわけじゃねぇから、恋の悩みにはなんねぇだろ!」


「……いい加減にしないと、あたしの気も変わるわよ」


「でも昨日の今日だぜ! すぐには決めらんねぇよ!」


 直後、ふと魁の目の色が変わり、声音も低いものへとなった。


「そんなに決まらない?」


「そりゃそうさ!」


「だったら……あたしが決めさせてあげるわ……」


 言うなり魁は、美誠の頭部に手を回して引き寄せると、彼女にキスをしてきた。




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