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19/94

Data,18:もう大丈夫だよ



「う……っっ」


「……美誠……」


 突然抱きしめられて思わず呻く彼女の名を、静かに口にするラフィン・ジーン=ダルタニアス。


「な……どうしたんだよいきなり……」


 戸惑わずにはいられず悠貴美誠(ゆうきみこと)は、半ば動揺しながら訊ねる。

 これにラフィンは、彼女を抱きしめたまま語り始めた。


「……実は私は……クローンとしてこの世に生まれました」


「え……っ!?」


「私の生みの親、アルフレド・ブロンソンのクローン体としてこの世に生を受けたのです」


「そ……そん、な……」


 彼の告白に衝撃を受けずにはいられない美誠。

 ラフィンは言葉を続ける。


「今まで数々の人間のクローン体誕生が失敗していく中での、私は初の成功体なのです……」


「……!!」


挿絵(By みてみん)


 更に美誠は驚愕を覚える。

 ラフィンは彼女を抱きしめたまま、話し続けた。


「ですが私の父は……それ以降クローン研究から一切手を引きました。もう一人の自分という私を生み出したことで、私が今後生涯背負い続ける苦しみ、そうさせてしまった自分の過ちによる罪の意識によって……。周囲がクローン成功法を知りたがる中、父は一切それを誰にも教えず、そして7年前に父が殺される際、私に逃げるようにと言ったのです。決して捕まるな、これ以上もうクローンという犠牲者を出さない為に、私と同じ苦しみを持って生まれることが二度とないようにと……」


「ど……うして……」


「それは私自身がクローン成功体という情報そのものだからです」


「情報……?」


「私の中にクローン成功体の鍵があるのです。ですが反面、クローン細胞を全て崩壊させる情報……DNAも含まれている。それはある条件を満たさない限り発動する心配はありませんが、奴らが私に手を出してこないのもその条件の中に含まれている為、出すに出せないのです。いわゆる起爆剤を体の中に潜めているようなものですが、奴らが直接私に手を出さない限り普通の人間として生きることはできます」


「……そう、だったんだ……ラフィンも、クローン体だったんだ……それってきっと、辛かったんだろうな……でも、もう大丈夫だよ。確かに生まれ方は最悪だったかも知れないけど、ラフィンは、ラフィンという全く別の一人の人間じゃないか。例えそのアルフレドって人と全く同じ肉体でも、魂も意識も育った環境も全く別物だ。俺はアルフレドに出会ったんじゃない。ラフィンに出会ったんだ。あんたが何者だろうが、ラフィンはラフィンだ」


「美誠……」


 彼女の言葉に、ようやくラフィンは美誠から体を離す。

 すると美誠は真っ直ぐラフィンの蒼い双眸を見つめて、言い放った。


「そういう事なら、俺もあんたを守ってやるよ。ラフィンが俺を守ってくれるお礼だ」


 これに思わずラフィンは安堵の吐息とともに、苦笑した。


「……全く。貴女のじゃじゃ馬ぶりにはお手上げですね」


「ハハッ、思い知ったか!」


 外では、波が砂浜を寄せては返していた。




 夕方、寮へと送ってもらった美誠は、周囲に気付かれないよう門の外れで車を止めてもらった。

 助手席から降車した美誠の後を追うように、ラフィンも降車して彼女の側へと歩み寄る。


「先程、水沢(みさわ)に連絡しておきましたから、もうしばらくすれば彼がガードにやって来るでしょう」


「ああ。分かった。……今日は話せて良かったよ」


「ええ。こちらこそ」


 静かに微笑むラフィンに、美誠は明るい口調で言った。


「またいつかドライブしような!」


「……ええ……」


「そん時は映画でも観に行こうか! あ、何かそれじゃあまるでデートの誘いみてぇだな。誤解されるのも何だから今度は(かい)も一緒に三人で行こうぜ!」


「……」


 無言を返すラフィンの様子に、美誠はふと彼の顔を覗き込む。


「ん? どうかしたかラフィン」


「……私は……罪な事を、思わざるを得ない……」


「……どういうことだ?」


「……美誠……」


「何だよ。何、思いつめた顔してんのさ」


「……」


「……なぁ、どうしたんだよ」


 彼を気にかけて美誠は、更にラフィンへと近付く。


「……」


「ラフィン……?」


 途端、ラフィンは美誠の腕を掴んで引き寄せると、彼女にキスをしてきた。


「……!!」


 突然のことですぐには理解できず、思わず美誠は硬直する。

 やがてゆっくりと口唇を離すとラフィンは、声を絞り出すように言った。


「やはり私の存在は……罪でしかない。クローンである私が普通の人間である貴女を……愛していいわけがないのに」


「……あ……」


「すみません……」


 そう言い残すとラフィンは、素早く車に乗り込んでその場に彼女一人残して立ち去ってしまった。




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