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依頼029

……もう9月だと…!?((;゜Д゜))




〈ーー思ったんだけどよ。C4とかセムテックスが欲しい。つーか準備しときゃ良かった。信管埋め込んでさ、投げ付けて爆破すれば直ぐに終わっただろうよ〉


「…あぁ、俺も自分の不用心を呪ってる所だ」


 溜め息混じりに無線を介して送られて来る相方のぼやきへ応じるショウはつい先刻まで自身を乗せて歩いていたラクダの亡骸を盾としながら構えたAK-47(カラシニコフ)を3発毎の短連射で発砲し、茶褐色の岩石で彩られた地面を駆けて来る敵を撃ち倒した。


 頭上を通り過ぎた矢が数本、背後へ飛翔している。


 それが重力に従って落下すると苦痛を帯びた短い絶叫が銃声に混じって彼の耳へ届いた。どうやら運悪く護衛の兵士に命中したらしい。


「ーー毒矢だ!連中、毒矢を使ってるぞ!」


 背後から大声で警告するのは別の兵士だろう。それを聞いた彼は大きく溜め息を吐き出しつつ銜えているタバコから吸い込んだ紫煙を吐き出した。


「ーー知ってるよ」










 彼方から届いた手榴弾が炸裂した音を聞き取ったショウが危険を警告し、青年が護衛の兵士達へ行軍を急がせた結果、一行は遂に砂漠を踏破する事に成功した。


 とはいえ砂砂漠を突破しただけであり今度は岩肌だらけの岩石砂漠へ足を踏み込んだだけである事を考えれば、まだ砂漠を踏破したとは言い難い。


 それでも体重で沈み込み、纏わり付く粒子の細かい砂で足が取られる場所で戦闘に陥るよりはマシと傭兵である彼や相方は安堵の溜め息を吐き出していた。


 なにより不意の襲撃を受けても身を隠せる岩石(場所)は無数にあるのが幸いだとすら考えているのである。


 聞いた話によれば、ここまで来たならば2日も掛けずに緑が見れるとの事だ。


 その報せはちょうど砂ばかりの光景に見飽きていた彼等の心へ期待を抱かせるのに充分であった。


 潤いを無くした肌が必要以上に乾燥し、口内や喉の渇きにそろそろ煩わしさすら感じていたのだから当然ではある。


 彼の相方は眼前に広がる景色を祖国のグランドキャニオンかデスヴァレー、或いはかつて従軍した戦地であるアフガニスタンのようだと称したが、前者よりは後者の方がこの荒れた大地を指すには適切だとショウは考えてしまった。


「…俺はイランとイラクの国境付近のようにも思えるがな…それかヨルダンだ」


 特に木々が点々としか生えておらず、一面が大小の岩石で覆われた所などは似ていると彼は呟きつつ跨がるラクダの手綱を捌いた。


 もし此処に二人以外の地球の地理に覚えのある人物がいるとすれば、どっちにしろ中東だろう、と告げる筈だ。


 斥候として二名の護衛が渓谷の中へ先行する間、隊列はその入口で立ち止まる。


 眼前に岩肌が剥き出しになっている渓谷の幅は10mほど、高さは20mほどだろうか。


「……待ち伏せ(アンブッシュ)するには最適だな」


 眼前にある地形を見た彼はそう評し、手綱を片手で握ると空いた右手にAK-47(カラシニコフ)を握った。


 背後を振り向き、隊列の最後方を進んでいた相方の様子を確認すればオルソンもM4A1を持ちながら取り付けた擲弾筒(グレネードランチャー)へ40mmの擲弾を込めている。


 互いに視線が交わるとショウは相方に周辺警戒を意味する合図ハンドサインを送り、オルソンは親指を上へ立てるサムズアップで答えた。


 やがて先行した二名の斥候が戻って来るとラクダヘ跨がり、先頭に立っている青年へ報告を行う。


 問題はないと判断したのか青年が前進を号令すれば隊列が動き始めた。


 幅の狭い渓谷へと二列縦隊を作った隊列が先頭から入った。


 護衛の兵士達がそれぞれ警戒をしつつ手綱を捌き、隊列の中央付近の彼と最後尾を進むオルソンは小銃の床尾を右肩に宛がい、安全装置を解除すると銃口を岩影や渓谷の上へと向け、いつでも発砲出来るよう準備をしながら前進する。


 護衛の兵士達が視線を左右へと送りつつ渓谷の中を歩く中、最後尾を進むオルソンと隊列中央のショウの耳に甲冑の金属が擦れ合う音に紛れた異物が届いた。


 それらの異物は渓谷の上方から聞こえて来る。


「…なぁ相棒。ここら辺に原住民…部族とかいるかな?」


 オルソンがラクダヘ跨がりつつ無線で頬を引き攣らせて相方に尋ねる。


 問われた彼は溜め息混じりに握っていた手綱を離すと片手でソフトパックを軽く振り、愛煙のタバコを銜え、ジッポで火を点ける。


「俺が知るか。…警戒しておけ」


 無線で返答を送ると直ぐに了解が戻って来る。


 彼は手綱を軽く引いてラクダの行き足を停めると小銃(カラシニコフ)を手にしたまま地面へ飛び降りた。


 単発にしていたセレクターを連射へ切り替え、その場で四周を警戒し始めると側を通り抜ける護衛の兵士達が揃って首を傾げている。


「ーーどうかしたのか?」


 兵士の一人が彼へ問い掛けるとショウは短く答える。


「上方を警戒しろ」


 そう返答した途端ーー彼の耳がシュポンという気が抜けたかのような音を捉える。数瞬後、渓谷の上方にある岩から土煙が巻き上がり、爆発音が響き渡るとショウの携帯無線機に相方の報告が届いた。


〈ーー敵だ! 弓を持ってる!!〉


 その報告がされたと同時に今度は短連射の銃声が隊列の最後尾から轟く。


 視界の端に渓谷の上にある岩影から矢を番えた弓の弦を引く顔を布で隠した人間ーー敵の姿をショウは捉えた。


 敵に小銃の銃口を向け、照門を覗き込んで照星を被せる。銃爪(引き金)を引き絞るとーー100mほど先にいる敵へ向けて3発毎の短連射を2回行う。


 岩棚へ数発が弾着し、発砲した内の2発が敵の胴体を貫いた。姿勢を崩した敵が弓の弦を離しながら渓谷の底へ真っ逆さまに落ちて行く。


 弦から解き放たれた矢はーー緩く弧を描きつつ飛翔し、彼が先程まで跨がっていたラクダの首へ深々と突き刺さった。


 それを認めたショウは移動手段(ラクダ)を保護しようと駆け寄るが彼が傍らまで近付いた瞬間、地面へ力なく倒れ込み、口から荒い呼吸を繰り返す。


「ーー待ち伏せ(アンブッシュ)されてたか…」


 渓谷の上方から隊列に向かって十数本の矢が降り注ぎ、兵士達が大声で王女を守るよう逓伝する。


 彼は地面へ片膝を突くと時折視界に入る敵影へ発砲を行いながらも倒れ込んでしまったラクダの様子を確認した。


 単連射で敵影へ向かって射撃を加えている彼の眼前ーーラクダの背中にある鞍へと矢が突き刺さる。


 右腕だけで小銃を保持しつつショウは矢を引き抜き、その鏃に塗られた粘性の透明な液体を認めると銜えたタバコから吸い込んだ紫煙を舌打ちと共に吐き出した。


「ーー…毒か…」


 苦しげにラクダは荒い呼吸を繰り返し、口からは白い泡を噴き出している。充血している瞳が彼を捉えるとーー彼は小さく頷く。


「…辛抱しろ。直ぐ楽にしてやる」


 ここまで運んでくれたラクダヘ礼代わりの安寧を与えようと彼は額へ銃口を向け、躊躇なく3発の銃弾を叩き込んだ。


 絶命したラクダは顔面を血で汚しながら弾着の衝撃で地面へ横倒しになった。


 この遺骸は盾として使えるーーオルソンが再び擲弾を撃ち込んだのか小石や砂塵が爆風と共に頭上から降り注ぐ中、彼は判断すると至近距離で発砲したからか頬に跳ねたラクダの返り血を拭う事なく死骸へと隠れる。


 紫煙を唇の端から吐き出すと残弾が僅かになった弾倉を交換し、弾帯へ下げているダンプポーチへ使用済みのそれを放り込んだ。


 銃声が途切れたかと思うと三度(みたび)、擲弾が炸裂する爆発音を耳朶が捉える。


 小銃を構え直し、渓谷の上方へ向かって射撃を始める彼の視界の端ーー隊列が進んでいた先から多数の人影が馬やラクダ、或いは徒歩で駆けて来るのが見えた。


 それらは一様に顔を布で隠し、手には統一感のない雑多な剣や弓を手にしている。


 敵、と判断したショウは携帯無線機越しに相方へ上方の脅威を排除するよう頼むと銃口を群れへ向けた。


 距離は150mほどになるか。


 馬やラクダの足で駆け抜けられては、あっという間に接敵してしまう。


 ショウが握っている小銃は世辞にも精度が良いとは言えない。個人的に改装(カスタム)を施している訳ではなく、光学照準器を乗せてもいない。売りとなっているのは耐久性やコストパフォーマンスの安さだ。


 だとしてもーー


「ーーこの距離なら充分だ」


 銃爪を引き、指切りによって3発毎の短連射を素早く何度も繰り返し、まずは騎乗する敵を優先的に排除する。


 頭、胴体、或いは騎乗しているラクダや馬へ弾着し、それらを弾頭が貫くとまずは先頭を駆けていた5名を仕留めた。


 狭隘の道であった為、いくら精度が悪くとも命中させるのは難しくはない。なにより慣れ親しんだ小銃である。癖などは手に取るように把握していた。


 たちまち先頭が潰されたのを目撃したからか残敵の内、騎乗していた者は落馬一歩手前の勢いで地面へ足を付ける。


「ーー隊列前方から敵出現。こっちで対応する」


〈ーー了解。…思ったんだけどよ。C4とかセムテックスが欲しい。つーか準備しときゃ良かった。信管埋め込んでさ、投げ付けて爆破すれば直ぐに終わっただろうよ〉


「…あぁ、俺も自分の不用心を呪ってる所だ」


 紫煙を緩く吐き出し、相方のぼやきへ彼は溜め息混じりにだが同意する。とはいえ、もしそんな事をしてしまえば周囲の岩の壁が崩落する危険性も孕んでいるのだが。


「…その時はその時だな。まずはこの状況をどうくぐり抜けるか…」


 物陰に隠れながらジリジリと寄って来るか、と考えていたショウだが躍り出た一名の敵が喚声を上げ、剣を振り翳しながら突っ込んで来る。


 その胴体に照星を被せた彼は短連射で7.62mmの弾頭を撃ち込んだ。


 胴体を貫かれ、前屈みのように身体を折った敵が地面へ倒れると、その背後にある岩の影から数本の矢が放たれた。


 緩い弧を描いて飛翔する矢が彼の頭上を飛び越え、背後へ落ちて行く。


 やがて矢が突き刺さったのか苦痛を帯びた短い絶叫が聞こえ、次いで兵士の誰かが使われているのが毒矢である事を大声で周囲へ逓伝する。


「ーー知ってるよ」


 気付くのが遅い、とばかりにショウは溜め息と共に紫煙を吐き出すと岩の影から様子を伺おうとして顔を覗かせた敵に向かって銃弾を浴びせ掛けたのだった。





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