私で争わないで!!! -どうやら彼らは私をめぐって殺し愛してるらしいです!!-
「ねぇ、ぬぅぇ、池ちゃぁん。池ちゃんはオジサンのことすきぃ?」
「あ…あわわわぁぁ…。す、好きですよ…!」
ここはとある町のとある建物。その一室、完全防音になっているその部屋で、今日もその屋敷の主人は、事がうまく進んだことの喜びを噛みしめていた。
「ねぇ、池ちゃぁん。池ちゃん、池ちゃん、いけちゃんンンンンンん!!」
その、寝具を寝具として見ていないある種冒涜的ともいえる体勢。
さながら、餌を求めて本能的に、只喰らうだけの醜悪な豚。生に群がり、死へと誘う腐った死体。
そして、その醜くただ貪るだけの存在と化した男の目の前にいるのは、一人の幼気な美少女。ツインテールに、少しきつめではあるが、決してくどくない程度の化粧といたって普通の白のYシャツに、チェックのミニスカート。女の子座り、いわゆるペタン座りをしながら少し顔を赤らめて顔を隠そうとしているのはとても微笑ましい。だが、Yシャツのボタンは一番上が外され、ふわりと広がったスカートからは、チラッと色の白いキレイな太ももが見える。
それはまるで蒔絵の如く男を誘い、そしてその蒔絵に食いつかずにいられない男はいない。それはこの男も同様だった。
「いけちゃぁぁん!!!!!!」
我慢できないとばかりに抱き着き、唇を合わせようとする。その動きに理性など存在しない。本能。本能だけで唇を求め、副次的に抱き寄せ、押し倒す。
「あア゛、やっとだゼ!」
そしてこれもある種、本能。
こんなところで聞こえるはずのない、低すぎる声がどこからか聞こえてくる。と、その瞬間、電池が切れたおもちゃのようにいきなり動かなくなる彼。
「ちぇ、ここであんたがもうちぃっとばかし油断しときゃ、逃げれたのによぉ」
人が変わったかのように乱れた服を整え、馬乗り状態を解き、彼女へと手を貸す彼。
「ま、そんなこと言うなよ相棒。またうまいもん食わしてやるから」
そして、さっきまでとは口調も声も全く違う彼女。
「ホントだな?お前が嘘ついたら、この契約は無くなるんだから下手なこと言うんじゃねぇぞ?んじゃ、殺し合いますかぁ!!!!!」
その言葉を合図に始まる貫き手と打撃の応酬。それは、彼らにとって最大の娯楽。素手とは言え、命の取り合いを笑顔でサラっと始められる彼らの職業は、殺し屋。彼らは、政府公認の殺し屋一家、池面家の長男と池面家の長男が代々体に宿す悪魔のコンビなのである。
「〇月〇日、今朝のニュースをお伝えします」
朝起きると、昨日の奴がニュースになっていた。どうやら、アトがうまくやってくれたようだ。俺の名前は池面 冴。どこにでも居そうなモブ顔をしている一般人……のふりをしているが、実際は500年続く暗殺一家の長男で、国防の一端を担わせて頂いている。
「よオ゛、相棒ゥ!おきたカ!」
こいつが、昨日のあれ(死体)を処理したアトロスタ。500年くらい前から代々続く暗殺一家が成り立っているのは、こいつがいるおかげである。池面家の長男は代々、こいつを体に宿すことができるのだ。じじいの時には左足に、父ちゃんの時には右腕にそれぞれ宿り、その時代は豪脚のとか、剛腕のとか呼ばれていたらしい。
そんな殺意マシマシなアトが俺に宿ったのは、まさかの舌。宿る箇所はランダムとはいえ、舌という殺すことの出来ないような箇所に宿ってしまった俺。そんな俺がこの稼業を継ぐとき、池面家は終わりだといろんな人から言われたらしい。しかし、そんな評価を覆すアトの能力、乗り移りの能力によって、俺は過去史上最強のアサシンと呼ばれるまでになった。それがキス。いわゆるモブ顔とはいえ、どちらかといえば女顔の俺。そんな俺の女装とアトが舌に宿ることによる変声。この最強最高の暗殺術がキスなのである。このキスによって、アドを対象に乗り移らせ、そして殺す。これが15代目池面家当主、池面 冴の基本暗殺術なのである。
「さえー、ちょっと来てくれー」
父ちゃんが呼んでいる。
「今回のターゲットがこいつだ」
父ちゃんに呼ばれて渡されたのは1枚の写真。
「彼女は、諏吾 沙恋。この国最大の敵国、ロジア最大のマフィアの幹部の娘だ。お前にはこいつを殺して欲しい」
そこにいたのは、すごく見覚えのある美女。俺の女装の目標であり、憧れでもあるあの人がそこには写っていた。
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「あーーーーー、だりぃ」
私は、これからの仕事のことを考え、気が重くなる。っと、ターゲットの家に着いた。そろそろ切り替えなくては…
「こんにちは!!」
まずは明るく挨拶。そして、大人たちの信頼を掴んでから、ターゲットへとこっそりと接近。
「ねぇ、おねぇちゃんとハグしよ!」
今回のターゲットは、天皇の遠い親戚にあたる方の子孫である。そんな方を守らせてもらうのは光栄なことだ。だが、それと同時にめんどくささも感じていた。
「はい、ぎゅーぅ!」
小さい子を抱きしめるのは悪くないが、やはり抱きしめるのはJKに限る。そんなことを思いながら、そんな思いを微塵も思わせない態度でいる彼女の名前は宮野間 桃瑠。陰陽師一家で史上最強の護衛と名高い、宮野間家15代当主である。
「チッ!やっぱり毒が仕込んであったか!」
彼女の護衛は単純明快。彼女がハグした人が彼女から離れない限り、どんな攻撃、いかなる悪意だろうと式神が肩代わりしてくれるというものだ。
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「桃瑠!桃瑠はおるか!」
帰宅後、父に呼ばれる。そして見せられた1枚の写真。
「彼女は、諏吾 沙恋。この国最大の支援国、アベリアの官房長官の娘だ。お前にはこいつを守って欲しい」
そこにいたのは、桃瑠のどタイプの娘であった。
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ターゲットを殺すにあたって、まず下見へと向かった俺。念のため彼女っぽいメイクをしてばっちりと決めて向かう。それが、この後どんな悲劇を生むかも知らずに…
「ねぇねぇ、君―!!!!」
いきなり知らないおねぇさんに絡まれたのだ。
「ハグしていい??????」
は?????????ハグぅ????????????
突然のことに思考が止まってしまう俺。そんな俺に、彼女は問答無用でハグをしに来る。
下見を兼ねて、彼女の生活圏の近くへと向かう。人となりを知っておけば、ハグもしやすいし、その後のいろいろも…グフフフ……。なんて考えていると、前から見覚えのある服が歩いてくるではないか。写真でもかわいいことは分かっていたが、実物はスケールが違った。
可愛すぎる!!!!!!!!!!!
「ねぇねぇ、君―!!!!」
当然、私は声をかける。仕事もあるし、あまりの可愛さに声をかけずに通りすぎるという選択肢はなかったのだ。
「ハグしていい??????」
ぎょっとした顔をした後、固まってしまう彼女。少しショタっぽいのもGood!!!!!!!!!!!
そんなことを思いながら、ハグをして身代わりの式神がぺたっとくっついたことを確認。これがどんな悲劇を生むかも知らずにこの時はのんきに仕事が終わったと思い込んでいたのだ。
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私は、諏吾 沙恋。少しばっかり親が特殊な一般的女子高生よ。まあ、そんなモブみたいな生活もどうやら今日で終わりのようだ。
「「僕と(私と)キス(ハグ)してください」」
転校してまだたったの1時間。最初に同じ転校生だということで校長室に呼ばれたときに出会ってからでも、たった30分しかたっていない。そんなこの二人の美男美女に自己紹介の時にいきなりこう宣言されたのだ。私はこれからどうすればいいのぉ!!!!!!!!!!!!
だから、動揺していた私は気づかなかった。
「なんで、このいけ好かないクソ野郎に印が着いてるの!!!!!!!!!!!」
美男美女の美女のほうが、ぼそっと呟いていることに…
「アトー、どうすればいいかなー」
美男のほうが見えない誰かとしゃべっていることに。
そうこれは、美人なおねぇさんを殺す(守る)ためにどうにかキス(ハグ)をしようと苦悩する思春期の少年少女の恋愛による殺し合いなのである。





