死神と呼ばれていたけど、転生後に埋葬していたら神の子と崇められたのだが!?
周りの大事な人が次々と亡くなるため、【死神】と呼ばれていた青年【旭】。
自分の恋人を事故で失い葬儀場へ行くと、彼女の母親に階段から突き飛ばされ命を失う。
次に目が覚めると、そこは死屍累々とした戦場。
どうやら彼は異世界転生したらしい。
弔うために埋葬しようとした彼の前へ、一人の女騎士がやってきた。
刃を突きつけられ、死を覚悟した彼。
「死者を、弔うため埋葬しておりました!」
その一言が、彼の人生を変えた。
不幸な青年の【贖罪の旅】を綴るサクセスストーリー!
俺の周りには【死】がまとわりついている。
別にそれを望んでいたわけじゃない。勝手について回ってるんだ。
今だってそうだ。
目が覚めたらそこは――。
死屍累々とした、戦の後だった。
☆
思えば、ろくでもない人生を過ごしてきたもんだ。
祖父は遺影でしか顔を知らない。祖母の記憶だっておぼろげだ。
母親は俺を保育園に迎えに来る途中で事故に遭ってそれっきりだったし、親父も心労がたたって病気であっさり。
中学の時に叔父夫婦に引き取られたけど、まずペットの犬が半年後に老衰で死んだ。
一年後に叔父が急逝した時、叔母と従姉に「あんたは死神だ!」って罵られたっけ。
そこからは色んな親戚をたらいまわしにされた。
何とかかんとか高校は卒業し、就職も決まる。
ようやく落ち着ける場所ができたって思った時、彼女と出会った。
緑川 いなほ。
陽をうけてきらめく豊かな長い髪。
ころころと子供のように変わる表情。
どんぐりのような大きな瞳を持った、俺の恋人。
「旭は悪くないよ。ただ、運が悪かっただけ」
ただ一人、周りで起こる不幸を俺のせいじゃないって言ってくれた女性。
いなほの前では、素直に泣けた。
徐々に笑顔を取り戻し、共に人生を歩める。
そう思っていたんだ。
だけど、現実はいつだって厳しくて。
希望を持ったとたん、あっけなく俺から奪っていくんだ。
いなほが、死んだ。
俺の、目の前で。階段から落ちて。
強風にあおられた彼女の手を掴もうとしたけど、間に合わなかったんだ。
下を見ると、白いワンピースを赤く染めたいなほ。
何か言いたそうに口を開けた彼女は、焦点の合わない黒い瞳を空へと向けていた。
曇りのない、真っ青な空へ。
それからの俺は、あっという間の出来事に頭がついてこず。
病院での訃報を信じられずに、火葬場に立っていた。
葬式は出禁になっていた。それは仕方ない。彼女を守れなかったんだから。
彼女の両親は、当然だけど俺の言葉なんて聞く耳を持たなかった。
さんざん恨み言をぶつけて、墓前に立つのも許さないと言ったんだ。
当たり前だと、思った。
突然娘を失くした親の気持ちはいかばかりだろう。
それでも、どうしても守れなくてごめんって言いたくて。
せめて、誰かが来る前に。彼女へ詫びるつもりでそこへ行ったんだ。
彼女が火葬されているのは、二階の奥らしい。
未だに整理できていない頭で、うつむきながらゆっくり階段を上る。
視線を感じ、ふと見上げたその先には――。
「もう二度と、姿を見せるなって言ったはずよ」
いなほの母親がいた。
――バシッ、バシッ!
何度も何度も、ハンドバッグで叩かれた。
「あんたがっ! あんたのせいでっ!」
泣きながら錯乱し、罵倒する母親。
何も言わず、無抵抗でそれを受け続けた。
これは、罰だ。俺がいなほと付き合わなければ、事故なんて起きなかったんだから。
今だってきっと。ずっと生きていて、素敵な笑顔を家族に見せていたはずなんだ。
もしかしたら他の誰かと付き合っていて、幸せだったかもしれないんだ。
だからこそ、俺は。
「すみません! だからせめて、いなほさんに一言謝りたくて!」
思いの丈をぶちまけた。
どんっ。
え?
何が、起きた?
ゆっくりと、母親の顔が遠ざかっていく。驚いた顔だ。
足が、宙に浮いている。
俺、突き飛ばされた?
がつっ。
鈍い音が響く。
手すりと思われる何かが、頭に当たった。振動で脳が揺らされる感覚。
それから激しい痛み。
誰かが何か騒いでいたけど、よくわからなかった。
俺の意識は、そこで闇に包まれた。
☆
そして、今。
気がついたら戦場で死体に囲まれているって訳だ。
だからと言って、ここは日本じゃない。いわゆる異世界って奴なのはわかっている。
なぜかというと。物心ついてから現在まで、この世界でどうやって過ごしてきたのか記憶しているからだ。
辺境にあるさびれた農村。貧しく厳しい暮らしの中で、愛情をもって育ててくれた両親。五歳の俺に、優しく作業を教えてくれた兄。見守ってくれた、村のみんな。
そんな幸せな暮らしを、戦争はすべて奪っていった。
「あぁ、あぁあ……!」
絶望にとらわれながらも、おろおろと歩く。
呼びかけてみても、誰一人反応しない。
またか。また俺は大切な人達を死なせちまったのか!
死体の中には、異なる紋章をつけた騎士の姿もある。だけどこの世界に生まれて五年の俺には、どれが自国の騎士なのかはわからない。
ふと、思った。
あぁ、このまま野ざらしでいるのは可哀想だな、って。
周りを見渡すと、焼け残った森が見える。兄からどれが食べられる実なのか教えてもらったっけ。
ほんのわずかだけど、畑の作物も残っていた。うまくすれば、食いつなげる。
だから、できる限り。生きている限り。
できればここにいる全員を埋葬することに、決めた。
罪滅ぼしにもならないかもしれないけれど、せめてもの償いとして。
☆
幼い体で埋葬するのは、思っていた通りかなり労力がいる作業だ。
何せ、穴がうまく掘れない。
高いところから木の実を取るにしても、背が小さすぎてはかどらない。
木登りもできないわけではないが、あまり上手にできず何度も落ちかけた。
くわや鎌も上手に扱えずに自分を何度も切ってしまう。破傷風が怖いので、今にも枯れそうな小さな川で傷口をよく洗う。
六日間で、たった三人。この調子だと、全員を埋葬し終えるのにどのくらいかかるだろうか。
そう思っていた時。
ダカラッ、ダカラッ!
遠くから、馬の駆けてくる音が聞こえる。
目を凝らすと、全身鎧の騎士が一人。どうやらこちらを目指しているようだ。
程なくして到着すると、俺の姿を見るなり抜刀して首筋に刃を当てた。
「生き残っているのはお前だけか?」
いかつい鎧に似合わない、澄んだ女性の声。
驚きながらも、返答する。
「はい、私だけです」
「見たところ、ここにあった村の子供のようだが。ここで何をしていた」
きっと、死体をあさって売れるものを探していたと思われたのだろう。
冷たい声。今にも手に持った剣で俺を真っ二つにしかねない。
いいさ。どうせいつ失うかもわからない命だ。正直に答えるとしよう。
「死者を、埋葬しておりました」
ぴくり。
ほんのわずかに刃が震える。
「今、何と言った? もう一度はっきりと答えよ」
「死者を、弔うために埋葬しておりました」
すぅ、と刃が首筋から離れる。
斬られる!?
ぎゅっと目をつむり、死を覚悟した。
「くっ……くっふっふっふ」
不意に、女騎士の笑い声。
そぉっと目を開けると、さも可笑しそうな様子。
何が起こったのかよくわからないまま、彼女をじっと見つめる。
すると、女騎士は仮面を脱ぎ去った。
ふわ。
夕焼けの陽に輝く金の三つ編みが揺れる。
端正な顔の女性だ。
彼女は、晴れた空のような青い瞳で俺をまっすぐに見つめてきた。
「いいだろう。やってみろ」
「え?」
「ここのすべての死体を、お前の言う通り埋葬してみよ。それまでお前の命は私が預かる」
どんな気の変わりようか。
先ほどまで感じた殺気は失せていた。
「お前、名は?」
「わ、私は【ソラ】と申します」
慌てて答える。一瞬転生前の名前を言いそうになったけど。
「ソラ、生きろ! ぜひそれを達成してみよ!」
そう言うなり、彼女は踵を返しどこかへと帰っていった。
それが、俺の【贖罪の旅】の始まりであった。





