陰謀ロンド
性格が悪い、ワタシは不幸。この二つを満たすのならば、SNSを見るといい。人の醜さに癒やされる。
性格が悪い、ワタシは不幸。この二つを満たすのならば、SNSを見るといい。人の醜さに癒やされる。
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「いまどうしてる?」
青い鳥に、灰色の文字で聞かれたので、思ったことを書いてみた。
SNSのトレンドから、興味本位で覗いたタグはまさに文字の百鬼夜行。
デマに始まり、妄信、擁護、正当化。対するは、誹謗中傷にデマ返し。画面の向こうが見えないせいか、本当に妖怪なのではないかと疑った。
今現在も世間を色々と騒がせている感染症、「ケロノウイルス」は、こういった妖怪を産み出して、人類を侵攻してくるらしい。
そうやって他人の批判をしているが。それに対するグチをつぶやこうとした私も、SNS上の汚染拡大をしたことに変わりはない。
冷静になって考えると、こんな物を呟いてもグッド1拡散0、フォロワーが10人減って終わるだけだと気付き、そっと記入ページのバツを押した。保存はしない。
衝動で文字を入力していると、その間に冷めること、あるよね。
SNSは堕落の娯楽だ。心躍らず、感情移入もできないが、ふとした時に、鼻で笑える文字媒体。
さらに特典として動画や音声もついてくるとなれば、もう何もせずスクロールだけで一日を終えられる。
こんな生活よくないな、という背徳感すらスパイスだ。むしろ、SNSのお陰で自粛生活を過ごせていると言っても過言ではない。
だというのに最近は、みな一生懸命でけしからん。
火に薪をくべるお仕事をされている、トテモスバラシイ方々のお陰で、年中不快な高温に保たれている。
夏は避暑地、冬は野球選手がキャンプにくるような、快適な気候だと思っていたのに。残念ながら、最近はこの有様だ。
長いこと地球温暖化が叫びれているが、SNSまで温暖化するとは思わなかった。
これも、人口が増えたことで、ユーザーから排出される排気ガスが増えたからだろう。
SNSの環境汚染で死者まで出ていて、笑えない。
そういう人の醜いところを見たとき。それを元にした悪いネタが、思いつくか、つかないか。そこに、人としての品が現れると思う。
残念ながら私は、品のない前者であるようだ。
せっかくなので、明らかにネタと分かるデマを流し、わずかばかりだがグッドを稼ごうと思いついた。
別に何かを産む訳じゃないが、その場の思いつきに論理などない。なんとなくの「おもしろそう」に突き動かされて、少しの時間を無駄にするだけだ。
そうと決まれば早速アプリを立ち上げる。
本物は先ほど見たばかりなので、真似をするのも簡単だ。
いかにも、というデマの投稿を探し、コピーペースト。あまり伸びてなく、かつ芳ばしければなお良し。
あとは文中の固有名詞を、それっぽいものに変換する。
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新型ケロノウイルスは、存在しない。
ケロノワクチンは、政府の、陰謀。
本当の、緊急事態に、気づくときです。
飛沫感染する、ワクチンには、甘納豆で、対策しよう。
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完璧だ。納豆を甘納豆にする絶妙な調整。あとはこれにそれらしい絵文字を追加すれば、私の作品は完成する。
補足用の文章も完璧である。甘納豆には、今医師の間で話題の「イベラナイメクチン」が含まれている! という適当な返答も作り、投稿した。
満足したので、明日は久々に甘納豆でも買おうかな、などと考えながら眠りについた。
鳴り止まない通知音で目覚めた私は、きっと思いつきのネタが皆にウケたのだろう。そう思い、覚醒する。
スマホ手に取り、SNSを開いた。そして、そこで新たな学びを得た。
私には、ユーモアのセンスとやらが無いらしい。
グッド4,000に対し、拡散は万を超えている。残念なことに、付いているコメントも賛否両論。ジョークだと見抜いてくれる人はいない。
明らかに嘘だと分かる投稿のつもりだったのだが……。
賛成派曰く、「元が納豆ならあり得る」「むしろ加工している分凝縮されている」「イベラナイメクチンが含まれているなら」「あの○○さんもリツイートしてた」とのことだ。
一方反対派は、「お菓子食っただけで防げない」「そもそも納豆と甘納豆は別物」「イベラナイってなんだよ、ちゃんとイベれよ」などの至極全うな意見を述べている。
正直、納豆・甘納豆別物問題に気付いてくれたのは嬉しかった。どうせならそのままネタだと言うことにも気付いて欲しかったが。
SNS外での反響も凄まじく、すでに「【悲報】反ワクチン派、甘納豆を納豆と勘違い」「ワクチンの救世主、甘納豆現る!」「イベラナイメクチンという新物質が発見wwwwwwwwwwww」などという記事が産まれたり、甘納豆の製造会社に電話で直接聞いたYouTuberが現れてすらいるという。
ジョークの質としては下も下らしいが、結果的に人を騙し、踊らせることに成功した。
初めてだ。私一人の発言で、ここまでの人が動くのは。たった一度注目されたに過ぎないが、それでも、僅かに全能感というものを感じる。
どうしてか、ゲームで高スコアを取ったときや、昔テストで良い点数を取ったとき、そんなときよりも遥かに達成感を覚えている。
あまり嬉しくはないが、私にはデマの才能があるのだろうか。
もしくは、一部のトンチンカンな人のお陰で、これくらいなら本当にいるという認識になっているのか。
指先一つで、何万人もの人間が、信じ、庇い、叩き、晒す。人を手のひらで動かすというのは、こんなにも面白いものだったのか。
きっと、刺激に飢えていたのだろう。一度こんな愉しみを覚えてしまえば、しばらく止まりそうにないな、と自覚できる。
まだ間に合う、辞めるなら今だ。
そう良心は止めるものの、それすらも、匿名という魅力的な事実の前には勝てそうにない。
愉快だった。冗談を真に受け、必死に叩く人達が。
愉快だった。ジョークと見抜けず、高みで嗤う人々が。
愉快だった。事実を捻じ曲げ、神輿を担ぐ人共が。
ウソもジョークも見抜けずに、ただ都合よく、信じたいものがぶら下がったので褒めちぎる。
もしくは、そんな刷り込みの段階は既に終わっており、完全に思い込んでいるのかもしれない。まあ、他人なのでどちらでもいいが。
「すごい!」「流石!」「ありがとう!」「天才!」そんな、重みのない言葉の嵐は、例えどれだけ褒められていたとしても、もはや不快ですらあった。
しかし、そんな言葉を浴びせられ。
これは認めたくないのだが。
少し、ほんの少しだけ。
だが事実として。
気持ちいいと感じてしまった。





