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天眼の聖女 ~いつか導くSランク~  作者: 編理大河
パパ志願者と笑う少女
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決意


 今日はモーラを加えた皆でスラムの迷宮に潜った。あの襲撃事件以降、いくら強いモーラとはいえさすがに一人では危ないということで、迷宮に行く際は俺たちと共に潜ることにしたのだ。それを提案すると、モーラも是非にと賛同してくれた。


 結果、半端なく効率があがり、得た魔石と素材の量はかなりのものになった。堂々と顔出しして魔法を行使しているモーラがいるため、俺たちも周りを気にせずに稼ぐことができたのだ。朝一番ででかけ、モーラと俺とで魔物を蹴散らし一気に最奥までたどり着いてしまった。モーラの強さはやはり俺よりも数段上らしく、難儀することも全くなかった。結果、迷宮主を召喚するダンジョンコアのある部屋まで行き、挑むか悩んだが、モーラのいけるという判断でこれも一気に撃破してしまった。


 以前モーラが一人で挑んだ際は、予想外に強く死ぬかと思ったほどらしい。迷宮主はゴブリンウォーリアという武装したホブゴブリンであり、その巨体どおりの耐久力をもっていた。でも、チャッピーをタンクにしつつ、遠距離から皆で一斉に魔法を放つことで呆気なく完封できた。魔法って素晴らしい。


 迷宮主の魔石はかなりの大きさだった。帰り道、皆でヒーコラと重い荷物を背負いながら、闇ギルドで換金する。既に顔見知りとなっている闇ギルドのマスターらしいおじいさんも、「よくまあ、これだけ運んできたもんじゃ」と呆れながら換金してくれたが、やはり量が量だけに得た金額も相当なものだった。


 事前に取り決めた通り、モーラと俺たちで報酬を半分に分ける。そして、家へ帰る途中に俺たちは別れることにした。なんでも、モーラには別の用事があるそうだ。迷宮帰りで疲れているだろうに、モーラは全然そんな様子も見せていない。大したものだと思う。


「今日はありがとう。おかげで大分捗ったよ」

「こちらこそ。まさか、迷宮を踏破できるとは思わなかった」


 まさにサクサクという感じだったな。何度もあそこに潜り、全てを把握しているモーラがいなければ、最奥になど行こうとも思わなかっただろう。


 手を振りモーラと別れると、俺たちは帰路につく。


「いやあ、大漁だったな。モーラ様様だな」

「ええ、本当にモーラさんは強かった。ただ、僕としては剣を振う機会がなかったのが残念ですが」

「確かに。えげつないくらい容赦なく殺るもんなぁ、あの人」

「でも、お姉ちゃんも凄かったよ。モーラさんも驚いてたし」


 迷宮での出来事を皆で振り返りながら歩く。サクサク進めたおかげで、往復に半日かかった迷宮を出て換金しても、日が落ちるまでもう少し時間がありそうだ。一般街に出て、買い物なんかしてもいいかもしれない。幸いにして資金には余裕がある。屋台で夕食も悪くないかな。


 俺がそれを提案すると、皆賛同する。あまり日が暮れてもまずいため、夕暮れに染まるスラム内を駆け足で急ぐ。途中、スラムを走るドブ川に差し迫った時、そこに一人の人影がザブザブと川の中を漁っているのを見つけた。何をやってるんだろう。


「あれ、何してるのかなあ。お魚でもとっているのかなあ」

「でも今は冬だよ。蛙だって取れないんじゃないかな」


 エリスの不思議そうな声にアレクがそう返す。このスラムのドブ川も一応魚や蛙がいる。それを取って食べているものもいるが、縄張り争いが激しく、うかつに手を出した部外者がリンチされることもよく見かけたので、俺は手を出してはいない。だが、冬になるとあまり魚も取れず、ドブ川を攫う子供たちの姿もみることはない。そんなことして、冬に風邪でも引いたらここでは死活問題だからだろう。


「あれ、ノアってガキじゃないか」

「えっ⁉」


 人一倍目のいいスタンが、額に手をかざして目を細める。言われてみると確かに、それらしいシルエットをしている。だとしたら、こんな冬の川でいったい何をしているのか。急いで、その人影を確かめるべく駆け寄る。


「ノアッ⁉」

「あ、お姉ちゃん」


 確かにそれはノアだった。手足を川に沈めたまま、きょとんとした顔で俺の方を眺めている。心なしかその顔が赤いようにみえる。


「何をしてるんだ⁉ こんな寒いなかで、風邪でもひいたらどうするんだ。あがりなさい」

「うーん、でもまだお魚まだ取れていないから」

「魚? 魚を探していたの」

「うん、ガイが食べたくなったから取ってこいって」


 あの男が命じたのか。本当に魚が食べたかったのかは別として、完全にノアをいたぶるためだけに命じたのだろう。憤りを覚えた俺は、ノアを連れ出すため川の中へと足をいれ、その針を刺すような冷たさにゾッとする。こんなところにノアはどれくらいいたのだろうか。


「おいでっ、こんなところにいたら肺炎になるぞ」

「でもお魚が」

「魚なんて後で取ってあげるから」


 強引にノアの手を取る。その手もまた氷のようになってしまっている。衣服も濡れており、全身が冷え切っている。このままだと、本当にまずい。抱えるように引き摺りながら俺はノアを川から連れ出す。


「姉さんッ⁉」


 アレクたちもすぐに俺たちに駆け寄ってくる。俺はノアと話そうと、一度体を離し向き合おうとする。しかし、ノアはふらふらとその痩せた体を揺らすと、ペタンと地面に座り込んでしまう。


「あれっ?」

「ノアッ⁉」


 俺はとっさにノアの体に触れる。相変わらずノアの体は氷のように冷たいが、その顔は先ほどよりも大分紅潮している。


「そりゃ、冬に川になんか入ったらそうなるだろ」


 苦々し気にスタンが吐き捨てる。エリスがノアに駆け寄り、癒しの奇跡を行使する。病気に対してはあまり効果はないのだが、気休めにでもなればと思い、使ってくれたのだろう。アレクが自身の上着を脱ぎながらノアへとかけてくれる。その一体感は心強く、俺は決意を固める。


「皆、ノアをウチに運ぶぞ」


 俺の言葉に、アレク、エリス、スタンは一様に頷いた。



 

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