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天眼の聖女 ~いつか導くSランク~  作者: 編理大河
パパ志願者と笑う少女
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メンターは男の娘


「なるほど、リコはあの女の子のことが気になってるんだね」


 俺の眼のまえで、モーラが腕を組みながらウンウンと頷いている。その姿は、美少女以外の何物でもなく、俺はこの少年の一挙手一投足に見惚れてしまう。今日も、俺はモーラの家に赴き、クリスの魔法訓練の指導を行なっていた。


「って、リコ。自分から相談しといて、ちゃんと聞いてる?」

「あ、ごめん」


 そんな態度をモーラに軽く窘められる。モーラは怒ってはいないようだが、わざとらしく呆れたような表情で肩をすくめてみせる。あの迷宮での同盟以降、俺はクリスに魔法を教える傍ら、モーラともよく話し合い、この世界や国の情報を教えてもらっていた。


 モーラは親しくなると、結構勝気な側面もあり、俺にとってはそれは意外な出来事だった。だが、付き合いの一番長いらしいクリスは、モーラは元来結構キツイ性格で、出会った頃など視線だけで殺されるかもしれないと思ったなどと、俺に語ってみせた。今、俺の知るモーラはクリスの出会った頃のモーラとは別人に近いらしい。


 今日はそんなモーラに、あのガイという男のグループに属するノアのことを相談していたのだ。手を差し伸べても払いのけられ、一度は諦めたが、それでも時折見掛けるあの子はやっぱりみすぼらしくて、そのたびに心のどこかがキュッと締め付けられるように痛む。俺は自身が教えた瞑想法を試し、集中しているクリスの横でモーラにそのことも相談してみたのだ。


「あのガイって男は確かに目に余るよ。基本、アレは自分以外の誰も信用していないし、優しさを見せたらそれを弱さと感じ取って付け込むようなタイプだね。あからさまにこちらのことを馬鹿にしながら、わざとらしくへり下ってみせる。あの男がきてから、ここの治安もまた悪くなってきた」

「そっか。 じゃあ、やっぱりノアがあそこにいるのはよくないなあ。でも……」


 どう考えても、ノアをあそこから引きはがせる気がしない。全てを鑑みると、そうするのが正しいとは思うのだが、ノアがあそこにいるのはエマを家族として大事に思っているからだろう。それを引き離すというのは果たして本当に正しいのか? 自分にそんな資格が果たしてあるのだろうか?


「……もしかして、リコは今自分がそんなことする資格があるのか、とか悩んでいる?」

「えっ、なんでわかったの⁉」


 思考を読んだ⁉ もしかして、モーラは魔法でエスパーみたいなことができるのか⁉


「……別に魔法とかで思考が読めるとかないからね。まあ、あるにはあるらしいけど本当に魔導の真髄を極めた魔法使いにしかできないと思うよ」


 やっぱり、読んでる⁉ 驚愕に目を見開いている俺を呆れたように見つめるモーラ。ふと、表情を緩めると、優し気な表情で俺に微笑みかける。


「人と関わるのは難しいよね。本当に自分でいいのかって不安になる。僕もクリスやセティと出会ったときそうだった。でも、今は思うんだ。この広い世界で誰もが他人の中で、それでも出会えたからこそ特別なんじゃないかって。きっと、そうして皆つながっていくんだと、今の僕は思ってる」

「特別……」

「そう、リコがその子と出会った時点で、もう決して他人なんかじゃない。関わる資格は十分だと思うよ。相手がその子を幸せにできないなら、もういっそ攫っちゃってもいいんじゃないかな?」

「ええっ⁉」


 モーラは事も無げに大胆にそう言い放つ。深窓の令嬢みたいな外見して、結構オラオラ系な性格をしているなあ。でも、その言葉は一つ一つ俺の心にピンポイントで刺さる。モーラは果たして、本当に15歳なのだろうか。この包容力はもはやメンターと言って差し支えないレベルだ。


 でも、誘拐かあ。それって果たしてどうなのだろうか。それであの子は心を許してくれるだろうか。モーラの言葉に悩んでいると、突如瞑想をしていたクリスが声を発する。


「二人共……。相談しあうのは構わないが、今は俺の魔法訓練中なのだが……。すまないが、集中できないから他の部屋でやってくれないか」

「アハハ。 ごめん、すっかり忘れてた」


 渋い顔をするクリスに、モーラが面白げに笑いながら謝る。確かに、瞑想中にこんな話をされたら集中することも難しいだろう。だが、モーラはそんなクリスをからかうように追撃をかける。


「でも、こんなことで集中を乱されていたら、実戦では魔法なんか使えないよ。クリスはまだまだ研鑽が足りないなあ」

「ぐぅ」


 煽るようなモーラの言葉に、クリスは悔し気に呻く。だが、そこには確かな信頼関係があるように見える。それはまさに気の知れた兄弟といった感じだ。モーラの副官を自任しているクリスにとっては、モーラの言葉は何より響くのだろう。その絆の確かさは見ていて羨望を覚えるほどだ。


「じゃあ、今から僕とリコでビシバシ採点してあげるよ。早速、マナを練ってみようか」

「なっ⁉ 今すぐか」

「そうだよ。いざというときすぐに使えなければ話にならないからね。じゃあ、いくよ。三、二……」

「ちょ、待って。ええい、くそッ!」


 クリスは慌てて、再び瞑想に入る。だが、当然そんな状況では精神を統一することなどできず、クリスはモーラに駄目出しされ続けた。


 しばらく、俺とモーラはそうしてクリスに魔法訓練を行なった。





 



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