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天眼の聖女 ~いつか導くSランク~  作者: 編理大河
パパ志願者と笑う少女
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魔法バレ


 運ばれてきたのはアイスクリームとプリンであった。アイスクリームにはなんらかの果物の果実が加えられているらしく、桃色に染まっていた。プリンもまた、果物と生クリームに豪華でデコレーションされ、アイスと一緒のガラスの容器に盛り付けられていた。いわゆるプリン・ア・ラ・モードである。


「うわあっ、凄いっ」

「ウヒョー、コイツを待ってたんだよ」


 運ばれてきたデザートにエリスとシャーリーが歓声をあげる。そして先鞭をつけんとばかりに、アイスクリームへと二人はスプーンを向ける。その桃色の氷菓を口にし、二人は法悦の表情を浮かべる。


「ん~~~~」

「美味いッ! 美味いッ‼」


 シャーリーの賛辞に、ヨハンは微笑みながら小さく頭を下げる。続いて、エリスがプリンを口に運び、また驚愕に目を見開いた。


「これ、すっごいプルプルしてる。口の中で蕩けちゃうよ」


 幸せそうに頬を抑え、顔を紅潮させている。女の子は特に甘いものが好きだからなあ。豪快なシャーリーも今だけはお淑やかな少女のように、ゆっくりとその甘味を堪能していた。


 それじゃあ、俺も食べてみるとするか。まずはアイスを口に運ぶ。


「ん」


 ヒンヤリとした感触と共に、濃厚な甘みが口内で溶けるにしたがって上品に広がっていくようだ。果実の酸味がいいアクセントになってるな。生クリームを使用することで、俺が夏に作ったアイスクリン擬きとは一線を画す味になっている。


 お次はプリンだ。スプーンで生クリームとカラメルソースと一緒にすくって食べる。うん、美味しい。小さい頃デパートのレストランで食べた豪華なプリンを思わせる。プリンというのは、コンビニの百円プリンばかり食べていたが、手間暇をかけたプリンはやはりまるで別ものだな。


 見るとアレクやスタンも目を細めて、デザートを堪能している。小さい子供は男女問わず甘いものが好きだからな。スラムでは当然甘味などは口に出来ないから、こういった機会は貴重だ。そういえばこの国の一般的な庶民は、甘味はどれくらい食べられているのだろうか。


「この生クリームも、上の方々にとても好評だったわ。ミルクを遠心分離できる調理器具も私の懇意にしている職人に作ってもらえたし、商品化する予定よ」

 

 フィーネさんが優雅にプリンをスプーンですくいながら、俺に微笑む。


 そうか、あれが完成したか。これで魔法が使えない人でも生クリームを手にすることができる。まあ、ぶっちゃけアレは半端ない魔力コストだし、非効率の極みであったけど。


「しかし、リコが魔法を使えるなんて意外だったな。まあ、その外見なら貴族の血が入っていてもおかしくないけど」


 シャーリーがデザートを食べ終え、スプーンを口に加えたまま器用にそう話す。


 そう、生クリームの遠心分離について話したとき、二人には俺の魔法のことがばれてしまっていた。最初、生クリームを持参し、受けがよかったため製法を教える段階で、魔法以外でのやり方がないことに気付いたのだ。


 既に生クリームは見せてしまっていたため、穏やかに微笑みながらも目が笑っていないフィーネさんや、犬歯を見せつけながら獲物を前にした猟犬のような笑みを見せつけてきたシャーリーのプレッシャーを前に俺はあっさりゲロった。


 とはいえ、魔法が誰にも使えるという考えまでは話さなかった。この二人を信用していないというわけではないが、二人は俺たちとは住む世界が違いすぎる。二人がよかれとしてくれることも、俺たちにとっての最善とは異なることだって有り得る。


「でも、魔法が使えるからって、スラムにある迷宮に入っては駄目よ。あなたはまだ小さいんだから。むやみに見せびらかさず、あくまで護身の手段にしなさい」


 フィーネさんが本当に心配そうに俺を諌める。フィーネさんには迷宮には行っていないことにしている。嘘をつくのは心苦しいが、変に心配させてしまうのもビジネスパートナーとしては辛い。


「そうだぜ。あんなクズ迷宮ごときで命を落とすなんて、もったいないぜ」


 クズ迷宮と、シャーリーは事も無げに言い放つ。A級冒険者としては当然の感覚なのだろう。だが、貧苦に堪えかねた子供たちにとっては、蜘蛛の糸のような希望でもある。


 それを一言で切り落としてしまうような態度。フィーネさんも同感なのか小さく頷いてみせる。そこに、俺はこの二人とどうしようもない隔たりを感じてしまう。

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