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天眼の聖女 ~いつか導くSランク~  作者: 編理大河
パパ志願者と笑う少女
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カミングアウト


「でも、やっぱりリコも貴族の血を引いてるんだね」

「あー。うーん、ま、まあね」


 モーラがやっぱりといった様子で、俺に微笑みかける。当然、俺の魔法は先ほどモーラに見られている。言い訳などしても意味はないだろう。だが、俺の父は裕福ではあったが普通の商人ではあり、貴族ではない。もしかしたら、何代か前に貴族の血が混じっているなどということもあるかもしれないが、それが魔法を使える条件ではないというのは、俺がアレク、エリス、スタンに魔法を教えられたということからほぼ間違いないといっていいだろう。

 だが、それをモーラに告げていいかといえば疑問が残る。モーラがその情報を悪用するとは思わないが、一度その既成概念を覆してしまったら、何かよからぬ相手に目をつけられてしまうかもしれない。例えば、それが国家だったり、秘密結社だったり。杞憂であってほしいものだが、前世の平和な国日本でもジャーナリストの不審死やエクストリーム自殺など不可解な事件は多くあった。用心しておいて損はないはずだ。


「僕も父親が貴族の出なんだ。小さい頃は魔法のための家庭教師だってつけてもらった。だから、少しばかり魔法が得意でね。こんな感じに有効活用してるわけさ」


 少しばかりというレベルの練度ではなかったと思うが。でも、貴族の子供のモーラがスラムにいる理由というのは少しばかり気になる。まあ、細かいところまで追及するつもりはない。きっとこの子にも色々あるのだろう。

 この子がセティやクリス、ギギやアンナ、それにまだ小さな子供たちのためにこうして命を懸けて、迷宮に潜っているというだけで信用はできる。それだけでなく、近所の人たちのために色々と骨を折って助けになっているのも知っている。本当に大したものだと思う。俺はどうしても前世の知識や分別を引きずって、無難な選択しかできていないしなあ。今のモーラみたいにDQNに付け狙われたくないという気持ちも強い。


「でも、リコは一人でここに来てるの? 魔法が使えるからって、女の子一人でそれはとても危ないと思うけどな?」


 モーラは顔を近づけて、俺の瞳をジッと覗き込む。美少女と言っていいモーラの顔を眼前にして、俺の呼吸は少しばかり速まる。

 実際、初めての迷宮であわやという場面に出くわしてしまい、アレクたちが戦力になるまで迷宮は控えていたわけだが、モーラに今アレクたちがいるということを話すべきだろうか。


「うーん」


 そう悩んでいる俺を、モーラは怪訝な様子でみつめてくる。なんとかベストアンサーを引き出そうと俺は頭を捻るが、そんなときそんな俺をみかねたのか、アレクが声を大にしてこの場に割って入ってきた。


「いえ、姉さんは僕たちも連れてきてくれました。しかと安全には気をつけております。けっして軽挙妄動でここに来たりなどはしていません」


 俺を擁護するように、そう声を発し岩場からその身を現すアレク。その後ろからはエリスやスタンも続いて出てくる。


「君たちも……。でも、君たちぐらいに幼い子がここに来るなんて、ちょっと賛同し難いかなあ。いくらリコが魔法を使えるからって、リコ自体まだ小さいしね。今の僕みたいに危ない目に遭う可能性だってある。僕が言うのもなんだけど、もっと安全な道を選んだ方がいい。アゼルさんたちみたいにね」


 モーラはアレクたちが魔法を使えるとはどうやら思っていないらしい。まあ、俺もモーラ以外に魔法を使える人は見たことないし、この場所でそうそう魔法を使える人物などはいないのだろう。使えたとしても、とっととスラムから出ていくに違いない。

 アレクたちも同じように推測したのだろう。どうすると言わんばかりに皆、俺を見つめてくる。モーラは俺たちの住む地域のリーダー的存在で、信望も厚い。モーラのところの子とウチの子たちもとても仲がいい。だからだろう、アレクやエリスなどは伝えるべきと言わんばかりの瞳をしている。スタンはどちらでもいいとばかりに肩を一つ小さくすくめてみせてきた。


「どうしたの?」


 悩む俺を心配そうにするモーラ。聡明で優しい子だと思う。誰にでも魔法が使えるだろうということを伝えても、決して軽々しくそれを公表することなどはおそらくないに違いない。

 それにもし俺に何かあったときに、モーラならこの子たちをきっと助けてくれるだろう。ここで秘匿するという不義理を犯すよりは、魔法の秘密について教えれば後々の助けになるはずだ。まさしく情けは人のためならず。


「ふぅ」


 目まぐるしく思案し白熱した頭をクールダウンさせるため、一つ大きく息を吐く。そして、俺は俺の家族にもその賛否を問うことにした。


「ねえ、皆。魔法のことについて、モーラにも教えていいかな?」


 その問いにアレクとエリスは笑顔となり、勢いよく頷いた。


「はい、勿論です。モーラさんなら全く問題はないと思います」

「仲良しなのに隠し事は辛いもんね」


 やっぱり、理由があるとはいえ魔法が誰にでも使えるということを話さないということを心苦しく感じていたのだろう。二人共どこかホッとした様子が見受けられる。


「スタンは?」

「ん、俺は考え抜いたうえでの結論ならどっちでもいいぜ。一番最初に気付いたのは姉貴だしな」


 スタンは飄々とそう答える。でも、どちらかといえばアレクとエリスと気持ちは同じなのだろう。いつものニヒルな笑い方とは違い、穏やかに微笑んでいる。


「よし、わかった」


 三人の意見を聞けて、俺も自然と覚悟が決まる。


「リコ、それに皆もどうしたの? 魔法の話って?」


 モーラは俺たちの話を聞きながら、怪訝そうに首を傾げる。何を話そうとしているのか皆目見当もつかないのだろう。これから俺が話すことを聞いたらどう思うか。馬鹿にすることはないだろうが、信じないという可能性もある。

 地球が丸いという事実が受け入れられない時代があった。ガリレオ・ガリレイはそれを覆そうとして異端審問を受けた。この世界の権力構造については、勉強自体はしているのだが、まだ詳しくはわかってない。魔術院や魔術学校というものはあるそうだが、そこに入っているのは例外なく貴族の血を引いている者らしい。もし、魔法が庶民に使えないという常識とやらがなんらかの組織に意図的に流布されているとしたのなら、それを覆そうとするものを疎ましく思うだろう。最悪、暗殺なども考えられる。

 でも、それでも過酷なこの場所で魔法はきっと俺たちの牙になる。モーラなら、その牙を上手く扱うことだってできるだろう。真っ直ぐにその蒼い瞳を見つめながら、俺は意思の力を総動員し口を開く。


「モーラ、驚かないで聞いてほしいんだけど」

「え? 何?」


 あどけない瞳で、モーラは優しく微笑む。


「魔法は貴族の血とかそういうものは一切関係ないんだ。なくてもきっと誰でも使用できる」

「へ?」


 モーラは理解不能とばかりにあんぐりと口を開ける。普段整ってる美形が、そういう表情をするとフツメンがやるよりもアホッぽさが際立つな、と俺はなかなかないSSRな美少女の表情を堪能したのだった。





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