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天眼の聖女 ~いつか導くSランク~  作者: 編理大河
パパ志願者と笑う少女
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救援


 子供たちの話によると、その人物は子供たちを魔物から助けると迷宮の奥まで進んでいったらしい。最初、一緒に引き返すことを提案されたが、まだここで稼ぐことを諦めきれなかった子供たちは断ってしまったそうだ。そして、少し時間をおいてゾロゾロと重武装をした集団がその後を追っていったという。絡まれぬように、物陰からこっそり子供たちはそれを見ていたとのことだ。


「まあ、モーラと決まったわけではないけど」


 だが、本当にモーラだったらここで見捨ててはずっと悔いが残ることとなるだろう。良き隣人であり、友人といってもいい子だ。モーラが死んだら、その家族であるセティたちもとても悲しむことになってしまう。助けてあげたいと心から思う。


「ですが、子供を助ける心優しい人物であることは間違いないでしょう。義を見てせざるは勇なきなりと姉さんもよく言っているではないですか」

「ま、まあね」


 故事成語が好きな俺はよく、皆に教育の一環として話したりもする。アレクなどは特にそういった話が好きで、引用したりなどもしてくる。


「でも、戦闘になったらやるのは姉貴だろ。もう、俺たちの魔力はスッカラカンだぜ」

「私も後もう一回ぐらいしかたぶん加護は使えないかなあ」

「ああ、だから次の戦闘は俺一人でやる。皆は絶対出てくるなよ」


 今回これほど深入りする予定はなかったため、アレクたちには魔力など当然温存させてはいない。もし、戦闘になるなら戦うのは俺一人だ。まがりなりにも迷宮に潜るということは荒事に対する備えや能力もあるに違いない。場合によっては、勝てないことだってあり得る。状況次第で逃亡も考えておいた方がいいだろう。作戦名はいのちを大事に。まず護るべきは自分と家族。決して無理はしない。


「お、魔物が登場だな。足音が……二体か。ゴブリンじゃなさそうだが」

「ふう」


 スタンが遠方の魔物の存在を察知する。耳を澄ますと確かにこちらに向かって足音が聞こえてきた。ヒタヒタとゆっくりと近づいてくる足音は次第に速くなり、曲がり角から犬に似た顔の魔物が二体、全力疾走しながら襲ってきた。あれはコボルトだな、よかった大して強くない。


「よっと」


 あらかじめ練り上げていた風の刃を二つコボルトに放つ。一瞬にしてそれはコボルトの体を通り抜け、衝撃と共に胴体が分離した。吹き飛び、倒れ伏したコボルトたちはビクンビクンと体を痙攣させるが、暴れ悶えることはなく絶命している。上手く心臓部位を斬り裂けたみたいだ。


「さすがです」

「凄いよお姉ちゃん」

「素直に褒めるのもあれだけど、実際大したもんだな」


 それを見た三人は俺を称賛してくれる。まあ、今現在の力量であれば俺は他とは一線を画した実力者といえるだろう。実際、魔力には余裕がまだまだある。何十発だって放てるだろう。

 でも、敵の規模や実力がわからないし魔力は極力残しておきたい。あまり魔物と遭遇せずにたどり着ければいいんだけど。


「じゃあ行こうか。これは勿体ないけど解体する時間も惜しいし」


 さすがに解体している時間はない。先を促し、俺たちは進む。しばらく駆け足で進んでいくと、ふいにドンと迷宮が揺れたような気がした。


「うわっ、地震かな?」


 エリスが不安そうに周囲を見回す。だが、揺れはそれだけに収まらず、遅れて轟音が数度立て続けに響いた。


「戦闘が始まってるみたいだ。急ごう」


 この音は魔法でも使っているのだろうか。なんにせよ手遅れになる前に急がなくては。俺たちは音のした方角へと全力で駆け出した。




 道を進むと広い空間となっているエリアへと出る。そこでは細身の人物を囲むようにして大の男が五人膝をついていた。一度すぐ側の岩場に隠れて、そっとそこを窺う。遠目からだが、その際立った容姿と立ち居振る舞いは間違いなくモーラだろう。


「性懲りもなく、リベンジですか。せっかく見逃してあげたのに、どうしようもない人たちだ。言いましたよね、二度目はありませんよ」


 普段優しく柔らかいボーイソプラノの響きの声は、驚くほど底冷えした厳しさを含んでいる。温厚なモーラしかしらない俺は、ただひたすらに驚くだけだった。後ろの三人もその緊迫した様子に、緊張しているのが背中越しにもわかった。


「うるせえっ、クソガキがッ‼ 舐めた真似した報いを受けさせてやるよ」

「おうよ、俺たち暴虐の刃に逆らって、生きてきた奴はいねえんだ」

「あいにくだが、俺らにも面子がある。どれだけ泣き叫ぼうが手心は一切加えねえ」

「その綺麗な顔をずたずたに切り裂いてやる」

「殺してやるぞ、クソガキがッ」


 体を起こしがら、男たちはそう凄んで見せる。モブ台詞をこれでもかと吐いてはいたが、男たちの体格は大きく、かつその全身をしっかりと防具に包んでいた。そして手には立派な鉄製の武器をそれぞれ持っている。俺はそいつら全員の能力を確認し、一番高い男へと注視した。




【ドミニク】

種族 :人間

性別 :男性

年齢 :25歳

HP :175

MP : 12

力  :170

防御 :145

魔力 : 34

速さ : 98

器用さ: 94

知力 : 75

魅力 : 73


武器適性

剣 :C

槍 :C

斧 :C

弓 :D

格闘:C

杖 :D


魔力適性

火 :C

水 :D

土 :D

風 :D




 うん、数値的には以前戦ったドリスぐらいの力だ。他の四人も似たり寄ったりの性能だし、ドリスが五人と考えると少しばかり尻込みしてしまうな。モーラを助けるという名目が無ければ、絶対に逃走を第一に考える相手だ。こんな相手を五人も目の前にして、モーラは怯む様子もみせない。慣れているのだろうか。俺は戦闘が始まらないうちにモーラの能力も再確認する。




【モーラ】

種族 :人間

性別 :男性

年齢 :15歳

HP :123

MP : 88

力  :102

防御 : 82

魔力 :240

速さ : 72

器用さ:145

知力 :223

魅力 :270


武器適性

剣 :F

槍 :F

斧 :F

格闘:F

杖 :A


魔力適性

火 :D

水 :B

土 :A

風 :B




 小柄なモーラは体力面がやはり低い。それにここに来るまでに大分体力とMPを消耗しているようだ。やはり、速やかに加勢に加わったほうがいいだろう。いざとなったらアレクたち三人はすぐさま逃げ出すように促さなければ、と考えながら懐の仮面に手を差し伸べたそのとき、男の一人が弾けるようにモーラ目掛けて剣を片手に特攻を始めた。


「死ねや、オラアアアアアアア」


 血走って真っすぐ向かってくるその男へ、モーラは焦ることなく冷静に向かい合う。そして、モーラが手をかざすと地面から土が勢いよく巻き上がりあっというまに複数の岩の槍を形成した。次の瞬間、ミサイルのように発射されたその岩の槍が男へと放たれるが、男は懐から取り出した赤い石をその土槍目掛けて投げつける。


「ッ⁉」


 赤い石は岩の槍にぶつかると、紅蓮の炎をまき散らして爆発した。その爆発はあっというまに岩の槍を焼失させてしまう。


「同じ手を喰らうかっ、バーカッ‼ いまだやれッ‼」


 男は嘲笑と共に、仲間へと指示を出す。先陣を切った男とほぼ同時に動いていたのだろう。爆発と煙に紛れて、二人の男がモーラへと迂回しながら肉薄していた。


「死にさらせっ」


 メイスと棍棒の攻撃が左右から同時に加えられそうになるが、モーラは避ける素振りは見せずに両手をだらりと左右へとかざす。瞬時にモーラの足元の土が隆起し壁となり、二つの打撃を同時に防いだその衝撃で土壁は崩れ落ちるが、モーラが両の手を握ると崩れ落ちたその土が、再び槍を形成しメイスと棍棒の男へと放たれる。


「ぐおっ⁉」

「チィ⁉」


 攻撃を終えたばかりの男たちはなんとか避けようとするも肩を打ち抜かれ、悶えのけ反った。


「舐めるなあっ」


 追撃を防ごうというのか、弓を持った男がモーラに向かって矢を放つ。しかし、モーラ自身も飛び道具を警戒していたのか土壁を生成し、あっさりとそれを防いだ。


「すげえ」


 スタンが一連の攻防を見て、感嘆の声をあげていた。モーラが魔法を使えるとは思ってはいたが、まさかここまでのレベルとは思わなかった。もしかしたら、俺より強いのではないのだろうか。

 放っておいてもモーラが勝ちそうな気もするなあ。いきなりの相手の特攻で完全に出遅れてしまった。でも、万が一があったら困るし一応加勢はしておいた方がいいだろう。そう思い、仮面をつけたところでいつの間にかモーラの背後に回り込んでいた男の不審な動きに俺は気付いた。


「シャアッ! 殺すぞっ‼」


 ことさらに両手に持った短剣を振りかざしながら、狂人のように威嚇を繰り返す男。モーラも一応は注意しているが、騒ぐだけでいまだ一撃も加えてこないソイツを優先順位としては低いと判断したのだろう。チラリと視線を向けつつ他の四人へと対峙していた。

 俺もそのあまりの道化っぷりに思わず失笑しそうになってしまったが、その男の着ている不自然に長いマントやそこからチラリと覗いたとある形状の武器を見て、俺は敵の狙いを察した。モーラの視線が完全に逸れた瞬間、男は眼をギラつかせると同時にマントに隠したクロスボウをこっそりと取り出し、モーラの背中へと向けていく。それを見た俺は気付くと岩場から飛び出していた。



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