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天眼の聖女 ~いつか導くSランク~  作者: 編理大河
パパ志願者と笑う少女
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迷宮での戦闘訓練


 今日は四人で暗黒街近くにある迷宮、通称クズ迷宮に出稼ぎに来ていた。この迷宮は5層ほどからなり、ただ往復するだけなら一日かければいけるレベルの簡単なものだという。なんでもかつて全ての国が一つであった統一朝時代に、新人冒険者を育成するために人工的に作られたものの一つだと暗黒街の闇ギルドのおじいさんが丁寧に説明してくれたことを思い出す。

 こういった人工的な小迷宮は世界各地に数多くあり、やはり今でも新人育成のために利用されているという。まあ、今ではここは正式なギルドからは捨て置かれ、スラムの住人たちの貴重な生活の手段となっているけど。

 ゲートでの出待ちなどが少ない三階層で、俺たちは魔物を探し狩っていく。


「よしっ、いくぜっ!」


 スタンが魔力を研ぎ澄まし、手にしたナイフを振りかざして、遠くのゴブリンへと風の刃を放つ。


「ギィ」


 距離もあり油断していたのだろう。容易くその刃を受けたゴブリンの首はスパッと切断され、地面へとポトリと落ちる。もう、このレベルまで使いこなすとは、さすがスタン。だが、魔法の使用で疲弊したのか、肩で大きく息をしている。連発できるのが理想だが、まあそこまではまだ望めないか。


「ゴブッ⁉」


 残りの一体のゴブリンは、仲間が死に絶えたのを見て驚愕のあまり硬直している。やるなら今かな。


「エリス」

「えっ⁉ え、えへへ」


 俺の言わんとするところを察して、愛想笑いを浮かべるエリス。エリスは優しい子だし、女の子だからなあ。あまり殺生はしたくないのだろう。まあ、癒しの加護も使えるし、魔法も護身のためならきっと使えるだろうし、そんなに急がなくてもいいだろう。


「じゃあ、アレク」

「はい。来いっ、チャッピー‼」


 アレクが勇ましくそう叫ぶと、俺たちの眼前の地面が隆起し、ズズズと同じぐらいの背丈のゴーレムが腕を組み仁王立ちの状態で現れる。無駄に恰好いいな。今日はチャッピーの初の実戦投入だ。気合が入っているのだろう。


「いけっ、チャッピー」


 アレクの指示に腕をぐるんと回し答えると、チャッピーはゴブリンへと向かっていく。

 

 ドシドシドシドシ。


「ゴ、ゴブッ」


 謎の土くれ人形が向かってきているのを見て、ゴブリンは慌てふためく。そんなゴブリンにその強固な岩の拳を振り上げ、そして――


 スカッ


「あ」


 モーションが大きかったためか、その一撃はゴブリンに容易く避けられてしまう。そして、ゴブリンはカウンターとばかりに手にした棍棒をチャッピーへと叩きつける。


「ギィ」


 しかしチャッピーの防御力が勝ったのか、手首を押さえて悶えるゴブリン。


「いまだっ、チャッピー」


 アレクの激励に、再度チャッピーはゴブリンに打撃を放つ。


 スカッ


「ああっ」

「ゴブゥ‼」


 不屈の闘志で再度チャッピーにカウンターを放つゴブリン。今度は覚悟していたのか、手首を痛めることもなく、その棍棒を振りぬく。


 ガキィ


 チャッピーはその攻撃に一歩後退するが、ダメージ自体は受けていないらしく、すぐさま反撃を開始する。ゴブリンは相手を手ごわいとみたかヒットアンドアウェイ戦法に出る。


 スカッ

「ゴブゥ‼」

 ドガッ

 ドスドスドスドス

 スカッ

「ゴブゴブゴブゴブぅ」

 バキン


「長引きそうだな、こりゃ」


 その攻防の長さに、スタンが呆れたように呟く。


「駄目だよ、スタン君。ちゃんと応援しなきゃ。頑張れチャッピー」


 エリスがチャッピーに声援を送る。


「チャッピー、敵は疲れてる。よく見て仕留めるんだ」


 アレクがまるでトレーナーのように冷静に指示を下す。チャッピーも了解したとばかりに頷くと、ゴブリンへと駆け寄っていく。だが相も変わらずその打撃は空を切り、泥仕合の再開かと思われたそのときだった。


 ガシィ


 チャッピーの空振りしたかと思われた腕がゴブリンの首へと巻き付いた。何度も繰り返された攻防故だろうか、ゴブリンにも驕りがあったのだろう。容易くその岩の剛腕に捕捉されてしまった。


「ゴ、ゴブブゥ」


 ゴブリンはなんとか足掻こうとするも、頸動脈を押さえられているのか、暴れる勢いも徐々に弱まっていく。それに反してチャッピーの腕は力を増していきゴブリンの首を強く強く締め上げていった。そこからの展開はまさに予想どおりであった。

 ゴキン、と強く鈍い音と共にゴブリンの首がへし折られる。


「うへぇ」


 エリスがげんなりとした表情で、その光景を眺めていた。「やるじゃん」とスタンは口笛を吹き、アレクは黙ってうんうんと頷いている。チャッピーはダブルバイセップスのポージングを取ると、役目は終えたとばかりに地面へと潜り、一体化する。


「じゃあ、解体しようか」


 ここに来た第一目的は魔法の実施も含めた戦闘訓練だが、魔石や素材の採取もその目的に含まれる。ゴブリン二体の死骸に近づこうとしたとき、迷宮の奥より更に一匹のゴブリンが現れる。


「お、新手か。皆は疲れてるだろうし、俺が」

「姉さん、僕にやらせてください」


 アレクが俺の前に立ち、訴える。チャッピーの召喚で疲れているはずだが、目の前のアレクの呼吸は既に整えられていた。


「大丈夫か?」

「はい、魔法の訓練は大事ですが、こちらの方も実戦で慣らしておきたいんです」


 アレクはあくまでも真剣な態度であり、浮ついた様子は見られない。俺としては安全マージンを最大に取りたいが、その結果アレクたちが挑戦心を失ってしまうのもまずい。


「わかった。無理はするなよ」


 アレクはその言葉に微笑むと、今日のために持ってきたドリスソードを抜き放つ。真っ直ぐにゴブリンへと向かうと、敵も迎撃しようと大仰な素振りで威嚇を行なってくる。だが、それには取り合わず更に加速し、ゴブリンへと肉薄するアレク。


「ゴブッ‼」

「ハアッ‼」


 ゴブリンはアレクに飛び掛かると、大上段に短刀を振り下ろす。アレクは自らに振るわれる短刀を初撃にて弾くと、間髪容れず二の撃でその首を半ばから断ち切る。そして、血を噴き上げさせながら地面に倒れ伏し悶えるゴブリンの頭部にドリスソードを突き刺し、止めをさした。


「ふう」


 小さく息を吐くアレク。俺は安全面から考えて魔法を第一に教えているが、今の動きを見るに近接戦闘も問題ないかもしれない。まあ、まだ体ができていないし、焦る必要はないんだけど。


「お疲れ、怪我はない?」

「はい、問題ないです。すみません、わがまま聞いてもらって」

「大分、剣も上達したね。我流でも結構いけるもんだ」

「そう、ですね……」


 アレクは俺の言葉に頷きつつも、自分の剣技にあまり納得できていないようだ。アレクの中の理想とは程遠いのかもしれない。うーん、なんとかしてやりたいとは思うんだけど。


「よっしゃ、それじゃあ邪魔者が入らないうちに解体しようぜ」


 スタンが動きを止めた俺たち二人にそう注意を促す。ここでは、獲物の横取りなんかも平気で行われる。年長グループが通りかかったらそれこそアウトだろう。余計な争いを避けるため、俺はアレクを促し皆でゴブリンの解体作業へと急いだ。




 


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