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天眼の聖女 ~いつか導くSランク~  作者: 編理大河
パパ志願者と笑う少女
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君の名は


 それはいつもの魔法訓練を秘密基地で行なっている最中に起きた。


「おー、こいつも大分デカくなってきたなあ」


 そうスタンが感嘆の声をあげる。俺たちの目の前にはアレクが使役するゴーレムが立っていた。そのサイズは以前のような土人形とは違い、俺たちの背丈ほどもある。


「姉さん。僕も大分疲れなくなりました」


 アレクが心底嬉しそうに俺に笑いかけてきた。以前は勝手に出てきてアレクを消耗させていたが、今はそんなことはなく長時間の使役にも耐えられるほどの練度を手にしている。


「やったねえ」


 エリスもゴーレムの隆起した体をツンツンつつきながらアレクを称える。ツンツンされたゴーレムはビクンビクンとその身を震わせていた。こいつのリアクション芸は相変わらず人間くさい。

 この数か月の間にアレク、エリス、スタンの能力は更に向上した。生まれ備わったこの眼で、三人のステータスを確認する。




【アレク】

種族 :人間

性別 :男性

年齢 :11歳

HP :120

MP : 42

力  :128

防御 : 98

魔力 : 38

速さ : 91

器用さ: 78

知力 : 88

魅力 :145


加護:剣神の加護


武器適性

剣 :A

槍 :B

斧 :B

弓 :C

格闘:A

杖 :D


魔力適性

火 :E

水 :E

土 :C

風 :E




【エリス】

種族 :人間

性別 :女性

年齢 :11歳

HP : 78

MP :102

力  : 56

防御 : 42

魔力 :152

速さ : 41

器用さ: 89

知力 : 92

魅力 :177


加護:大地母神の加護


武器適性

剣 :D

槍 :E

斧 :E

弓 :C

格闘:C

杖 :B


魔力適性

火 :C

水 :B

土 :C

風 :C




【スタン】

種族 :人間

性別 :男性

年齢 :10歳

HP : 88

MP : 35

力  : 80

防御 : 55

魔力 : 55

速さ :120

器用さ:189

知力 : 82

魅力 :108


武器適性

剣 :A

槍 :B

斧 :B

弓 :A

格闘:A

杖 :B


魔力適性

火 :B

水 :B

土 :C

風 :A




 うん、皆いい感じに伸びてるな。同年代とは一線を画したスペック。もし、日本に生まれたなら特待生扱いで、神童のような扱いを受けられていたに違いない。俺は、そう思いながらアレクの剣術道場を見つけようとしたことを思い出し、深く溜息をつく。

 フィーネさんから得た資金を活用し、街中で剣術道場を探したが、スラム出身ということで受け入れてもらえなかった。硬貨を見せびらかし、なんとか入門した場所でも、スラム出身が響いたらしくまともに教えてもらえなかったらしい。結局すぐさま止め、現在にいたるがアレクは間違いなく逸材だ。どこかに優れた師匠でも落ちていないものだろうか。そう、カンフー映画ばりに達人が師匠にって、いねえよなあ。


「大丈夫? お姉ちゃん」

「うん、ちょっと考え事してただけだから」


 背も伸び、大分女性らしくなったエリスが俺を心配してくれる。やっぱ、この年代の女の子は男より発育がいい。アレクやスタンと比べても大分大人の雰囲気を醸し出している。


「あっ‼ そういえばねっ!」


 エリスが無邪気な笑みを浮かべながら、両の手をパンと叩いた。その仕草はどこまでも幼く、今し方の思案も吹き飛ばしてしまうほどに可憐だ。


「この子に名前を付けてあげたいんだ」


 その視線の先にはゴーレムがいる。ゴーレムは俺たちの視線に気づくと、恥ずかしいのかモジモジと体をくねらせる。

 確かにこの子に、いつまでも土人形やらゴーレムやら呼ぶのも少し味気ない気はする。なんだかんだいって助けられてるしね。


「名前ねえ」

「いいんじゃねえか。こいつとも結構な付き合いになるからな。それになによりエリスの……」

「のーーーーー」


 スタンが賛同しようとするが、途中エリスの名前を出したところで、エリスが大きな声でそれを遮る。


「え、エリスの……」

「のーーーーーーーーーーー」

「姉貴が言ってんだからさ」

「うん、よし」


 スタンが必死に言い直すと、エリスは満足したとばかりにうんうんと頷く。スタンが俺やアレクには姉貴、兄貴というのに、自分に言われなかったことで大分不満げだったからなあ。偶に呼び捨てされるとこうしてくどいぐらい訂正を迫るのだ。


「では、シュナイダーというのはどうでしょうか」


 アレクが早速とばかりに提案してくる。うん、いかにもカッコいい騎士っぽい名前だね。自信があるのか少しばかりその表情も得意げだ。ピクリとゴーレムもその体を震わせる。どうやら気に入ったようだ。


「バロンなんてどうよ」


 スタンもノリノリで提案してくる。飼い犬とかに名前を付けるときって結構盛り上がるもんね。バロンか、確かに悪くない。ゴーレムも腕を組みフムフムと肩を揺すらせる。


「じゃあ、俺も一つ提案だ」


 ゴーレムなら外せない名前が一つある。某ゲームでは最後まで主力で使った記憶もある。その由緒正しい名前をこいつに授けてやろうじゃないか。


「俺の一押しはゴレムだね。これは譲れん」


 まさにこれ以上はないネーミングだ。他の格好いい名前にも少しばかりピクリと反応したゴーレムであったが、ゴレムという反応には一層大きな反応をしたように思える。ゆっくりと腕を組みサイドチェストといわれるポージングを行う。うん、中々にわかってるじゃないか。

 そんな中、エリスが自信なさげに小さく呟いた。


「皆、いい名前だね。私も一応考えたんだけど。昔読んだ絵本から選んだんだけど、チャッピーってどうかなって」

「ふふ、チャッピーって、それは……」

「やっぱ駄目かなあ」


 照れ笑いするエリス。俺もつられてたまらず苦笑いをする。さすがにそれはないだろう、とゴーレムの方を見ると……。

 ガキィン‼

 その瞬間、ゴーレムは一瞬にして総身を際立たせ、ボティビルダーのごとくオリバーポーズを取る。


「へ?」

「気に入ったんですかね?」


 俺とアレクは突然の反応に首を傾げる。


「どうかな? 全員で呼びかけて反応がよかった名前をつけようぜ。おい、バロン」


 スタンがそう提案しながらバロンに呼びかける。


「……」


 だが、ゴーレムは何も答えず、ポーズを崩さない。


「シュナイダー」

「ゴレム」


 続いて俺とアレクがそう声をかけてみるが、ゴーレムは微動だにもしない。自然、視線は最後に名前を提案したエリスへと注がれる。


「え、えーと。チャッピー?」


 グワシッ‼

 オリバーポーズから瞬時にマスキュラーへとポーズを移行するゴーレム。まさにやる気マンマンといった様子だ。


「……いいのか?」


 俺はゴーレムに最終確認を迫る。せっかく他のメンズが格好いい名前を用意したというのに、よりにもよってチャッピーとは。

 俺の問いにゴーレムは少しばかりビクンと体を震わせ逡巡する。やはり、チャッピーには少しばかり引っ掛かる部分があるのだろう。


「やっぱ、気に入らなかったかな?」

 

 エリスが申し訳なさそうに、えへへと笑う。その瞬間、再びゴーレムはその身を激しく突き動かす。

 ガキィ‼


「ば、バキュームポーズ……」


 誇らしげに胸を張るかのようなそのポージングは、まさしくエリスの命名を受け入れんとするこの子の決意の表れだったのだろう。俺はもはや何も言わず、チャッピーの肩にそっと手を置く。


「わかったよ。よし、今日からお前はチャッピーだ」

「マジかよ……」

「まあ、僕はこの子が異存のないようであれば構いません」


 俺たちの視線の先ではチャッピーがエリスに対し様々なポージングを行なってみせていた。


「これからよろしくね、チャッピー」


 名前を受け入れてもらい嬉しいのだろう。エリスがチャッピーの頭を撫でてやると、チャッピーも嬉しそうにその岩の肉体を隆起させる。

 こうして、アレクの使役するゴーレムの名はチャッピーとなったのであった。




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