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天眼の聖女 ~いつか導くSランク~  作者: 編理大河
パパ志願者と笑う少女
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集う住人達


 既に吹きすさぶ風は冬のものへと変わっていた。甲高い風の音は、その冷たさを一層際立たせる。


「うぅ、さぶい。さぶすぎぃぃぃぃ」


 子供は寒さに強いはずだが、悲しいかなこの体の中身はアラフォーおっさん。故に寒風にもその感受性プラス10歳の体の鋭敏さでダブルパンチだ。到底耐えられるものではない。必死に両腕を組み、体を丸めながら屈んで歩く。


「おい、姉貴。しっかりしろよ」


 スタンが少しばかり俺のオーバーリアクションに引きながらも、そう声をかけてくる。だが、寒いものは寒いのだ。アレクやエリス、スタンと会うまでは冬は毛布にくるまり冬眠中の熊のごとく、秘密基地でジッとしていた俺だ。この寒さには到底たえられない。


「あー、リコちゃんたちだあ」


 そんな呑気な声の主は、モーラ一家の元気娘セティのものだった。


「わあい、セティちゃんだあ」

「エリスちゃあああん」


 仲良しな二人は手を取り合い、踊るようにくるくると回りながら軽くステップを踏む。子供は風の子というが、ホンに元気じゃのう。


「エリスちゃんたちも炊き出しに?」

「うん、まだ来てないみたいだけど」


 二人は微笑みながら、頷き合う。

 そう、俺たちはいつものように炊き出し場所へと向かっていた。実のところ、フィーネさんと正式にビジネスパートナーとなり、相当の金を継続的に得ている俺たちは別段もう炊き出しなどに行かなくても食っていける。だが、一時行かなくなった際、何かあったのかとモーラたちに心配されてしまってからは再び顔を出すようにしていた。エリスもセティと会えるから行きたいと言っていたし、近所づきあいの一環としても悪くないので定期的に顔を出すことにしている。


「おう、アレク。久しぶりだな。元気かあ」

「うん、皆元気だよギギ」


 遅れて同じグループのギギたちが小さな子供たちを引き連れやってきた。モーラとクリスはいないようだ。

 アレクとギギも仲がいい。ギギは常日頃剣聖になると豪語している少年で、「日がな一日棒きれを振り回しているのよ」とため息まじりに同じグループのアンナに愚痴られている。なので、同好の士としてアレクとは気が合うらしい。

 でも、俺の眼で見たギギの剣の適性はEだ。槍や斧はBだし、進言してあげたほうがいいか悩みどころである。だけど、さりげなくアレクにそれを伝えると、「僕はギギの剣は強くなれると思いますけど」と首を傾げられてしまった。剣についてはアレクの方が上だから、何も言えなかったが剣神の加護とやらを持っているアレクにしかわからない何かがあるのかもしれない。


「こっちも全員元気よ。それにしても寒くなってきたわね」


 ギギの隣のアンナがギギに代わってそう答える。なんでもアンナはギギと同じ孤児院の出身ということで、いつも一緒にいることが多い。よくギギが馬鹿をやってアンナに殴られていることも多いが、それも仲の良さの表れなのだろう。


「モーラたちは?」

「ああ、モーラとクリスは新しい居住者の受け入れを手伝ってあげてるわ。小さい子供たちだけのグループでね。大変だろうからって。だから私たちがちびっ子たちを炊き出しに連れてきたの」

「そっか。大変だな」


 俺の知らないところでモーラも結構やり合っているようだ。気付くとブイブイ言わせていた青年たちのグループがこの近辺では大分少なくなり、いつしかモーラがここ一辺の代表のように扱われている。あの若さでよくそんなことが出来るものだと、転生者の俺としては感心するばかりだ。だけど悪目立ちしすぎると当然リスクもある。心配性な凡人の俺としては、それが少しばかり気掛かりだ。


「あー、エリスちゃんやセティちゃんたちだっ。やっぱりいたー」


 そうしていると、明るい声が遠くから響き渡る。声のする方へ視線を向けると、栗色の髪の小さな女の子と、細身ながらよく鍛えられた体つきの長身の少年の二人組がこちらへと近づいてきていた。少年の方は長い槍を背負っているのが遠目からもわかる。この二人は、最近ここに移り住んできた新顔だ。


「マノンちゃんだ、おはよー」

「マー君もいるねっ」


 セティのその声に、マー君と呼ばれた少年は眉間に皺を寄せる。


「マー君は止めろ」


 声変りを済ませた低い声で、淡々とセティを諫める少年。その険しさと圧から、隣の幼女がいなければ絶対に自分からは近づくことはない類の人物だろう。その腕っぷしの強さはここにきて早々、あっという間にゴロツキ数人を瞬殺して証明されている。それにステータス自身も年齢に似つかわしくない高さで、何故こんなところにいるのかすら分からない人物だ。俺は改めてそのステータスを眼で確認する。




【マークス】

種族 :人間

性別 :男性

年齢 :14歳

HP :243

MP : 44

力  :238

防御 :198

魔力 : 32

速さ :242

器用さ:178

知力 :163

魅力 :212


武器適性

剣 :B

槍 :S

斧 :B

弓 :C

格闘:A

杖 :D


魔力適性

火 :D

水 :D

土 :D

風 :D




 既にAランク冒険者に匹敵する能力値だ。しかも槍の適性がSとか主人公かよと見るたびに思わされる。前衛系でマークスより高いステータスは今のところ俺は二人しか知らない。マークスも自分の強さに自信があるからだろう、よくモーラたちのグループにマノンを預けて、数日間王都の外れの実入りのいい迷宮にソロで遠征に行っているらしい。その関係からマノンはモーラグループの子供たちと仲が良く、セティもマークスに臆さず話しかけている。セティ曰く照れ屋だけど良い人だそうだ。


「あ、マークスさん。今度王都の迷宮の話を聞かせてくださいよ」

「僕も聞いてみたいな。マークスさんの冒険」


 そんなマークスに憧れをもっているのか、アレクやギギもマークスをリスペクトしているらしい。体育会系的気質というのだろうか。俺はインドア派だし、スタンもあまり興味はないのか別段マークスには絡まないが。


「ふん、気が向いたらな」


 素っ気なく言い放つマークス。マノンを預けている関係上、無下にはしないがあまり人と積極的に関わろうとはしない男だ。


「でも、マークスも無理しちゃだめよ。マノンはウチではいっつも心配しているのよ」

「ううん、いいのアンナちゃん。夫を待つのは妻のやくめだもん」

「それは止めろと言っているだろ」


 両手で頬を挟みながら、うっとりとしているマノン。それを聞いたマークスは更に眉間に皺を寄せる。ただでさえ鋭い眼光が更に強くなるが、怒るまではしない。

 うーん、あまり詳しくは知らないし詮索する気はないが、この二人の関係は少しばかり気になるなあ。あ、そういえばおませなこの子のステータスは確認していなかったな。




【マノン】

種族 :人間

性別 :女性

年齢 : 6歳

HP : 14

MP : 32

力  :  9

防御 :  8

魔力 : 24

早さ : 17

器用さ: 37

知力 : 40

魅力 : 42


加護:闘神の加護


武器適性

剣 :D

槍 :D

斧 :D

弓 :A

格闘:D

杖 :B


魔力適性

火 :C

水 :B

土 :C

風 :B




 おおっと、この子も加護持ちか。アンナも法神の加護があるらしいし、二人共エリス同様神の愛し子と呼ばれる子供たちなのかもしれない。もし、俺がその事実を伝え二人がそれぞれの神に祈るなら、エリス同様神殿での修練なしに加護を授かるのだろうか。でも、授かれなかった場合ぬか喜びさせてしまうし、俺の眼のこともある程度説明しなければならないだろう。まだ、そういうのは保留にしておいた方がいいな。


「でも、マー君と一緒にくるなんて珍しいねマノンちゃん」

「うん、ここに来れば皆に会えると思って。だからマー君にお願いして連れてきてもらったの」

「お前がついてこないなら一人で行くっていうからだろうが」


 マノンも皆に会いたくて、炊き出しにきたらしい。ここ近辺は治安がよくなっているとはいえ、六歳の女の子一人では確かに危険だろう。まあ、王都の迷宮に遠征しているマークスなら余裕で生活費ぐらいは稼いでいるに違いない。それなのにわざわざここに住んでいるのはマノンがいるからだろう。なんだかんだいって根は善良な男なんだな、きっと。怖いから苦手だけど。


「お、またお客さんが来るぜ。あれは……アゼルさんたちのグループだな」


 目のいいスタンが、額に手をあてこちらにやってくるグループを確認する。アゼルさんたちのグループもマークスたち同様、新たな移住組だ。

 まだ顔も視認できないが、アゼルさんのところのグループと聞いて俺は興味を惹かれ、そのグループがやってくるのをジッと眺める。あそこにはマークスと同じくらい注目の人物が一人いるのだ。やがて、やってきてこちらに手を振る熊のような大男の後ろで、その背に隠れるようにしておずおずと歩く黒髪の少年の姿が見えてきた。





 


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