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天眼の聖女 ~いつか導くSランク~  作者: 編理大河
ポンコツ家長とスリ少年
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ハッピーバースデイ


「誕生日おめでとう。アレク、エリス」


 なんと今日はアレクとエリスの誕生日なのだ。二人共今日で十一歳になる。夕食に我が家で二人の誕生日パーティーを開くことにしたのだ。テーブルを囲み、二人をお祝いする。


「二人共おめでとさん」


 スタンもサラッと二人に言う。スタンはあの後も変わらずウチにいて、アレクやエリスとも問題なく接している。少しばかりギクシャクするかと思ったがそんなことはなかった。やっぱ、子供故の適応力かな。


「ありがとーお姉ちゃん、スタン君」

「わざわざありがとうございます」


 誕生日を迎えた二人は照れ臭そうに笑った。日に日に成長しているようで、その顔立ちは会った頃より大人に近づいているように見える。


「でも、誕生日なんて久しぶりだね」

「そうだね、父さんが生きてた頃は祝ってくれてたけど」


 二人は顔を見合わせ微笑む。だが、そこには少しばかり寂しそうな様子も見て取れる。今、その二人の誕生日を祝ってくれていた母親は少し離れた富裕な商人街で、別の家庭を営んでいるのだ。狭量な義父でさえなければ、二人も今頃平穏な普通の兄妹として生きていけただろう。

 いかん、辛気臭くなってしまった。ここは一つ歌を歌って盛り上げなければ。


「じゃあ、二人の誕生日を祝って、一曲歌いますっ! ハッピーバースデートゥーユー、ハッピバースデートゥーユー」


 歌い終えると、エリスが勢いよく拍手してくれる。


「ありがとー。でも、面白い歌だね」


 あっ、そっか。ここ、異世界だしこのバースデーソングは一般的ではないのか。


「あんま、上手くないな」

「うるせー」


 スタンに駄目だしされる。基本センスや感性は前世から引き継いでしまってるらしく、こっちでもそっち方面の才能は乏しいとの自覚はあった。カラオケとか絶対に行きたくない人間だったからね。


「でも、こうして色々祝ってもらえるというのは、とても嬉しいことですね」

「うん。生まれてきておめでとう、ありがとうって人から祝福されるのって素敵」


 そうだな。人生は辛いし過酷だけど、でもそれだからこそ大事な人を祝福したいと想うのだろう。まあ、誕生日を祝うのはそれほど古い風習ではないらしいけど、この世界では一般人でも祝う風習がある。なんでも大昔に全世界を統べた統一帝と呼ばれる偉大な皇帝が、誕生日を祝う風習を根付かせたらしい。この前、買った歴史の本にそう書いてあった。やるね統一帝。


「それじゃあ、ご飯にしようか。今日はご馳走にしたから」


 誕生日といったらご馳走だ。フィーネさんにあの後も色々とアイデアや商品を提言し、少なくない追加報酬を貰っている。なので、金には余裕がある。だから、今後の研究開発も兼ねて多くの料理を作った。


「わぁい!」

「姉さんは料理の達人ですからね。楽しみです」

「確かにそれだけは認めざるを得ないな。数少ない取り柄ってやつだな」


 皆も喜んでくれる。うん、やっぱ他人のために作る料理は作り甲斐があるな。


「でも、凄く面白い料理だね」

「うん、見たことないな」


 テーブルの上には、ショートケーキやポテトサラダ、ハンバーグに少しグレードの高いバゲットのようなパンといった食事が並ぶ。得た報酬を惜しみなく使い、生クリームやマヨネーズを作ることに成功していた俺は今日、その成果を惜しみなく披露することにしたのだ。


「味は保証するよ。さあ、食べてみて」

「それじゃあ、いただきまーす」


 エリスがショートケーキを木のフォークで切り分け、口へと運ぶ。頬張った瞬間、目を輝かせ握ったフォークをせわしなくブンブンと上下に揺らす。


「何コレ⁉ すっごく幸せな味がする」


 ふふ、喜んでくれて何よりだ。女の子は甘いものが好きっていうしね。それに誕生日といったらケーキだから、なんとしてでも作りたかった。魔力が枯渇するほどに風魔法を使い、牛乳を分離させなんとか生クリームを製造できたときはガチで泣いた。まさにやればできるは魔法の言葉だ。欲を言えばイチゴが欲しかったけど、さすがになかったので他の果物で代用しているが、酸味のある果肉が上手く生クリームと調和している。砂糖は値が張るけど今日ばかりは奮発した。エリスも喜んでくれたし、頑張ってよかった。


「コイツもいけるな」


 スタンがポテサラを食べて目を細める。マヨネーズも試行錯誤の末、こちらの卵や酢を何種類か試し、失敗を重ねながらなんとか作成に成功したものだ。前世で作った経験があったのもよかった。十分美味いと思えるが、まだ市販の味には程遠い。これは研鑽が必要だな。


「では、僕はこれを」


 アレクがハンバーグをフォークで刺し、口へと運ぶ。ふふ、何気にこれが一番自信作だ。肉を風魔法で挽肉とし、同様にみじん切りにした玉ねぎと混ぜ合わせた、パン粉をつなぎにし塩のみで味付けをした単調なものだが、だからこそ単純に美味い。欲をいえば胡椒が欲しかったがさすがに、っておおおおおおおおお‼


「あ、アレク?」

「うおぅ、なんだッ⁉ キメエ」

「うわっ、お兄ちゃん。顔が垂れてるっ⁉」


 ハンバーグを頬張った瞬間、アレクの顔が垂れた。それはもう見事に。怜悧な美貌の美少年の顔が、だらりと垂れるのは少しばかり、いや大分気持ち悪い。ゆるキャラみたいになってんぞ。


「姉しゃん、これは素晴らしいでふね」


 口の中でハンバーグを咀嚼しながら、アレクの顔がなお溶けていく。ひええ、心なしかキャラまで崩壊しているよ。


「こっち、見んな。気持ち悪いんだよッ‼」


 スタンが心底気持ち悪そうに叫ぶ。心なしか怯えているようだ。普段はおっとりと笑顔のエリスも、珍獣を目にしたかのように真顔でアレクを凝視している。アレクはそんな二人に構わずに、リスのようにハンバーグをモシャモシャと平らげていく。そして、フォークが空の皿をつついた時、衝撃を受けたかのような表情と共にアレクの顔がもとへと戻った。ここまでいくともうギャグだな。


「……姉さん」

「な、なに?」

「ハンバーグ、次の誕生日にも作ってくださいますか」


 悲壮に満ちた顔で、空の皿を見つめるアレク。そんなに気に入ったのか。


「別に材料さえ揃えば、誕生日といわずとも作ってあげるよ」


 その言葉にペカーと満面の笑顔となるアレク。幸いハンバーグを頬張っていないためか、顔は元のままだ。若干キャラは崩壊してるけど。まあ、気に入ってもらえたのなら何よりだ。




 その後も和気藹々と誕生日パーティーは進んだ。アレクにナイフを、エリスにリボンをプレゼントをすると二人はとても喜んでくれた。来年もまた盛大に祝ってやろう。この調子でなら次は一般街で楽しく過ごせてるかもしれない。頑張らないとな。

  



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― 新着の感想 ―
[一言] リコの大先輩クサイ。他にも先輩は居そう紙を流行らしたのはどうかなぁ~(食料が十分でないのに紙が流行るかなぁ権力か!?)。 〉まあ、誕生日を祝うのはそれほど古い風習ではないらしいけど、この世界…
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